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絶望の賢者とタイタンの幼女  作者: 椿四十郎
『脅威と言う名の少女』
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1 プロローグ ~仄暗い絶望の底から〜

 初めまして、椿四十郎と申します。 以後お見知り置きのほど。 恥ずかしながらの人生初小説です。 どうにも文章がくどくなりがちなのを何とかしたいと思うのですが、最初のプロローグということもあって文体が少し(?)硬くなってしまいました。 2話目も少しこんな感じを引きずりますが、3話目あたりから日常会話が主体になる予定ですのでそこまで見捨てないで目を通して頂けると有り難いです。 それではよろしくお願いします。


1 プロローグ ~仄暗い絶望の底から〜



 いくつもの夜が明け、そしていくつもの陽が昇っていった……


 暗く狭い石造りの部屋に大きめの寝台がひとつ。 寝台の傍に背もたれのない小さな木の椅子がひとつ。 寝台の枕元には引き出しのついた小さなサイドチェストがひとつ。

 石材むき出しの階段が壁に沿って組まれ、地上へ続く木の扉が天井付近に取り付けられている。


 他には特に何も無い地下の石室にその男はいた。


 窓などもちろん無く、燭台はあるが明かりひとつ灯っていない。 灯す気もない。


 ただ天井に()め込まれた大きな水晶が外界の太陽光を増幅・反射する仕組みになっていて、昼か夜かは朧げに意識する事が出来た。 今はどうやら夜中のようだった。


 その男はもう何年もの間、ここにこうして何もせず横たわっていた。


 彼には食事や排泄は必要無かった。

と言っても吸血鬼(アンデッド)という訳ではない。 体内の魔素(マナ)をコントロールして大気中や周囲から必要な栄養素を取り込み同時に老廃物を排出させる── 東方の国の仙人(ハーミット)と呼ばれる求道師たちの【霞を食む】という技術(スキル)を見よう見マネで習得したものだ。


 同様に彼にとっては床擦れも筋肉の衰えも無用の心配であった。 魔素の流れを無意識にコントロールし筋繊維の萎縮や組織の壊死なども防ぐ事が出来た。 体内に入った細菌や毒素すら浄化出来るのだ。


 男の年齢は確か39歳くらいだったと本人は記憶している。 灰色の髪も髭も伸ばし放題でどんよりと濁った灰色の瞳は── 見ようによっては40代に見えなくもない。 しかし肉体年齢は20代半ばで通用するくらい皮肉なまでに健康だった。


 彼の名はユリウス・ハインリヒ・クラプロスという。


稀代の天才魔導師だった。


 若くして大陸の三賢人に数えられ、平民の出でありながら大陸最大国家ツェントルム王国での地位と名声を欲しいままにした。

 さらに一代爵位として、ハインリヒ・クラプロスの姓を国王陛下から賜った。

 王宮魔導師として潤沢な予算を使い自由に研究に打ち込む権利さえ与えられていたのだ。


その彼が何故このようになったのか……


 時は約7年前に遡る───


 彼には二人の師がいた。

一人は、ウィリアム・グレゴール。

ツェントルム王国の最大宗教の最高司祭で三賢人の一人。

 もう一人は、ミュラー・フォン・ライヒェンシュタイン。

ツェントルム王国の宮廷錬金術師で、やはり三賢人の一人だった。


『神智学』と『錬金術』──  本来は対立関係にある筈の両者を、共通の弟子で共通の友人でもある若いユリウスが結びつけ奇跡のような時間を生んだ。


 三人は互いの専門分野に忌憚(きたん)の無い意見をぶつけ合い、時には目からウロコが落ちるような天啓を得たり、時には取っ組み合いの喧嘩をしつつも理解を深め、いつしか共同で非公式の研究をするまでになったのだ。


 三人の研究は詰まる所【真理の追及】に他ならなかった。

 神智学、天文学、魔術、錬金術…… 全ての学問の求める先、全ての問いの【究極の答え】それこそが、求道者たちの求めて止まない悲願だからだ。


 その過程として三人は【賢者の石】の精製に成功した。 共同研究を始めて僅か3年目の出来事だった。


『錬金術』とは言うまでもなく卑金属を貴金属に換えるためだけの学問ではなかった。

 それはあくまで時の為政者に資金を援助して貰い、そして時には匿ってもらう為の方便に過ぎない。


無から金を生み出す技術。

無から命を生み出す秘術。

永遠の命に至る道。

すなわち、全ての問いに答え且つ実現し得る【全知全能】こそが、全ての錬金術士たちの目指す地平に他ならない。


 そもそも【賢者の石】とは比喩であって、本来実体を伴う物質などではない。


 しかし伝説の【エメラルド・タブレット】や【タロットカード】のように、かつてその【全能】を物質に閉じ込めようと言う試みがなかった訳ではなかった。

 前者は歴史の闇に埋もれ、後者は生存戦略として玩具に擬装する事により真実から遠ざかる結果となってしまったが……


 しかし三人の賢人がお互いの知識や技術を持ち寄ることにより、超高速の情報処理装置であり、また超高密度の記憶媒体としての実体を持つ(・・・・・)【賢者の石】を生み出す事に成功したのだ。

 理論上は、然るべき技術があれば、その【石】から全ての答えが導き出せる筈であった。


 そして三人は来る日も来る日も試行錯誤を繰り返し、それを観察し続ける内に【石】のある性質に気が付いた。 そこから先は堤防が決壊するかのように怒濤のように進展していった。


 結果三人は【この世の真理】にたどり着いたのだ。


そして……


その結果は、凄惨なものだった────


 王国最大宗教の大司教ウィリアム・グレゴールは、錯乱した後自らの命を絶った。


 宮廷錬金術師にして魔法遺物の権威ミュラー・フォン・ライヒェンシュタインは、同じく錯乱した後、文字通り全てを放置したまま行方をくらました。


 その消息は今日(こんにち)も知られていない。


 彼── ユリウス自身が、今なお正気を保っていられるのは、彼が二人より孫ほども年が若かったからなのか…… 

 あるいは先に二人が取り乱す姿を見ることによって、逆に冷静になる心理が働いただけの事だったのかも知れない。


 今となってはそれはもう確かめようも無いし…… その必要もない事だった。


 以来約7年間、彼は人里離れた山中にあるこの隠れ家で、魂の抜け殻のように無為な日々を過ごしていたのだ。


 当然彼もまた世間的には失踪した扱いになっているのだが、そんな事もどうでもよかった。


 彼の心には時として様々な想念のカケラがよぎる事はあっても、まともな思考と呼べるものは何年もほとんど確認出来ない状態だったのだから……


 そう言った意味では彼ももう正気ではないのかも知れなかった。


 天窓の水晶から茜色の光が差し込んできた。


どうやらまた夜が明けたようだ……


 読んで頂き有難うございました。 この後3話までは今日中に投稿して、明日からは1日1話のペースで投稿しようかと思っております。 一応一章分(12〜3万字)のストックがあるのですが、完結はしませんでした…(汗) 現在は2〜3章ぐらいでまとまるといいなぁ、と思っておりますが…はてさて。 いずれにせよ、もう少しだけ目を通して頂けると嬉しく思います。 それではよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 物語の雰囲気づくりが巧みで良いと思いました。魔術の設定や人物の設定が凝っていて、この先が楽しみです。 [一言] 少しずつ読み進めていく所存です。宜しくお願い致します
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