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王子様と婚約者と裏話

作者: ミヤザキ





「そろそろお前の婚約者を正式に決める」


「…はい」

あー…とうとう来てしまった。

私は父である陛下の御前で頭を下げながら小さくため息を付いた。



★★★




「婚約者だなんて…どうしろと言うのだ」

私は人の少ない城の中庭のベンチで顔を手で覆いながら心の声を囁いた。


私は今年で18になるが、婚約者はいない。

王族で王太子である私に婚約者がいないのはある問題を抱えているからだ。


私には8人の姉と3人の妹がいる。

唯一の男である私は第一王子として王太子となっている…表向きは…。


「はぁ…」


思わずため息を付いて王族特有の明るい金色の髪をくしゃりと掴んだ。


陛下には3人の妻がいる。

しかし、子宝に恵まれても産まれてくるのは女ばかりの完全なる女系だった。

焦った陛下は9人目の私が生まれた時、私の王族特有の明るい金髪に澄んだ青い瞳を見て生まれた子供を“男児”として国に発表した。それを聞いた国民は皆待望の男児が産まれたことを大いに喜んだと言う。


男として18年間育てられた“男装王子”が私だ。私の性別は陛下と母上、乳母と王宮付きの医師しか知らない姉妹達ですら知らない事なのだ。



「女性と結婚…できる気がしない」

結婚は良いとしよう、その後は?

再び大きなため息をついた時背後で何かが動くのを感じた。



ーガサッ



「誰だ?」

私は人の気配を感じて相手との距離を取り、剣に手を添える。

すると、真っ赤なドレスがチラリと草むらの奥で動いた。


「エルハルト王子殿下っ!?わぁっ!!」

私の声に驚いた少女は木の根に足を取られて私の方に倒れてきた。

思わず手を伸ばして少女が倒れないように抱き寄せる。


「大丈夫ですか?」


「あっ!ありがとうございます…!!」

私の顔を見た少女は顔を赤く染めて紫水晶のようにきれいな瞳を彷徨わせている。

私は少女の柔らかい銀色の髪についた葉を取ると優しく微笑んだ。


そっと怪我がないか確認して手を離すと少女はササッと身なりを整えて淑女の礼を取る。


「申し遅れました。エレオノーラ・ユースフォルと申します」


彼女の綺麗な銀髪が礼を取ったことによって滑り落ちる。

ユースフォルと言えば南に領地を持つ侯爵の家か。

見たことないご令嬢だから最近デビューした末の娘か…?


「私はエルハルト・ジルベルンだ」


そう言えば今日は2番目の妹が隣の睡蓮庭でお茶会をすると言っていたな…。


「失礼、貴女はカトリーヌのお茶会の参加者でしょうか?」


「はい、少し迷ってしまって…」

眉をハの字に曲げる少女はとても可憐で愛らしかった。


「良ければご案内致します。どうぞ」

私は少女に手を差し伸べてエスコートをしながら妹のお茶会の行われている庭まで案内をした。




「まぁ!!お兄様!!どうされましたの?」

オレンジ色のドレスを着た妹がひまわりが咲いたようなオレンジ寄りの黄色い瞳を瞬かせて私の方へ駆け寄って来る。

カトリーヌと私は異母兄妹だが、仲は悪くない。

私はお礼を言うエレオノーラ嬢の手を離すと妹に視線を向けた。


「やぁ、カトリーヌ。ちょっとこちらのご令嬢と会ってね。可愛い妹の顔を見るついでにお茶会にも少し顔を出そうかと思って」

私は妹に視線を向けた後招待客であるご令嬢達にも笑顔を向けた。私を見て少女達は顔を赤く染めて歓喜の声を上げる。


「良ければお兄様も参加してくださいまし」


「いや、可愛い妖精たちの集まりに邪魔はできないよ。皆さんゆっくりして行って下さいね」

私は少し頬を膨らませるカトリーヌの薄茶色の柔らかい髪を撫でるとその場を後にした。


じっとこちらを見つめる赤いドレスを着た少女の視線に気づかないふりをしてー。



★★★



「ちょっと、エレオノーラ様?少しエル様とお近付きになれたからと言って良い気にならないことね」


「…はい」

言いたいことを言ったエルハルト王子殿下の婚約者候補筆頭ジルベルン王国五大貴族上位の家産まれのご令嬢はふんっと鼻を鳴らし、取り巻きを連れて離れていった。


「…女って怖」

社交界デビューをして間もないが女貴族社会の闇を垣間見た気がする。


先程まで申し訳なさそうに泣きそうな表情をしていたエレオノーラはケロッとした表情に戻ると近くのテーブルからクッキーを摘んで口に放り投げた。


「うっま。流石は王家のお茶会」

顔を作り過ぎて表情筋が死にそうだ…。


「エルハルト王子殿下…」

果実酒をクイッと飲み干しながら先程会った第一王子を思い出す。絵本の中から飛び出してきたような容姿の王子様だった。サラサラの明るい金髪からは上品な石鹸の香りがしたような気もしたし、青い瞳は深くサファイヤよりもきれいだと思った。


「いつの間にか“美少年”に育っちゃって」

ふぅ、と溜め息をついたエレオノーラはグラスをテーブルに置くとその場を離れていった。



★★★



「うわぁ、今日もマリアージュ嬢のドレスはすごいなぁ特に胸元が」

「おい、口を慎めアレックス」

「おっと、失礼致しました」


私はニカッと笑う幼馴染のブラウン公爵家三男のアレックスを見て溜め息をついた。

黒寄りの茶髪に日焼けした肌、黒い瞳の体格の良いアレックスは近衛騎士団所属の私の専属騎士だ。


来春を祝う国王主催の舞踏会で私達は王族やその関係者のみ立ち入りを許されたフロアの2階で下のホールで談笑を楽しむ人達を眺めていた。


「いやぁでもあのドレスはヤバイだろう男を誘ってるとしか思えないよ…まぁ、誰を誘っているかは一目瞭然だけどな」

チラリと私を見るアレックスの視線に居心地の悪さを感じる。

貴族の間で既に私が本格的に婚約者候補を探そうとしているという話が広まっているらしい。

下のフロアに降りたら早速未婚のご令嬢達に囲まれる未来が見える…。


「兎に角、女性をそういう目で見るんじゃない」

「えぇー!?お前本当に男か?」

「お前は本当に貴族か」

「お前以外の前では騎士らしくしてるんだから良いだろう?」

「良くないわ」


私は意を決してアレックスを後ろに連れ、今日エスコートをする事になっている昨年社交界デビューしたばかりのカトリーヌと下のフロアへと向かう螺旋階段を降りる。


「カトリーヌ今日のドレスも素敵だよ」

「ありがとうございます。お兄様もかっこいい王子様みたいですわ」

「うーん、一応王子ではあるからね」

「そうでした」

クスクスと笑うカトリーヌにフロアにいる男性達の視線が集まるのを感じた。

流石は我が妹だな。身内贔屓をなしにしてもカトリーヌは充分可愛い。他の姉や妹も美人揃いだが、カトリーヌは私に良く懐いてくれているので更に一層可愛く見える。


私とカトリーヌはフロアの貴族たちの視線を集めて礼を取ると王族それぞれに与えられた席に向かう。


他の姉達も揃ってから陛下が王妃を連れて国王の席の前に立ち、陛下の挨拶を合図に音楽が鳴り始め、舞踏会がスタートした。



★★★



舞踏会も終わりに近づいた頃私は声を掛けてくる人達に断ってバルコニーへと赴いた。


「涼しい…」

人の熱気と進められるままに飲んだアルコールで火照った顔を冷やす。


ふと、中庭に目を向けると噴水の端にちょこんと腰掛ける見覚えのある銀色の髪の少女が見えた。


気分が悪いのかと心配になり、衛兵に声を掛けようかとも迷ったがふと、気になって自分の足で少女の元へと向かった。



★★★



「大丈夫ですか?」

人が近付いて来たことに気付いていたのか少女はゆっくりとこちらに視線を向ける。

儚げな紫色の2つの瞳が私の姿を捉えると少し驚いたように目をぱちぱちと瞬かせた。


「王子殿下?」


「はい、エレオノーラ様も休憩ですか?」

コテンと首を傾げる少女は月の光に当てられとても神秘的に見えた。確かアレックスに教えてもらった次世代の社交界3大美女のうちの一人にエレオノーラ様の名前があったな…。確かにこれは男達が放ってはおかない容姿をしている。


「ええ、ちょっと酔ってしまって」

「良ければ休憩室をご案内致しましょうか?」

「ふふ、誘ってますの?」

「へ?」

「冗談ですわ」

ぴょんっと薄紫のパンプスを地面に付けて立ち上がったエレオノーラ様は思ったよりも身長が高いようで170ある私よりも少し身長が高かった。

前会ったときは婚約者の事に気を取られてあまり意識してはいなかったが彼女の妖美な瞳から目が離せなくなる。


彼女の瞳を見つめている時ふと、懐かしさを感じた。

私が目を見開いたのを見て少女はクスリと笑った。


「そんなに驚かないで下さいな」

「あ、えっと…私は貴女と昔何処か出会ったことがありますか?」

そう言うと、エレオノーラ様はふと悲しそうな顔をしたが、次の瞬間瞳を大きく見開いて私の腕を女性のものとは思えないほどの力で引き寄せた。


「っと危ね」

「ちっ外したか」

抱き寄せられた私は予想以上に引き締まった体に驚く暇もなく背後の剣が空を切る音に身構えた。


「何者だ」

「名乗ると思うか?オウジサマ」

「くっ…エレオノーラ様は逃げて下さい!!」

「はぁ!?馬鹿か!?逃げるのはお前だろバカ王子」

何だろう緊迫した雰囲気で耳がおかしくなったのかな。

先程まで神秘的な美少女に見えていた少女からとは思えない乱暴な言葉が聞こえてくる。


「くらえっ」

「ぎゃっ!!」

「うがっ!!」

「えぇっ!?」

エレオノーラ様は履いていたパンプスを男達の顔面へと投げつけて私の手を引っ張った。


「行くぞエル!!」

「ちょっと待って…!!」

そう言うエレオノーラ様と昔一緒に遊んだ子供の面影が重なる。


「うわっ!!追いかけてきやがった!!俺今日剣とか持ってねーよ!!」

「エ、エレオノーラ様!?」

豹変したエレオノーラに驚きが隠せないが、このままではまずい。私は手で輪を作って口笛を吹いた。


「殿下!!」

十秒経たずにアレックスが数人の近衛兵を連れて現れた。

アレックスは私の手を引くエレオノーラ様に驚きながらも敵に向かって行った。


「取り敢えず一安心だな…」

「エレオノーラ様…足が…」

「げっ…」

エレオノーラの足は木の枝などで傷だらけになり、ドレスは所々破れていた。


「やばい、気付いたらどんどん痛くなってきた」

「…」

「エル?」

「…ぶはっ」

きょとんとした表情をするエレオノーラの髪についている草を取ると再び笑いがこみ上げてきた。


「…ふふ、信じられない」

「な、何がだよ」

「なんで君“ドレス”なんて着てるんだ?」

「ふん、それはお前も同じだろう」

ニヤリと笑うエレオノーラの笑顔は少年のものにしか見えなかった。



★★★



まだ男として生きることに納得出来なかった幼い頃の私は毎日のように人のいない中庭で一人泣いていた。


そんな時親の仕事について来ていたという私よりも少し幼い少年がひょっこりと草むらの間から顔を出した。

私は驚いて涙も引っ込み、後ろに尻餅をつくとそれを見た少年は面白いものを見たと癖の無いサラサラな銀髪に草を付けたままケラケラと笑った。

笑われた事に顔が赤くなるのを感じて又泣きそうになるのを耐えながらその場を離れようとすると小さな手が私の腕を掴み「一緒に遊ぼう」と、少年は微笑んだ。


少年に誘われた遊びはやった事無いものばかりで水遊びに泥んこ遊び、木登りをしたのも初めてだった。泥だらけで帰ってきた私を見て侍女が何人か気絶したのを見たときは少し悪い事をした気にもなったが隣でそれさえも笑う少年に少し安堵した。


少年は好奇心旺盛で父の仕事に付いてくるたびに私を探し出して一緒に遊ぼうと声を掛けてきた。

そうして仲良くなるうちに私は自分よりも幼い少年に少しずつ心を開いて絶対に口外してはいけないと言われていた私の秘密についても話した。


少年は紫色の大きな瞳が溢れるかと思うくらいに目を見開いて驚いていたが、絶対に他の人に言わないと約束をしてくれた。

しかし、それ以降私が彼に会う事はなかった。

頭では彼に会えなくなった理由が彼の父親が王城に通わなくなったことが理由だろうと分かっていてもやはりショックだった。


探そうと思えば彼の居場所を探す事もできたが私には出来なかった。もしかしたら私に会いたくないのかもしれないと思うと怖くなって彼との記憶を押し込んだ。


そんな彼が十年越しに私の前に現れた。

少年ではなく、“少女”の姿をして…。



★★★



王族専用の休憩室で私はエレオノーラの足の傷の手当をしていた。

「なんでそんな格好…」

「あー…まぁなんだ…趣味かな?」

「へ?」

「冗談だよ」

少し照れ臭そうに笑うエレオノーラに私は顔が火照るのを感じた。

目を彷徨わせていたエレオノーラはふぅっと息を吐くと意を決したように私を見つめた。


「俺、一目惚れだったんだ」

「…」

「エルと一緒に居るにはどうしたら良いんだろうって考えたらこれしか方法がなくて、訳を話さずに父さんと母さんを説得するのは大変だったけどようやくここまで来たんだ…」

「…っ」

「まぁ、俺もこれで社交界デビューしてしまった訳だから男としては生きていけないしな…ってなんで泣いてるんだよ!」

「…ご、ごめん」

「…俺は…初めてあった時からお前が好きだった…」

エレオノーラは私の目から零れ落ちる涙をそっと拭った。


「エレオノー…」

「昔みたいに呼んでくれよ」

懐かしいあの頃と変わらない笑顔を向けるエレオノーラに思わず頬が緩むのを感じた。

男だと偽って暮らすのは辛かった。

どんなに頑張っても体は女らしく成長する。

自分が望んだ訳でもない第一王子というレールをひたすら一人で走るしかなかった。


「…むちゃするなぁ…」

一人で走る私の手を引いて一緒に走ってくれる彼と一緒なら…。

微笑んだ私を見てを頬を染める彼が愛おしくなり、そっと抱きしめる。




「仕方ないから貰ってあげる。エレン…ありがとう」

耳元で囁くと顔を真っ赤にしたエレンはボソッと「やばい」と言うと再び笑顔を私に向けた。




★★★




ジルベルン王国第十八番目の王エルハルトは歴代の中でも最も愛妻家だったと言われている。

他の代の王が側妻を何人も抱える中エルハルト国王が愛したのは生涯一人の女性だった。

その女性はたまに驚く行動を取って王や周りの重役たちを困らせたと言うが、彼女が笑うと皆全てを許したと言う。

国民からも愛された王と王妃は4人の子宝に恵まれた。
















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