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成れ果ての不死鳥の成り上がり・苦難の道を歩み最強になるまでの物語  作者: ネクロマンシー
第1章 壊れ続ける日常
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第34話 通るべき壁

 ドームの中、天井に空いた穴から満ちた月に照らされながら二つの人影が向かい合っていた。


「お前がどれだけ強くなったか見てやろう」


 バッカスは凶悪な目つきを更に鋭くしてノアを睨む。

 ノアに全身を針が突き刺ささるような威圧感が襲い、周りの酸素が消え失せたかのように呼吸ができなくなる。


 今日バッカスに勝てさえすれば遂に聖杯を探しに行くことができる。夢を叶えようと走り続けた結果が、自分が確実に進んでいたことが証明される。もちろんそれはとても容易なことではなく困難なものだがノアは深呼吸をして冷静に笑う。



「僕にとっては今回の条件は好都合だったと思っています」


 ノアは暗闇に紛れ込むように黒く染まった翼を月の光へ向けて伸ばした。


「僕は貴方をずっと打ち負かしてやりたいと思っていました。 貴方に負けたあの日からずっとね」




 ノアはバッカスに負けてここへ来た。最初にノアの道に立ち塞がり壁となった人物。教えを請い鍛えながらもずっとバッカスを倒すという野心を心の底で燃やしていた。

 そしてその時は来た。


「ここで証明する、僕の強さを!」


 ノアはバッカスに向けて脚を鞭のようにしならせ渾身の一撃を放つ。当然バッカスは反応し攻撃を防ごうと腕を身体の前で交差した。だがそれすらもノアの眼は捉えており、ガードの隙間を掻い潜りノアの脚が懐に突き刺ささりバッカスは後方へ吹き飛んだ。だが・・




  「・・・ほぉ、なかなかやるようになったな。俺が鍛えてやっただけはある」


 ノアの蹴りが完璧に入ったにもかかわらず、バッカスはダメージを感じさせない足取りで服についた砂埃を払うように歩き出し余裕の態度は崩れていない。

 バッカスはノアの蹴りをもらう前に自ら後方へ飛ぶことで威力を流していたのだ。ノアは面食らったような表情で足を止めてしまう。


「お前に蹴りを教えたのは俺だぞ?お前の行動は全て読める」


 バッカスはそれを言い終わる前にノアとの距離を一瞬でゼロにし、ノアを壁まで蹴り飛ばした。

 不意をついた最初の一撃、それを防がれた精神的ダメージはノアにとって少なくなくバッカスの行動への対応が一瞬遅れてしまった。ノアは咄嗟に腕で防ごうとしたがガードごと粉砕され凄まじい音を立てながらノアは吹き飛び壁にぶち当たる。


「蹴りってのは芯ごと砕くもんだ」


 今までノアはバッカスの蹴りを幾度となく食らったがバッカスは一度も本気で蹴ったことは無かったし、それはノアも分かっていた。だがそれでも予想していたよりバッカスの蹴りは遥かに強く鋭かった。


「ガァァ、腕がっ」



 ノアの防ごうと突き出した腕はバッカスの蹴りに持っていかれ吹き飛ばされていた。

 だが痛みに悶えている隙を見逃してもらえるはずもなくその後もバッカスの猛攻は続いた。


 蹴りを入れようにもスカされすぐに何倍もの威力の蹴りが飛んできた。腕も再生し終わる前に潰されていき、翼なんて紙切れのように破られていく。躱そうにも躱した先にまたバッカスは現れすぐに追い詰められていった。速度や威力だけではなく、知識や技術で既に負けていた。



 バチンッッ!


 そして何かが弾ける音がし、ノアは音がした方向に首を動かす。だが目線の先には何もなかった。あるはずだったもう片方の腕すらも。


「やれやれ、そんな実力で俺に勝てるとでも思っていたのか。お前の努力の結果は所詮そんなものだ」


 バッカスはまるで道端に落ちている石ころを蹴るように意識が途切れかけているノアの身体を宙に浮かして惨めに落ちていくノアにそう呟いた。

 






(くそっ、くそくそくそ。何もかも違いすぎて歯が立たない。こんなに差があるなんて・・・こんな)



「ただ自分を誤魔化したかっただけなんだろう?結果を手に入れられなくても努力はしたから仕方がないと、そう思いたかっただけ。お前にはまるで覚悟がない」






 ノアは遠のいていくのを感じた。だが何故かバッカスの言葉ははっきりと耳に入ってくる。

 覚悟が足りないだと?全てを捨てる覚悟だってあった。何を犠牲にしてでも突き通す覚悟だってある。他に賭けるものなんて・・・・・



 ノアは燃えた瞳を開き手放しかけた意識を鷲掴み這い上がる。









「ツッ!!」


 突如吹き出した殺意にバッカスは距離を取り先ほどまで虫の息だったノアを見た。


「そうだ、確かに僕には覚悟が足りなかった。戦いの天秤に命を乗せていなかった」


 ノアは雪のように薄っすらと輝いた羽を広げて立ち上がり手首を鳴らして軽く笑っていた。


 自分は死なないからと緊張感もなく勝ち負けの基準で戦場に立った。それが敗因なのだ。命を賭けろ、殺すか殺されるかだ。


「本当に貴方からは教わってばかりだ。それでも、それだけじゃないってことを今ここで見せます」



 ノアの覚悟を目の当たりにし、バッカスは楽しそうな表情で構える。

 バッカスは今のノアに不死の力が消えていることを知らないため今まで通り殺すつもりでくるだろう。だが覚悟を決めたノアは止まらなかった。



 バッカスはさっきの動きがまだ本気ではなかったことを見せつけるように加速して正真正銘本気の蹴りをノアに叩きこんだ。

 だが、怯んだのはバッカスのほうだった。ノアはナイフでバッカスの脚を串刺しにして受け止めていた。そしてすぐさまナイフを引き抜くとそのまま首を搔き切らんと迫った。


「ハハッ、悪くない!」


 ロイから貰った技

 バッカスは上体を晒して躱し、悪魔のように笑い声をあげた。

 ノアは眼を見開きバッカスの避けづらいであろう場所を幾度となく切り込んだ。バッカスもやられてばかりではなく一度立て直そうと距離を取ろうとするがそこにノアは思い切り振りかぶりナイフを投擲する。


「ッッなに⁉︎」


 テトから教わった技

 距離を取る行動が隙となりバッカスの太ももにナイフが突き刺ささり怯んだところにノアの拳が炸裂した。命の重みを含んだ拳はバッカスの芯まで響かせるには充分な威力だった。



「・・・これは、キュプラー達の」


 キュプラーから盗んだ技

 ノアがここへ来て培ってきたものはバッカスから教わってきたものだけではない。

 バッカスから基礎を学び、ロイからナイフ術を学び、テトから投擲術を学んだ。そしてそれだけではない。アルティナやアウルム、キュプラーからも空いた時間があれば教えを請いて知識を、技術を蓄え続けた。


「ええ、皆んなに教わった技です。ここに来てから学んだこと全て。僕は貴方にぶつけます」



「くくく、アハハ。いいだろう。こい!」


 バッカスは脚のナイフを引き抜き楽しげな表情を作り、ノアの全力を迎え撃った。



 バッカスの脚にはナイフで開けた穴があるにもかかわらず威力は全く落ちず、ノアは右腕や羽を容赦なくもぎ取られる。


(腕なんかくれてやる‼︎だから代わりに、その命をよこせぇぇ!)


 ノアは一心不乱にバッカスとの攻防を続けてお互いに腹に何発もブチ込み合い、血を流しながらも戦った。ノアはこれまでにないほどの力を発揮し眼でバッカスの動きを捉え続け、より最善な一手を産み出し続ける。そして数時間バッカスと互角にも見える戦いを繰り広げていた。

 だがそれでも、先に意識を手放したのはノアのほうだった。


「動けよ、動けぇえ。まだ僕は・・・やれ、る」


 ノアは必死に意識にすがりつこうと脚を抑えて立ち上がろうとするがその場に血を吐いて崩れ落ちた。



「ハァ…ハァ。まったく、強くなったな」


 バッカスは血だらけで倒れたノアを満足そうに見てその場に腰を下ろした。

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