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成れ果ての不死鳥の成り上がり・苦難の道を歩み最強になるまでの物語  作者: ネクロマンシー
第2章 変わり続ける感情
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第52話 透明な瞳

「どうかな? 新しい武器の感触は」


 身体中の汚れを払いながら、清々しく歯を見せて笑うリーシャに、ノアは驚きやら呆れやらで開いた口が塞がらないでいた。彼女は爆煙の中から、体を真っ黒に染めて元々少なかった服の面積を更に減らして現れた。だがノアが驚いたのはリーシャの格好だけではない。


「これは…すごいですね」


 リーシャが作った武器は黒一色に染められた刃だった。あの機械生物の核から作り上げられたそれは妙な輝きを放っており、刃が両側についておりナイフというよりは短剣と呼ばれるものだった。武器に詳しくないノアでさえ、前のナイフとは明らかに別物だということがわかる。


「ふっふっふ。 私の腕はすごいんだから。 それなのに妖精族ってだけでみんな帰っちまうし」


 リーシャはノアの様子に満足そうに頷くが、それと同時に自分のことを知ろうともしない客に対して怒りをあらわにしていた。だが刃物を作るだけで爆発を起こし、そのことに平然としているリーシャの様子に、客が逃げ出したとしても仕方ないだろうと思える。


「でもこの短剣、本当に使いやすいです。 軽くていい」


 ノアは短剣を握って軽く素振りをするとリーシャの凄さがよくわかる。まず剣の柄の長さや重さが振りやすく、まるでノアのためだけに作られた武器のように感じた。それはリーシャが武器を作り出す前に身体を触って使い手に、ノアに適した長さや重さを把握していたからだ。


「あったりまえ!この私が作ったんだからね。 でも、今回は素材が良かったってのもあるかも、凄い硬くて打つのも大変だったんだから」


 相当硬かったのか、力を使い過ぎた疲れを取るようにリーシャは腰に手を添えて身体を伸ばす。リーシャは機械生物には詳しく、核を見るだけで大抵の種類は見当がつく。だが今回ノアが持ってきたものは見たことすら無く、核が非常に硬くて並の力じゃ打てないものだった。それをリーシャは雷の異能を使って電圧の超高熱で溶かしながら作業をしていたため、力の加減が難しく爆発を起こしたのだ。

 しかし高性能なだけあって、ノアは新しい武器には満足したがリーシャの要求した値段の高さには眉間にシワが寄るほどだった。


「んーじゃあ、特別に今回は半額でいいぞ」


「それは助かりますけど。いいんですか?」


「今回は興奮しちゃって要望も聞かずに私が勝手に作っちゃったところもあるし、何より私を信用して頼んでくれたことが嬉しかったからな」


 武器を作る際、客の要望や最高金額などを聞いてから注文通りに作るべきなのだろうが、リーシャは任せてくれた嬉しさのあまりに興奮して最高傑作を求めてしまった。その結果、珍しい核の他にも様々な貴重な鉱石も使いとんでもない高額な料金になったのだ。言い方によっては頼んでもない高級品を作り、それを一般民に押し付けているともいえる。それに罪悪感を感じたリーシャは大赤字間違いなしの半額という男気ある判断をした。


「その代わりと言っちゃアレだけど。 またなんか作りたいものがあるなら私の店を選んでくれないかな」


「そういうことなら喜んで。こちらこそお願いしたいくらいですよ」


 ノアはリーシャと握手を交わし、次からこの店を選ぶと約束した。その後、ノアは思い出したようにさっそくもう一つリーシャに注文をしてから、それが出来るまで椅子に座って剣を眺めていた。










 ノアはギルドの扉を開くと、周りからいつもの視線を受けながらも気にせず受付へ向かった。依頼は未だ変わらず資源集めなどの簡単なもので、ノアは自分が受けられるものは全て受けていく。


「お、ノア。さっそく作ってきたのか」


 近くの席に座っていたドモンはノアに気さくに声をかけてきた。そしてノアの腰にさげられた武器を見て目を丸くし、店の名前を聞くと爆笑していた。どうやらリーシャの店はなかなかの悪名が広がっているらしく、爆発を起こすのも珍しくはないようで昔失敗して素材を無駄にしたこともあるらしい。ノアはリーシャを信用して武器を依頼したがそれを聞くと笑みが引きつっていくのを感じた。


「だが所詮は噂だったな。 この武器はなかなかのもんだぜ? 今度は俺も行ってみてもいいかもな」


 ドモンから見たノアは危ないことでも、どんどん突っ込んでいくチャレンジャーというイメージが染み付いていった。




「あ、いたいた。 ノアくん、今から行くでしょ?」


 ノアの姿を見つけて手を振りながら声をかけてきたのはアテナだった。約束していたわけではないが昨日一緒に行けなかったアテナはノアと依頼に向かう気に満ちていた。その様子を見て、ドモンはニヤニヤと笑いながらアテナをなにやらからかい始めた。ノアは首を傾げたが、何故かアテナは耳を赤く染めてあたふたとしながらドモンと言い合いを始めた。この2人は仲が良かったのかな、とノアが他人事のように思っていると周りからのどんよりとした敵意が一段と増すのを感じる。

 怠惰な者は必死な者、認められる者を嫌悪する。ノアを馬鹿にしていた者達はAランクのアテナだけでなく、ドモンやルドルフもノアを認め始めていることが面白くなかった。

 なんであいつなのか、強くもないくせに。調子に乗っている。そんな言葉を口にしているのが眼で見える。

 ノアは原因であることに気づかない2人にこっそりため息を吐いて、言い争いを止めようとするとアテナに手を掴まれそのまま外に引っ張りだされてしまった。

 そのまましばらく耳を赤くしたままアテナは頰を膨らませていた。何故かノアがドモン達の依頼に同行したことを怒っているのだ。だがそれもつかの間、ギルドからずっとノアの手を握っていたことに気がついたアテナは、顔まで赤くしてぱっと手を離すと周りをキョロキョロと見回し恥ずかしそうに笑った。ずっとされるがままについてきていたノアは黙って見ていたがついに耐えきれずに吹き出した。


「えっ。 ど、どうしたの?」


「くくっ、すみません。アテナさんの様子がおかしくて」


 あまりにもコロコロと変わっていく表情にノアは思わず笑ってしまった。笑っているノアを見たアテナは、ノアのその新たな顔を見つけて嬉しいような、それでいて恥ずかしいような気持ちでいっぱいになり最終的には拗ねたように早足で歩き始めた。

 前に重ねた面影は今では完全に消えていた。どんな時でも笑顔だったあの子と違って彼女はこんなにも表情が豊かで忙しく変わっていく。

 それを思い出す時点でノアの心にはあの少女の存在が染み付いていることには、ノア自身も気づくことはなかった。

 




 依頼もかなり順調に進んでいきソフィもこのままいけば、そろそろBランクになれるかもしれないと言っていた。ノアがハンターになってまだ十日しか経っていない。だがノアのギルドポイントの貯まり方はまさに異常な速度だった。アテナやルドルフ達の恩恵を受けているのもあるが、こなしている数や速度が桁外れなのだ。普通は一つの依頼で半日はかかるものだがノアは眼の力やアテナの協力もあり、半日で十を超える依頼を余裕をもって終わらしていた。


「今日はこれで終わりだね」


「はい。ありがとうございました」


「今から何か予定とか、あるかな?」


「いえ、特には。でも…」


「良かった! じゃあ少し付き合って」


 ノアは、答える前にアテナに腕を引かれて近くの店に連れていかれた。それからも様々な店に連れ回され、行く場所全ての店員が、アテナのことを知っており、通りすぎるだけでも挨拶を交わしていく。それはアテナがとんでもない美貌を持っている、という理由だけでなく毎回愛想よく手を振って挨拶を返していることが皆に好かれている理由なのだろう。回り終えた頃には日が暮れて、いつもの時間になっていた。










「今日はごめんね、いろいろ連れ回して」


 アテナは腕を体の後ろで組み、顔だけノアに向ける。


「じゃあ、またね」


 そしてお決まりの依頼報告の紙を引き受けてノアに手を振った。夕日に照らされる帰り際のノアを見て、アテナは今日食事や服を見て回った時間を思い出して少しの時間俯きクスクスと笑う




 連れ回したことを誤った時、ノアはいつものように気にしてないと言い、いつものように朗らかな笑みを浮かべていた。その「いつも」をわかりきったように言えるほど、ノアとはまだ付き合いは長くはない。だが、その笑みが本物ではないことはアテナは知っていた。




 白い朝日に照らされも、今みたいに黄昏(たそがれ)の景色に包まれてもいつだってキミは透明だ。

 キミはいつも笑ってはいるけど、それはキミの瞳と同じであまりにも無色な笑みで。感情や表現などまるで意図しないものだと分かってしまう。でもふとした時に色のある笑い方をする時もあり、それが堪らなく嬉しかった。今日それをもとと見たくて連れ回してしまったが得たものは空っぽの宝石箱だけだった。





 だがアテナはそれでよかった。この時間が凄く幸せだった。今までに無いほどゆったりとした時間、それでいて湧き上がる濃厚な感情。

 いつか本当の笑顔を向けてくれたら、そんなことを考えながらアテナはゆっくりとギルドへ向かう。

 いつかは知りたい。いずれは聞いてみたい。







 ねぇ、本当のキミは何色?


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