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アフタースクール・ゴーストバスターズ!  作者: 蒼木 空
四月一日 蓮 1年生 1学期
2/9

活動記録 ② 化け物と2人の少女

 

 とある日の放課後、用事のために俺は職員室前の廊下にいた。


 日は完全に沈み、灯りの少ない外は真っ暗。


 放課後補習のおかげで、こんな時間になってしまった。


 廊下の向こうで緑色の非常口の灯りだけが不気味に光っている。


「お化けでもでそうだな……」


 プリントを持っていない方の手で扉を二回叩いてから、

「1年3組の四月一日(わたぬき) (れん)です。先生に用があって来ましたー、失礼しますー」


 返事は無かったが、扉を開けて職員室の中を進む。


 机の上のノートパソコンと顔をくっつくほどに近づけて、キーボードを叩いている小さな女の先生の姿を見つけて近づいた。


 俺はプリントを差し出しながら、

「先生。目、悪くなりますよ」


「…………」


 カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ……


 家族の仇のように、半ば乱暴にキーボードを叩きつける千間台先生。


 あれ、これ、俺の声聞こえてないパターンか?


千間台(せんげんだい)先生!」


「うわっ! ……って、なんだ、四月一日(わたぬき)君かぁ。どうしたの?」


「これどうぞ」


 俺は千間台先生の目前に退部届けと書かれたプリントをもう一度、差し出した。


「ん? 退部届け?! マジ?」


「マジです」


「な、何かあったの?」

 周りを少し確認して、近くには誰もいないことを確認してから、先生は続ける。


「いじめとか?」


「いや、特に理由は無いです。ただ単に部活ってだるいなって思ったんです」


「えぇ……私、初めてだよ? 先月入ったばかりの部活を退部するなんて」


「そうですか? もう帰っていいですよね」


「えっ? う、うん」



 職員室を出ると、俺の友達の一人である佐野(さの)が、壁に寄りかかっていた。


 こいつも一緒に補習を受けていた。


「待ってたのか」


「おっ、来たかオカルト少年」


 確かに俺はオカルト大好きだが、オカルトの()の字もかじったことのないお前にそんなふざけた名前で呼ばれたくない。


 なーんて、無駄な言い争いをする気分でも無かったので無視した。


「帰るぞ」


 佐野からリュックサックを受け取り、帰りの一歩を踏み出そうとしたその時、背中から千間台先生の声がした。


「ちょ、ちょちょ、待って四月一日(わたぬき)君!」


「なんですか」


「退部届けのプリントの記入欄に不備があったから書き直して」


「マジすか……ごめん佐野、先帰っててくれ」


「あー、うん、そうするわ。じゃあな」


「じゃあなー。それで先生、どこに不備があったんですか……」


「ここ! ここ!」

 千間台先生は言いながら俺にプリントをぐいぐいと押し付ける。


 そんなに顔にプリントを押し付けなくてもいいだろっ!


「ぶはっ、わか、分かりましたから! 書き直しますから!」


「よろしい!」


「教室戻って書くのも面倒だろうし、職員室の中で書いちゃいなよ」


「はーい」




 #####




「はい、これでいいですか」


 目を細めてプリントを遠ざけたり近づけたりした先生は、渋々言った。


「字汚いけど……まあいいよ。もう大分遅いから気をつけて帰るんだよ?」


「先生こそ、パソコン見るときの姿勢を気をつけたほうがいいですよ」


「……は、はい」

 おっしゃる通りです、と先生はペコペコと頭を下げた。



 職員室を出ると、なんだか妙なワクワク感が俺の心を満たしていた。


 部活に縛られなくなったことのせいでもあるが、もう一つはそう、夜の学校というこの状況。


 これは完全に、幽霊出現フラグだろ。



 自分で言うのもなんだが、俺はクラスで一番の(調べたことないけど)オカルト大好き少年だ!



 都市伝説、UMA、ポルターガイスト、陰謀論、異次元、そしてUFOまで、小さい頃から色んな本や雑誌を読み漁った。



 これはちょっとした自慢話になるが、10歳の時、俺はテレビのオカルトクイズ番組に出演し、多くの大人を退けて優勝の二文字を飾った。



 それほどオカルトが大好きだ。



 なので、こういうシチュエーションは本当に俺の胸を高ぶらせる。


 この雰囲気を楽しむため、そしてフラグをさらに立てるため、もう一つスパイスを加えてみる。


「あっ、そういえば、教室にノート忘れてきちゃったなー」



 完璧。



 側から見れば変人だが、周りに誰もいないのでやりたい放題。


 多少の恐怖はあるが、未知の存在に会えるかもしれないのならそんなこと、俺の目の前では無意味だ。



 俺はそのスパイスを求め、駆け足で2階から自分の教室のある5階まで上り、教室のドアを開けた。


 俺の席は教卓から見て、一番右の一番後ろだ。


 机を覗き込み、ノートを手に取った。



 ──その時。



 ぱたぱたと2、3人の上履きの足音がいきなり響き、俺は飛び上がった。


「オカルトが好きとはいえ、やっぱり怖いな……」


 手早くノートをリュックサックに仕舞い、拭えない好奇心で恐る恐る廊下を見た。


 1年6組がある、一直線な廊下の向こう側の端。

 非常口ランプの下ところで、2、3人の影が動いている。


「生徒……だよな」


 と思ったのも束の間、その影がこちらに走ってきているように見えた。


 その後ろに、ひとまわり大きな影が見えるような気もした。


 俺は目をこすって、もう一度よく見る。


 前を走って来ていたのは、スカートのシルエットから2人の女子生徒だと分かった。


 その2人は角で曲がった。



 その後ろには--熊。



「って、て、え?! 熊?!」


 思わず叫んでしまった俺の声に気が付いたのか、熊は一度立ち止まり、今度は俺の方に走り出した。


「やっば!」


 俺は教室のドアを閉め、隅の机の裏に身を隠した。


 バレませんように……!


 ……


 ……………


 ……………



 ──幸いなことに、ドアを開ける音もなく、数十秒が経過した。



「なんとかやり過ごしたか」

 と立ち上がると、真っ白な人の顔()()がキスできそうなくらいの近さにあった。



「おわァァァァァッ!!」



 熊のような巨体に、小さな白い顔がついた化け物は、細い棒切れのような腕を広げ、じりじりと差を縮めてくる。


 逃げなきゃ死ぬ!


 俺は生存本能そのままに、化け物の横をすり抜けて教室を出ようとした。


 ドアを開けようと手をかけた瞬間。


 ドアが勝手に開いたので、俺は飛び上がった。


 廊下に立っていたのは、影。


「うワァァァッ!!」

「きゃぁぁぁ!」


 1人は俺の姿に驚いたのか、小さな体をバネのように跳ね上がらせた。


 もう1人の背の高い女は木刀を持ち、何もアクションを起こすことなく、後ろにいる化け物を見据えていた。


 さっきの女子2人か!

 この教室に入らせてはダメだ!


「早く逃げろ! ここには化け物がいる!!」



 すると、高く滑らかな鈴の音の声で、木刀女が言った。


「逃げるのはあなた」


「えっ? ──おわっ!」


 俺は何を言われたのか考える間も無く、俺は木刀女に突き飛ばされ、机に背中を打った。


 2人はズカズカと教室に入り込み、化け物に歩み寄る。


「お、おい! 危ないって!」

 言うと、小さい方の女が俺の方を振り向き、人差し指を口に当てる。


 表情が暗くて分からないので、怒っているのか怒っていないのかも分からないが、黙っておくことにした。



 ──木刀女は木刀を構え、迫り来る化け物に振り下ろした。


 だが、ひゅっと風を切る音がする前に、化け物は姿を消した。


「き、消えた?!」


「静かに」

 木刀女が言う。


「……奏、気をつけて」

「はい」

 2人のその短いやり取りが、なんだかカッコよく見えた。


 俺はアクション映画も好んで観るのだが、それで見たことあるようなヤツだった。


 そんなふうに見惚れていると、小さな女の後ろに化け物が現れ、その女に向かって腕を伸ばした。


 2人とも気が付いていない。


「危ない!」

 俺は走り出していた。


 小さな女の方を両腕で抱きかかえ、そのまま床に倒れ込む。




 ──その俺の頬をかすめた横薙ぎの木刀。




 それは木刀女を中心に半円を描きながら化け物を真っ二つに斬り裂いた。

 すると、炭酸飲料が注がれる時のような音とともに、化け物は煙となって消えた。



 今のは一体……



「あ、あのっ、ありがとう……」


 女を抱きしめていたのを忘れていた。


 側から見れば犯罪者だ。


「あっ! ご、ごめん! 怪我はない?!」

 俺は素早く離れた。

 恥ずかしいし、怖かったし、心臓が破裂しそうだ!!


「う、うん助かったよ」


「よ、良かったな」


「ありがとう」


 ふと気になって木刀の女を見ると、化け物がいた場所に立ち、胸の前で手を合わせて俯いていた。


「あ、あんたらは何なんだ?」


「私たち? 私たちはお祓い部だよ。そこにいるのは柳生先輩! とっても強いの!」


「お祓い部……?」


「うん、お祓い部。今さっきのことを部活動としてやるの。怖いけど、楽しいよ?」


「行くわよ、奏」


 木刀女は特に俺を見ることなく、傷は大丈夫かしら? なんて話しかけることもなく机を綺麗に並べ直して、教室からさっさと出て行ってしまった。


 それを口を開けて唖然と見ていると、奏と呼ばれた小さな女が俺に向かって手を合わせた。


 これは謝罪の意味の方の合掌だ、多分。


「ごめんね。先輩ちょっと人付き合い苦手で……で、でも本当は良い先輩なんだよ? だから、嫌わないようにしてくれると嬉しいな」


 嫌いになるも何も、助けてもらった恩人だ。


 顔はよく見えなかったが、後日お礼でもさせてもらうとしよう。


「分かった。ありがとう、助けてくれて」

「私の方こそありがとう! 気をつけて帰ってね!」

「そうするよ」






 家に帰る途中、そして家に帰った後も「お祓い部」の4文字が俺の頭から離れることがなく、その夜は眠れなかった。



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