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成れ果ての不死鳥の成り上がり・苦難の道を歩み最強になるまでの物語  作者: ネクロマンシー
第4章 進行し続ける代償
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第139話 信じて

 黄昏の吸血姫と紅蓮の赤鬼は、龍にも負けない咆哮と共に、手の中に握る武器を龍の横腹目掛けて振り抜いた。


 二人の武器はメアリィの血の能力で覆われ普段の数倍の大きさの赤き剣となっており、その威力は龍の口から漏れる叫び声が痛々しく証明していた。

 撃ち抜かれたように巨大な胴体を跳ね上げられ、龍は硬い鱗で覆われた顔を僅かに(しか)めた。龍は攻撃してくる二人を完全に敵と認識したらしく、空に飛ぶメアリィを喰らおうと巨大な口をバックリと開いた。しかしすかさずロキが顎を強打することで無理やり龍の口を閉ざさせていた。


「あの二人すごい」


「……正直僕も驚いてる」


 力任せの荒技で龍の攻撃を退けていく二人を見上げ、アテナはぽかんとした表情だ。騎士らしくない攻撃を繰り広げることもそうだが、一端の部下である二人がここまで強いと思っていなかったのだろう。まだ空いた口が塞がらないようだった。

 しかしそれはノアも同じこと。メアリィはともかく、ロキがここまでの強さを持っていたことに驚きを隠せないでいた。

 小型の機械生物数体に怖気付く見習い騎士のようだったロキが、今や凶悪な図体を誇る龍を殴り飛ばしているのだ。


(確かにロキには元々力は備わっていた。でも精神面が追いついていなかった。……いつの間にここまで)



 ロキの成長幅は、ここ最近ありえない速度で広がっていた。憧れに近づきたい、追いつきたいという想いがロキの精神の柱となって支えとなり、その強さがノアの想像を上回るものとしていた。


 だが、



『―――ガァァァァァァァアア―――』



 ――龍の鱗は一枚たりとも傷つかない。



「……何こいつ、硬すぎる。衝撃は伝わってるけど、それだけ!刃が通らない!」


「やばい、もう手が痺れてきた」


 龍の耐久力や生命力は、ロキ達の猛攻を凌ぎきり、次第に押し返していった。確かに龍の体を動かせるほどの攻撃を撃ち放ってはいる。けれど相手は大陸が動いているようなものだ。ダメージはびっしりと並んだ鱗によってほとんど無効化されているし、攻撃した反動のせいで手の感覚など既になくなっていた。

 鱗の隙間を剣で狙うにも刃は通らず、生えていない腹を槍で突き刺すも肌に跡が残るだけで傷にもならない。何度撃てども沈まぬ龍を相手に息は次第に乱れていく。元々ロキもメアリィも長期戦に向いていないのだ。そして次の瞬間、ついに龍の反撃の頭突きがロキを襲った。


「グハッ‼︎」


 頭突きと言えど、この巨体。隕石に直撃したかのような衝撃をもろにうけ、一度空を走り始めれば、それは止まらぬ流星となってそのまま地面へと着弾する。



「ゴェッッッゴパッッ‼︎‼︎」


 砂埃を巻き上げ、地面を爆発させてみせた白龍。龍の額と岩石の間に押し潰されたロキは、骨からバキバキと音を鳴らして口から大量の血液を溢す。




「ロキ!メアリィ!ッッ……」


 頭突きだけで大陸を割る一撃。地割れで作られた裂け目からアテナを抱えて逃げるノアは、爆風に煽られて転がされる。


(本当に何なんだこいつ!デカさといい、このタフさといい、あれだけの攻撃を受けても死なないどころか弱ってすらいない)


「ノアくん!」


「わかってる」


 逃げるにせよ倒すにせよ、殺すつもりでやらなければあの濁る白龍をどうにかすることはできない。

 地に足をつけたアテナとノアは、吹き荒れる砂埃の中剣を握った。


 しかし、そんな二人の足元に上空から赤い槍が突き立てられた。


「二人はそこで見てて!」


 槍を投げたのはメアリィだ。吹き飛ばされた衝撃で負傷したのか、頭から血を流している。


「な、何言ってるんだ。ロキがやられたんだ。僕が行かなくてどうする」


「私達だけであんなやつやっつけれるから!やっつけてみせるから」


「あの巨体はいくらなんでも無理だ。意地をはるにしても時と場合が」


「いいから。…………ノア、信じて」


「ッ!」


 立場は偽りであろうとも、二人の隊長として守るために戦うべきだ。なのにメアリィはそれを許さない。ノアにはその理由がわからず反論したが、信じてと願う彼女の顔は真剣そのもので、思わず気圧されてしまう。



 そんな悠長な会話をしてる間に、龍が再び咆哮が空気を震わした。思わずビクリと力を込めたが、それはノア達を狙った怒る雄叫びではなく、悲痛な叫び声だった。



『―――ギェェァァァァァァアア―――』


 地の底から勢いよく這い出てきた龍は目から血を滴らせており、顔に張り付く者を振り落とそうと地面に何度も顔を擦り付けた。



「……隊長の教え、その六。皮膚が硬い相手は目玉を狙え」


 ロキは龍の顔に張り付き、目玉に剣の刃を突き立ていた。もはや生気は感じられない虚な様子にもかかわらず、頭突きで地面に叩きつけられようと暴れ狂われようと、ロキは決して剣から手を離さなかった。それどころか、揺さぶられる振動が強くなる度に差し込む力を更に強めていた。




『―――ォォォォオォォォォオ―――』


 龍は天高く首を伸ばすと長い胴体を振り子のように振り下ろし始めた。雲すら裂く面積の暴力は削り取るように地面に傷痕を刻んだ。

 グシャグシャと砕ける岩石と共に押し潰されるロキは、遠のく意識を握りしめて最後の力を足に集中させた。龍は、明らかに隊長であるノアのほうへと向かっており、皆んなまとめて押しつぶすつもりだろう。それを防ぐために、自分の栄光を目指すために、ロキは力を振り絞る。




 巨大な柱が意志を持って突き進んでくる様子に、アテナは焦りの表情を向けたが、未だノアは足を止めたままだった。


(……信じる、か)






 ――ノア達が龍に直撃する思えた刹那、突き進んでくる大陸のような巨大の龍に、何かが衝突した。


 それは飛行して加速したメアリィで、血を固めた拳で龍と正面からぶつかり合ったのだ。真っ赤な血を操り、牙を見せて残虐に口を歪めた吸血姫は、悪魔のように全力で轟いた。


 衝突した瞬間に拳から肘にかけて亀裂が入り、能力とは関係のない血が体内から暴れ出す。だが地ではロキが最後の気力で踏ん張り受け止めたおかげで、龍の勢いは完全に止まった。止めてみせていた。


「ッオラァ‼︎」


 そして最後に、血を何重にも重ねた渾身の拳で龍の頭をぶん殴り、全長が雲に届くほどの大きさの龍をついに弾き返した。





『――ゥゥォォォォオンンン――』


 弾き返された龍は空に打ち上げられ、長い身体を空へと伸ばす。ノアはその様子を見上げて瞳に映し、気づけば声を漏らしていた。


「………あった」




 空へと昇る龍の更に上空。開かれた雲の遥か上に、薄らではあるが確かに巨大な都市の影が見えていた。











 ――――――――――――――――――――

 メアリィとロキは龍を退(しりぞ)けてみせただけでなく、遺跡の本当の在処を切り開いてくれた。空の上、ノアの眼でも見えぬほどの高さにある天に浮かぶ都市。普通に探していても見つかるわけもなかった。


「ゴホッゴホッ……見てましたか隊長、俺達の力」


「うん、二人のおかげで僕らは怪我もなかったし都市も見つけることもできたよ。でもなぁ……こんな様子じゃ褒められたもんじゃないな」


「うぐっ、申し訳ない」


「いやぁ〜えへへ」


 呆れ半分の説教をうけるロキとメアリィは、ノアとアテナの背にそれぞれ身を預けて運ばれていた。間抜けな声を出して場を和らげてはいるが、二人はかなりの重症だった。ロキは顔が腫れて目も開けられない様子で、メアリィに関しては腕の骨という骨が折れているようだった。ロキにはアリスが用意した特上品の薬を飲ませているためしばらくすれば少しは良くなるだろうが、メアリィの身体は『純血』の呪いが拒むため薬が効かなかった。折れた骨は血の能力ではどうすることもできないメアリィは、余裕そうに笑ってはいるがかなり無理をしているだろう。



「今日はここまでだね。ニヴルヘイムに帰ろう」


 確かに二人は龍との衝突に打ち勝ち、退けてみせた。だがそれは所詮一回の攻撃を防いだだけにすぎない。

 龍は弾かれて空へ上がったもののまだまだ弱っている気配も無く、距離を取って空をぐるぐると飛行し始めた。

 それに対してこちらの被害は深刻。メアリィとロキは満身創痍な状態で、龍の一撃を止めたあと力尽きてしまったのだ。好都合な事に二人を侮れぬ敵と認識したのか、龍はすぐに襲ってくる様子はなかったが、空を飛行され続けられては状況は変わらず最悪のままだ。

 目指すべきは空の上。その道中には倒れぬ龍が待ち構えているのだ。翼に後遺症のあるノアでは飛ぶ手段もなければ空の龍を倒す算段もない。唯一この中で飛べるメアリィは立つことさえできない状態なのだ。


 結果ノア達には、一度ニヴルヘイムに帰還する以外の選択肢はなかったのだ。




「ここまで来たんだし、慌てても仕方ない。空の都市を見つけただけでも良しとしよう。二人ともご苦労だったね」


「はい!」


「あーい」


 無茶したことを叱られた後だが、二人はノアの言葉にどこか誇らしげな表情を浮かべ、そっと眠りについたのだった。

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