龍人幼女
薄暗い洞窟のなか、ギシギシときしむような音が鳴り響いた。
手術台に縛り付けられた少女は、自らの過ちを悔いていた。
「なんなのよこれ…! もう!」
今の今まで気を失っていたのだ、ここがどこで、今が何時なのか、少女にはさっぱりわからなかった。辺りに設置された微妙に光る宝石のお陰で何となく、周囲を見渡せたものの、窓などなく、外の様子がわからない。
(そもそもあんなところにお宝が落ちてるはずないじゃないの! 私のバカバカバカー!)
少女は、龍人だった。その鱗はどんな炎さえ寄せ付けず、類い稀なる商才も相まって希少な品を扱う駆け出しにしては出来すぎた商人でもあった。だから、目の前のお宝に飛び付かずにはいられなかったのだろう。
結果、罠にかかり、今ここにいる。
(こんなところで諦められる訳ないじゃない! 何とかして脱出しないと……)
そうしてもがき続けていたせいだろうか、最初はひどくがちがちに縛られていた腕もほんの少しだけ、動かせるようになった気がする。その時だった。
コンッコンッと足音が近づいて来るのがわかる。
(やったわ! ようやく迎えが来てくれたのね! これで家に帰れるのね!)
そう思った少女は声を上げずにはいられなかった。
「ちょっと! 誰か知らないけど助けなさいよ! ねぇったら!」
「はいはーい、マイマスター! ようやくお目覚めですか~? あれだけの事をした後なのにずいぶんと元気が良いのですね♪」
(……あたしにメイドなんていたかしら? ……そんなはずないわ、だってあたしはしがない商人だもの)
少し、困惑した表情を示す少女に対し、メイドの声は楽しげだった。
「おやおやー? 今度のマイマスターは気分の差が激しいのかなー? ねぇねぇ、マイマスター、話聞いてるー?」
弾んだ声と共にメイドが暗がりから姿を表す。少女はその姿を見た。見てしまった。
――魔動人形……
魔動人形は人工生命体、正しくは魔法によって心を与えられたアンドロイドだ。今の時代、魔動人形が外を歩いているのは別に不思議な事ではなかった。だが、一点だけ、彼女におかしな点がある。通常、魔動人形は秩序を重んじる。好き好んで人さらいなどするような種族ではないのだ。
「あんた、魔動人形……? あんたがあたしにこんなことを?! あたいは何も悪いことなんてしてないわ! 早くここから出しなさい!」
そう訪ねた少女に対し、メイドはケタケタと笑いながら答えた。
「あってるけれど……ちょーっとだけ、は・ず・れ! 私は――」
「――魔機天使だよ♪」