堕ちた天使の落ちた場所
「でぇやぁぁぁぁぁ!」
ヒュンと風が切ったような音が鳴ったと思う間もなくその大きな真空波と共に屋根は、一瞬にしてガラクタと化した。
もうもうと上がる砂煙のなかにゆらり、ゆらりと立ち上がる銀翼の天使。
「あーららら、ぶっ壊しちゃいました……まだ使えるものは残ってますかね?」
ぽっかり開いた天井の穴を見上げながら天使はそう呟くと、辺りを見渡す。どうやら、無事侵入出来たようだ。
ここは魔導人形工場、機械に新たな命を芽吹かせる場所。
多くの者はここに新しい出会いや、生涯のパートナー、愛する我が子を迎えるためにここに来ることだろう。
襲撃などあってはならないことであることはまず間違いない。
だが彼女の目的はここで生まれるであろう新たな魔導人形達を根こそぎ従属させること。
それは、ここが魔導人形工場たる理由とはあまりにもかけ離れた用事であった。
「さて、実戦投入といきましょうか、出番ですよ、デキソコナイ」
天使は脇でグッタリしていた少女を軽く放り投げる。
「ぐぇ」
力のないへんてこりんな呻きが響いた。
少女は虚ろな目で、ムクリと起き上がり、その場に立ち尽くす。
少女には、今、ここが何で、自分がどんな状態に置かされているのか、全くわからない。
少女はただそこに立っていた。
「ふむ、きっちり自我は無くなってるみたいですね?」
天使は微動だにしない少女の様子を見て、ニンマリとした笑みを浮かべる。
「それじゃ! 仕上げ、やっちゃいますかー!」
天使はポーチから拳銃の様な物を取り出した。それは普遍的な圧縮した魔力を射出する魔動武器である魔動ガンのそれに酷似していた。
だが、おかしな点がある、その銃口だ。
本来なら魔力放出の為の場所、そこに似つかわしくない光輝く緑の宝石が取り付けられているのだ。それを見る人がいれば、その輝きに込められた命の脈動に息を呑むことが出来たかも知れない。
だが、この場にその感性を持ち得る人間は居なかった。
作り物の命にとって、それは所詮魔力の籠った石ころと同等なのだ。
天使は微動だにしない少女にその銃口を突きつける。
「バイバイ、マイマスター。次はもう少し似せられるよう頑張りますねー!」
天使は引き金を引いた。
その瞬間、少女は貫かれた衝撃を受けてその体を地に伏せた。
……タス……ケテ。
その声は誰の耳にも届かない。
銃口の宝石がみるみるその輝きを失い、濁った灰色へと変化していく。天使はそれを取り外すと投げ捨てた。
力の失った宝石に、もう用事はない。
「失敗作を処分ついでに利用するなんて、すっごくエコでしょ?」
天使は着地の衝撃で歪まされ半開きになったドアの向こうを見つめて、声をかけた。
「ねぇ? 聞こえてないの?」
歪んだドアの向こう側で何者かが走り出す。
「それとも気付いて無いとでも思っちゃいました? ざーんねーん! バレバレですね! あっはははっ!……って居ないし、釣れないですねぇー」
天使がドアの向こう側を覗き込んだ時には、そこはただのなんの変哲もない冷たい廊下があるだけだった。
(ま、執行猶予って事にしときましょうか)
夜間の工場の作業員なんて、昼間に働けない落ちこぼれだろう。その程度であれば、天使にとって、経験値の足しにもならないのは明白だ。
そんな事より、魔導人形の製造機を探しに行こう、そう考えて、天使は廊下を進み出した。




