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絶望の賢者とタイタンの幼女  作者: 椿四十郎
『小麦畑と蒸気機関』
102/111

102 ~ギルドからのクエスト〜

ご無沙汰しております

ここ一週間は一文字も書けませんでした

そのうち週一の更新も難しくなるかも知れません

でも気負うと書けなくなっちゃうので気楽にいきたいです


 ルシオラは夢を見ていた。

夢の中で彼女は、実家であるスキエンティア子爵の邸宅にいた。 家族は記憶のまま── 彼女が10歳で家を出た当時のままの姿なのに、自分は今の年齢、現在の姿だ。 だがこれは夢の中では珍しい事ではないだろう。


 彼女の父親、ベン・イグニス・スキエンティア子爵は当時50代…… 勇敢さと知性とを併せ持つ歴戦の指揮官のような人物だった。 実際、王国西方では2〜30年前には紛争も多かったと言う。 末子の彼女にとって父親とは、寡黙で厳格…… どこか近寄り難い雰囲気の遠い存在だった。 実際彼女は父親に甘えた記憶がほとんどない。


 ルシオラが生まれる前に早逝したと言う長兄の姿はない。 次兄のフォルティスは、ルシオラの二つ上。 気弱で剣の腕はからっきしだが、聡明で優しい大好きなお兄ちゃんだった。 今頃彼はスキエンティアの家督を継ぐべく勉強をしている筈だ…… それとももう、彼がスキエンティア子爵になっているのか── 少なくともルシオラの耳にそう言う噂は入っていなかった。


 武術よりも芸術や算術が得意な兄だった。 彼は当時の── 12歳の姿のまま屈託のない笑顔でルシオラに笑いかけてくれる。


 当時既に嫁いでいた二人の姉のうち、長女のヴァナトリアはほとんど顔も覚えていない。 仲の良かった次女のリベルラは14歳くらいの姿だ。 やはり緩やかなウェーブのかかった金髪と碧い瞳の美しい少女だ。


 その次女が14歳で男爵家に嫁いだ頃、ルシオラに修道院行きの話が持ち上がった。 少女の心に政略結婚の道具にはなりたくないという気持ちが強く湧き上がったのは偶然ではないだろう。


 母親はマリクィータ。 聡明で美しく、金髪も碧い瞳も…… その豊かな胸も母親譲りのものだった。 伯爵家令嬢だった彼女は、当時若くして武勲を挙げ続けていた父に褒美のように与えられたとも、本人が望んで嫁いできたともいう噂をメイドたちの会話から耳にした事がある。 真偽の程は分からない。 しかしルシオラの知る限り父親には妾などはいない。 兄弟全て同じ母親というのは貴族としては珍しい事だと、修道院に入ってから彼女は知った。 どこか物憂げで近寄り難い雰囲気を纏っていたが、末子の彼女には優しい母親だった。


 子爵邸の居間に家族が揃い、憩いの時間を過ごしている── 彼女の記憶では現実にはあまり無かった光景だ。 兄と姉が当時のままの姿で仕切りに話しかけてくれるが、何を言っているかよく分からない。 戸惑いながら顔を上げると、ソファーに座る父親と目が合った。 彼の瞳は、どこか寂しげで冷たい印象だ。


 彼女の胸にちくりと小さな棘が刺さる。


 それは、家族を裏切って── 子爵家令嬢としての責任を放棄して家を飛び出したという、彼女の罪悪感なのかも知れなかった。


 その時父親が、思いもよらず両腕を広げて微笑んだ。 その目が「こちらにおいで」と語りかけてくる。 ルシオラは、いつの間にか10歳の少女の姿になって戸惑っていた。


 そこで彼女は目が覚めた。


 気が付くと彼女は【砂岩の蹄鉄亭】のユリウスの部屋の寝台にいた。 横には愛しい三賢人のひとりが疲れて寝息を立てている。 今日は(正確には昨夜は)彼女が『幸せの当番』の日だったのだ。


 昨夜も激しい夜だった。 清楚で知的な彼女のその(・・)行為は、控えめに言って(ケダモノ)のようだと言うことを本人はまだ知らない。 貴族令嬢で修道院育ちという経歴を持つ彼女が、偏った歪な性知識しか持ち合わせていなかったのは無理もない。


 なんであんな夢を見たんだろう── ルシオラは考える。


 クラプロス男爵亭での夜食会は楽しかった。 あそこには、まるで家族のような雰囲気がある。 フィオナやキアラの家族の話に触れたのも関係があるのかも知れない。 勝手に籍を入れて妹にしてしまったシャウアの事も、ずっと頭の片隅に引っかかっていた。 しかし、なんと言っても自身の婚約が一番大きな要素かも知れなかった。


 ルシオラが身を起こすと、豊かに実った乳房が重そうに揺れる。 濡れた手拭いで身体を拭いているうちにユリウスが目を覚ました。


「おはよう、ルシオラ」


 急に背後から声をかけられ、ルシオラは思わず両腕で胸を覆う仕草をしてしまう。


「お、おはようございます…… ユリウスさま」


 しかし何をいまさらと思い直し振り返って腕を下ろすと、持ち上げられていたたっぷりの脂肪がふるんっとこぼれて弾んだ。 そのまま覆い被さるように唇を重ねると、しばらくしてユリウスも身を起こした。


「それじゃあ、皆んなにも声をかけて朝食にするか……」

「……そうですわね」


 少しだけ名残惜しそうにルシオラが微笑む。


──────────


【砂岩の蹄鉄亭】に併設されている食堂でキアラとラウラを加えた六人で朝食をとっていると、ちょうどそこに冒険者ギルドからの呼び出しの伝令が届いた。 


「いよいよか」

「いよいよだねー」

「意外に早かったよね〜」


 おそらくそれは例の事件に関わるクエストの依頼だろうと、誰もが確信していた。


「キアラ、本当にこのまま冒険者をやっててもいいのか? インドゥストリの工房の仕事は休暇を取ってるだけなんだろ」

「もちろん。 私がお祖父様のことをお願いに来たんだもの、今回の件が片付くまでは最後まで見届けるつもり…… 工房の親方には長くなるかもって言ってきたしね」

「そっか、そういえばキアラさん、マナ…… なんとかの工房で働いてるんだよね」

魔素機関(マナ・エンジン)ね」と、これはラウラだ。


「そう言うラウラも、このまま俺たちのパーティーに加入するってコトでいいのか? 改めて確認を取ってなかったけど……」

「もちろんです! 私、そのために冒険者になったんですもの。 それにキアラさんの事情を聞いては、もう知らないフリなんか出来ませんわ」

「ありがとう、ラウラ」


 目を見合わせて微笑むふたりを、ユリウスたちも温かい目で見守っていた。


 これで前衛に僧兵(モンク)(サムライ)、中衛に盗賊(シーフ)司祭(ビショップ)、後衛に魔術士がふたり…… ユリウスたちのパーティーは、かなりの戦力強化を果たしたと言えるだろう。 


 もっとも、額面通りではない規格外(・・・)な人物が何人も混じっているのだが。



 一行が冒険者ギルドを訪れ、お馴染みの応接室に通されると、ユリウスたちの予想はあっさりと覆された。


「皆さんのパーティーには、インドゥストリとハンデルに行って、例の小型ゴーレムの出所を調査してきて欲しいのです」


 ギルドのチーフ・オフィサー、マルモアは申し訳なさそうに声をひそめた。 今日はギルドマスターのエルツは不在のようだった。


「私たちはてっきり── 蜂型ゴーレムの出没地帯の捜索か【彷徨える魔獣(ストレンジャー)】関係のクエストになるかと思っていたのですが……」


 銀縁の丸メガネを指先で抑えながらルシオラが疑問を口にする。 パーティーの一同も意外そうに顔を見合わせた。


「もちろんその予定もあったのですが…… 実は激減しているんです。 蜂型ゴーレムの目撃も…… 【彷徨える魔獣】の発生も」

「そうなんですか⁈」


 それは盲点だった。 それ自体は喜ばしい事である。 しかし、ユリウスは予測して然るべきだったかも知れない…… 一連の事件に関わる人物の目的が【賢者の石】であるならば、もう蜂型ゴーレムに探索させるフェーズは終了しているのかも知れないのだ。


「このまま事態が収束するならそれに越した事は無いんですが……」

「そうは思えない、という事ですね?」

「最悪の事態は、常に想定しておくべきかと思います」


 マルモアはハンカチを取り出して額の汗を拭った。


「幸いキアラさんは、つい先日までインドゥストリの工房に勤めていらっしゃったそうですし…… 土地勘も、その手の職人にもツテがある──」

「確かに適任かも知れませんね」

「ユ…… シン!」


 キアラが咎めるようにユリウスを見つめた。 確かに、この任務自体は全くの徒労に終わるかも知れない。 ギルドは、この事態が今後どうなるにせよ、首謀者の正体は突き止めておくべきだと言う結論に達したのだろう。 


 ユリウスたちの現時点での最優先事項は、ミュラー師の居所を見つけ出す事だ。 だがそれをギルドに伝える事は今はまだ出来ない。


 たとえ徒労に終わるとしても、この任務を受けるメリットは二つあった。


 ひとつは、王都周辺の探索ではもう手詰まりとなったミュラー師の行方の情報。


 もうひとつは、敵の目から【賢者の石】を一時的にでも遠ざける事が出来るかも知れない……


「今回は、ギルドの所有する馬車を提供させて頂きます。 必要なら御者の者も」

「期間はどのくらいですか? 成果が無くても、ある程度の報酬は保証されるのですよね」

「もちろんです。 期間は2週間ぐらいを目安に…… 成果が無くても報告に戻って頂きます。 もちろん報酬もご用意させて頂きますので」


 ユリウスは一同の顔を見回した。 目を合わせるだけで皆、何かを察してくれているようだった。 


「ん〜 2週間かぁ…… けっこう長いねぇ〜」


 ──フィオナを除いては。


「わかりました、引き受けさせて頂きます。 御者は必要ありません、私とメナスが交代でやりますから」

「あ、御者なら私も出来るよ」と、これはキアラだ。 おそらく教えれば、身体能力A+のフィオナもすぐ出来るようになるだろう。


「ありがとうございます」


 マルモアが安心したようにソファーの背もたれに体重を預けた。


「ところで、他のパーティーには何を依頼しているんですか? もし差し障りがなければ……」

「はい、一応蜂の目撃情報や【彷徨える魔獣】の情報収集も頼んではおります。 ですがこれは、事情を知らない者にも頼める事ですので」

「そういえば【エンジェル・ファング】さんたちは? この件にかかわってるの〜」


 フィオナが無邪気に質問する。


「あぁ、彼女たちは今…… 【試練の洞窟】の再調査をお願いしておりますね」

「えぇ〜 またあそこ〜⁈」


 そうなのである。 以前彼女たちは、ユリウスたちが遭遇した【タイラント・アリゲーター】の捜索、討伐のために【試練の洞窟】を訪れていた。 そして今回、奇しくもユリウスたちが見つけた外来種と思われる【腐肉喰らい(スカベンジャー)】発見によって、あの洞窟が【ドワーフの大洞窟(グレート・ダンジョン)】に繋がっている可能性を調査するため駆り出されているのだった。


「なんかいつも、わたしたちの後始末たのんでるみたいでもうしわけないよね……」

「 【ドワーフの大洞窟】の件は、国家の機密に属する事なのでどうかご内密に……」


 マルモアは少しだけ身を乗り出すと、声をひそめて囁いた。


 細かい打ち合わせを終えて、ユリウスたちがギルド本部を出る頃には、すっかり陽が傾いていた。 出発は3日後…… 明日明後日で長旅の準備を整えなくてはいけない。


 もちろん、ミュラー師の行方を探す方法も思案しなければならないし── ()の襲撃にも備える必要があるだろう。


 【砂岩の蹄鉄亭】に戻るユリウスたちの足取りは決して軽くはなかった。


「なんか旅行に行くみたいでワクワクするね〜」


 ──フィオナを除いては。


あとストックは推敲前の二つくらいです

ちょっと厳しいですね

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