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成れ果ての不死鳥の成り上がり・苦難の道を歩み最強になるまでの物語  作者: ネクロマンシー
第4章 進行し続ける代償
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第142話 水中は過去の泡

「もう逃げられませんよ。もう観念して早く脱いでください。せっかくプールに来たっていうのに、泳がず剣だけ振ってる人が何処にいるんですか」



 王族用の娯楽施設、広々とした室内プールを独占した2人。アリスは、普段より明らかに少ない面積の布、いわゆる水着姿で豊かな胸を主張するようにノアの前に立ちはだかっていた。白色の水着と長手袋。腰にはしっかりとノアが紡いだ赤い布が大切に巻かれていた。

 そんなアリスから、ノアは恐れるように逃げ回っていた。


「僕はいいって。アリスがどうしても泳ぎたいって言うからついて来ただけじゃないか」


「そんなの偽り言に決まってるじゃないですか。こんなに安全で簡単な解決方法なんてないんですよ。いつもの兄様の努力と挑戦の心意気は何処に行っちゃったんです!水の中でも浮ければいいだけなんですから」


 そう。泳げるようになるだけで大樹の遺跡の問題は全て解決する。水の中にある道の先に存在する聖杯に手が届くのだ。しかしノアはあと一歩が踏み出せない。

それは悩みを打ち明けた時に、アリスが思わず吹き出すように笑った後散々からかわれた事に拗ねているわけでは断じてない。


「嫌だ」


「どうしてそんなに水を怖がるんですか。何か理由でも?」


「だって水は――」


 ――もう昔のことように思える。何百年にも前にも感じる昔のこと。ノアは水の中で溺れて死にかけたことがある。その時は彼女が、カナリアが助けに来てくれた。でも彼女はもうここには居なくて。自分が溺れて、もがいてもきっと迎えに来てくれない。



 それが現実なのが嫌なのかもしれない。水の中に入ると夢を見て、昔の記憶を思い出すのが嫌なのかもしれない。



「だって、水は……」


「えい」


「ちょ、嘘でしょ!?」


 俯いていたノアは、可愛らしい掛け声とともにくる軽い衝撃に備えられずいともたやすく水の中へと落ちていた。水の中だと気づいた頃には、穴という穴に液体が流れ込み平常心を掻っ攫っていく。


(や、やばい!沈む、沈む!手と足を動かしてるのに!どうやって上がれば……)


 不格好にとりあえず手足をバタつかせるが、泡ひとつ立たず身動きが取れない身体に慌てふためく。そんなノアの手を、誰かが力強く引っ張り上げた。


「ゴホッ、カナリ……ゲホッゲホ……くそっ」


 またあの時のように助けてくれた。未練たらしく恩人の名が出てくる。そんなわけないのに。


「あはは。兄様ったら、泳げないっていうのは本当なのですね。いつも何でもこなす兄様にもこんな弱点があったなんて。ふふ、可愛い……」


水面から顔を出せたノアは必死に手を握る人物を見ようとしたが、いまだに濡れた髪や雫で視界が晴れない。

 髪をかきあげたアリスは反省の色などまったく見せず、そんなノアを見て口角が上がるのを抑えられない。


「ゴホッ………やってくれるたな。だから最初から泳げないって言っているだろ、」



「あはは、ごめんなさい。怒らないでくだなさいな。さ、次は私も一緒に入りますから。さぁ早く服を脱いでくださいな。水の中で服なんか着てたら泳げませんよ」


「だから脱ぐ前に水に落としたのはアリスだろ」


「それとも兄さんは女性に脱がせて貰いたいタイプなんですか?それでしたら仕方ないです、私が…」


「わかった。自分で脱ぐからやめて」


 曖昧な表情をしていたノアは、服の中に入れられた指に横腹をなぞられ肩を跳ねさせた。


「ああもう!こうかったら僕が泳げるようになるまで付き合ってもらうから覚悟してよ」


 ノアは、やけくそで存分に水分を吸った服を体から引き剥がす。ここに居るのは自分とアリスだけ。この醜態を誰かに見られるわけでもないと言い聞かせ、ノアは吹っ切れたようにニヤリと笑った。


「まぁ」


 上着を脱いだ事で露出されたノアの腹筋。着痩せするタイプなのか、想像以上に鍛え抜かれていた肉体にアリスは素直に赤面して顔を逸らしたが、目線だけはしっかりとノアの逞しい肉体を捉えて逸らさずにいた。


「もっと足を左右交互に動かしてください。水を怖がらないで友達と思えばいいんです。ほら、そんなにしがみつかれたら一緒に溺れちゃいますよ?私としてはこのまま2人きりで心中するのも悪くないですが…」


「ふん、そんなの僕はごめんだよ。あ、まって揺らさないで。ひっくり返ったらどうするだ」


「ふふ、はいはい。私はいますからね。支えてますし逃げませんから」



 ――今助けたのは誰か。体を縋らせてくれているのは誰か。過去の残像ではなく自分であると。周りにはちゃんと誰かがいると。アリスは言葉を水中へ溶かしていく。


「……わかってる」


 それから二人は日が沈み、手足がふやけて白くなるまで泳いでいた。あんなに水を避けていたとは思えないほど水は身体に馴染み、心の隙間も埋めてくれた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] とても面白かったです。 設定や世界観が好みです。 [一言] 続きを読ませてください!
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