11 〜王都ミッテ・ツェントルム~
※主人公ユリウスは、故あって偽名シンを名乗っております。 地の文がユリウス、会話がシンなどという状況が頻繁に現れます。 混乱させて恐縮ですが【ユリウス=(イコール)シン】という事でよろしくお願いします。
──────前回までのあらすじ─────
冒険者を夢見る元賢者のユリウスと、人間の美少女にしか見えないチタニウム・ゴーレムのメナスは、商人の馬車に同乗して王都へと向かう途中、家出娘のフィオナと合流する。 王都に着く直前、一行は給水のため寄った湧き水で巨大なワニに遭遇するも、それをユリウスと全裸の幼女が何とか撃退する。
ヴェルトラウム大陸の中央を南北に走り、人の勢力圏を事実上東西に分断しているザントシュタイン山脈。
ツェントルム王国の首都、王都ミッテ・ツェントルムは、その西側中央付近の山の麓に位置していた。
中央には高い城壁に囲まれた王城が聳え、その東側には山脈の雪解け水が流れ込んで出来た大きな湖が広がっていた。
それらを『C』の字型に包むように城下の街並みが広がっている。
その城下町の外周を馬蹄形にぐるりと城壁が囲んでおり、その両端は岩山まで繋がっていた。
東側の切り立った岩山は難攻不落の自然の防壁となり、大陸の東に勢力を拡大しつつある帝国の侵攻を阻んできた。
ユリウスたちは商人の馬車に乗せてもらい北側外門の関所を通過した。 長年信用のあるコーレの通行手形のお陰で、長い入国審査の列をパス出来たのはラッキーだった。
「冒険者ギルドは目抜き通りの中ほどにありますよ。 もし宿を探すなら、予算次第ですがスラムの安宿はあまりオススメしませんね」
商人のコーレが親切に助言をしてくれた。
「ここまでありがとうございます、とても助かりました」
ユリウスはコーレに5枚の大銀貨を手渡した。
「これは…… 約束は2枚の筈ですが?」
「彼女の分と、後は美味しい食事の分ですよ」
「そうですか…… それでは有難く頂戴しておきます」
「元気でね…… 元気でね……」
商人の妻が名残惜しそうにメナスとフィオナの体をさすっていた。
「それでは私たちはこれで。 またご縁がありましたらお会いしましょう」
こうしてユリウスたちは商人夫婦と別れた。
「王都も随分久し振りだな。 どれくらい変わったか?」
「シンさんは前に来たコトがあるんですね?」
「あ、あぁ…… 前に少しね」
当然のように同行しているフィオナが尋ねる。
「お兄ちゃん、これでも優秀な学生で以前は王都で勉強してたんですよ」
すかさずメナスがフォローを入れる。 嘘は一応言っていない。
「そうだったんだ〜 すごいんですね」
王都どころか、初めて村を出たフィオナは見るもの全てが新鮮だったようだ。
「それにしても人がいっぱいですね〜 大きななお店がこんなにたくさん…… それに建物がみんな高い!」
口を大きく開け瞳を輝かせて回りをキョロキョロ見上げている様は、可愛らしいがどこからどう見ても田舎者まる出しだった。
この娘を独りにしたら今夜中にはどうにかなってしまうのがありありと想像出来た。
余計な事に、昼間見た彼女のまぶしい姿が脳裏に蘇る。
どうやら気持ちいい寝覚めのためにも、このまましばらく彼女と一緒に行動するのは避けられないようだ。
「あっ羊肉の串焼きだ! 買ってきてもいいですか?」
旨そうな肉の焼ける匂いが露店から漂ってくる。 昼時ではないが、そろそろ小腹が減ってくる頃なのか短い列が出来ていた。
「じゃあ、ついでに3本頼むよ」
フィオナの手に銅貨を数枚手渡した。
「いいんですか〜⁈」
「ちょうど小腹が空いてたしね」
フィオナが満面の笑みを浮かべた。
彼女が露店に並んでいる間、鞄から黒いチョーカーを二つ取り出して一本をメナスに手渡す。
「今のうちにこれを首に付けておけ」
「なんですコレ? 結婚10年目のプレゼントってワケじゃなさそうだし」
「そもそもお前と結婚した事実がない!」
「これはギルドの審査を誤魔化せる魔導具だ。 そのまんまのパラメーターが表示されると、とくにお前は大変な事になるからな」
「なるほど、どうやってパスするつもりかと思ってましたが…… こういうズルかあったんですか」
「いちいちうるさいな。 まるで悪いコトしてるみたいじゃないか」
「悪いコトじゃないと?」
「……」
「オレのは魔力と知性のパラメーターが人並みになるように設定してある」
「ほうほう」
「お前のはもっと大変で、人間としてちゃんと反応するように調整した上で、この体型で無理のない範囲でお前のパラメーターを抑えて表示するように調整したんだ」
「へぇ〜 よくそんなのすぐに用意出来ましたね」
「うん、実は何かの時のためにとミュラーが作っておいてくれたんだ」
三賢人のひとり錬金術師ミュラーは【魔法遺物】の権威でもあり、このチタニウム・ゴーレムの少女の身体を作った生みの親だ。
「なぁんだ」
そう言うながらもチョーカーを首に巻くメナスの姿は、どこか嬉しそうに…… そうユリウスには見えた。
三人でフィオナの買ってきた羊肉の串焼きにかぶりつく。 焼きたてなので口の中に熱い肉汁が溢れ出した。
「はふはふはふ…… あちゅ…… おいひ〜♪」
フィオナが子供のような無邪気な笑顔で肉を頬張る。 見ているこっちまで幸せな気持ちになるようなそんな笑顔だ。
「うん、旨いな」
「うまいです」
「でしょ〜 わたし二本買ってくればよかったなぁ〜」
「またくればいいさ」
「その時はまた三人いっしょですよ?」
「ん、一人に買い物を頼んだらいけないのか?」
「いっしょに来たから焼きたてが美味しいんじゃないですか!」
「そんなもんか」
「そんなもんです!」
何故かどさくさに紛れて、フィオナはユリウスの左腕を両手で掴んで抱き寄せた。
布一枚越しに彼女のやわらかい体を感じる。
右側を歩くメナスの視線が痛かった。
──────────
冒険者ギルドの場所はすぐにわかった。
王都を南北に走る街の中心街、通称『目抜き通り』のほぼ真ん中。 王城がすぐ側に見えるいわゆるオフィス街だった。
「ここが…… 冒険者ギルド」
石造りの四階建ての大きな建物をフィオナは見上げる。
一階は各種受付の他に喫茶店もあり冒険者たちの情報交換の場となっている。
二階から上は事務的な機能を持つ各部門の他、高位の冒険者に貸し出す宿などもあるようだった。 ギルドを護る用心棒の冒険者が住んでいる、と言い換えても問題ないのかも知れない。
「わたし…… 適性検査に合格しなかったら…… どうしよう?」
フィオナが緊張した面持ちで胸を押さえて呟いた。
「大丈夫だろ。 よっぽどのヤツじゃない限り適性検査自体では落とさないって聞いたコトがある。 才能がないヤツは、辺に未練が残らないようにその後の実技試験で諦めさせるって方針だとか」
「そうなんだ。 それ聞いたら、それはそれで緊張してきちゃったな」
「いつまでもこうしてたってしょうがない、行くぞ」
ユリウスが剣と盾の紋章が刻まれた大きな金属製の扉に手をかける。
三人は待望の冒険者への道へ第一歩を踏み入れた。
ようやく冒険者ギルドに辿り着いたユリウスたち一行は、待望の冒険者・職業適性検査を受ける!
─────次回予告─────
第12話 〜冒険者ギルドの職業適性検査~
乞うご期待!
※本日も日曜日なので、2度更新してみました。
と言うか、王都の目抜き通りを歩いただけで1話終わってしまったので……(汗)




