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成れ果ての不死鳥の成り上がり・苦難の道を歩み最強になるまでの物語  作者: ネクロマンシー
第4章 進行し続ける代償
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第138話 龍の目覚め

 遺跡の中は、風になびきながら地に波をつくる稲、ススキがゆらりゆらりと踊っていた。天井に降り注ぐ不思議な月の光を反射し、ススキは白く燃えているようにも見える。

 しかし言ってしまえばそれだけ。他には何も見当たるものが無く、ただ揺れる草を眺めるしかない。


「まったく、ここもまた広いな」


 ノア達は無事、遺跡にたどり着くことができたのだ。

 この遺跡はムスペルスヘイムが管理していた遺跡であり、ノアは門番と一悶着あると覚悟してきた。しかしその予想は裏切られ、門番達はノア達を見た途端歓迎するように門を開いてくれた。逆に食料や飲料などの補給も勧めてくれたほどだ。ここまで非常に円滑に進めることができているのも、きっと全てアリスが手を回してくれていたおかげだろう。


「そう思うといちいち止まってられないな……。よし、ここからは二手に分かれよう。少なくともここは国が栄えていた場所、何かしら見つかるはずだ」


 ノアの眼でも何も映らない莫大とした世界だが、効率的に探索すれば手掛かりは掴めるはず。そう提案した瞬間、アテナがスッと隣で名乗りを上げた。


「それならノアくん、私と一緒に行こう?」


「アテナは僕とは別で……。いや、わかった。行こう」


 ノアは、戦力を均等に分けるためにSランクハンターであるアテナとはロキかメアリィと組んでもらうつもりだった。しかしよくよく考えてみれば、ノアはアテナの実力をこの目で確かめた事がなかった。そのため、今回はアテナと行動を共にして彼女の実力を測ることを優先したのだ。そもそもロキはともかく、メアリィはノア自身でも眼を使わなければ倒せなかったほど強いのだ。よほどの事態か古代兵器に遭遇しない限り余裕で打ち勝てるだろうし心配する必要もないだろう。


「えー!私がノアと行きたい。もう喉も渇いてきたし力でないもん」


「隊長命令にいちいち文句言わない。それにアリスから保存食の血液袋をたんまり持たされているだろ」


「ちぇっ〜」


 遺跡に向かう前、メアリィはノアから摂取した血液が保存されている袋をアリスから渡された。血液を消費しながら戦うメアリィにとって、血の補充がいかに大事かを理解しているからだ。血液袋があれば、ノアが居なくても当分は戦いに専念できるし、余計な時間も消費する必要がなくなるのだ。

 そうしてアリスは保存袋を用意することにより、メアリィがノアの首元から直接血を吸う事を禁止させたのだった。本当の理由は完全に私情ではあったがノア達が気づくことはない。


「心配ないってメアリィ。隊長より先に俺たちが聖杯を見つけてやろうぜ」


「なるほど……。確かにそれはそれで確かに面白そう!」


 ガックシと肩を落としたのも一瞬。メアリィはロキの言葉に目を輝かせ始めた。

 ロキと一緒に遊ぶのも楽しいからだろう。そこまで喜怒哀楽を表せるのも羨ましいものだ。


「ノア!早い者勝ちね!……でも、何かあったらすぐに呼んでね。私たちが速攻で駆けつけるから」


 しかし最後の最後にメアリィは、別れ際に珍しく曖昧な表情を残していった。


















 ―――――――――――――


 二人と分かれて数時間は経っただろう。あれからずっとノアと二人で稲の絨毯に道を作るように歩き続けている。


「ノアくんは国の外から来たの?」


「まぁね、名前もないくらい小さな集落だったけど」


「へぇ、いつか行ってみたいなぁ」


 アテナはこの時間、ノアのことが知りたくていくつもの質問をぶつけていた。それは一見他愛のない雑談のようなもので、ノアもそれを気軽に答えた。


「じゃあどうしてアルマに?」


「それは……」


 アテナは様々な答えをノアに求めた。ノアの生い立ちから今に至る経緯、村を出た理由から聖杯を探す理由まで全てをだ。何故がここ最近、ノアの事が酷く気になるからだ。いや、厳密に言えば確かな好意を持っていたからだ。


 しかしアテナは、質問の行き着く先で当然の疑問、ノアが聖杯に()()()()()()()()も聞いたのだった。



「そっか、その子を目覚めさせるためだったんだ。……ごめんね、無神経なこと聞いちゃって」


「別にいいさ。今は暗いものだと思ってないから。希望はある。だからこうして話せるし、そのために遺跡に来てるんだ」


「……じゃあ、あの時。カナリアって女の子を私と間違えて助けてくれたの?私のことカナリアって呼んでたよね」


「うっ、それは」


 あの時、ノアとアテナと出会った時のことだ。ノアはアテナの言う通り、カナリアの面影を彼女に重ねて錯乱し、余計な争いに首を突っ込んだ。ノアからすれば苦い思い出だ。

 そしてノアは、元々アテナ自身を助けるつもりで動いたわけじゃなかったことと、それを今まで黙っていた事を今更ながら意識し始めた。


「黙っててごめん。その時は余裕が無かったみたいで」


「……そっか、そうだったんだ。ううん、いいの。ノアくんが助けてくれたことには変わりないもの」


 アテナはふるふると首を横に振った後、曖昧な笑みを作る。一瞬酷く、寂しさと失墜感を覚えたが、その感情をアテナは押し潰し、ノアは気付かない。


「えいっ!」


「わっ」


 アテナはニッと笑うと、ノアに腕を絡ませて肩をピタリとくっつけた。


「ふふっ、ねぇノアくん。こうして二人きりで歩いているとまるでデートみたいじゃない?」


「え?これは少し近くないか。いや、近すぎる」


 ここは超危険区域である遺跡の内部。Sランクハンターの彼女が取る行動としてはあまりに不適切。ノアはここまで彼女が人懐っこい性格だと思っておらずたじろいだ。



「ねぇノアくん。もし私が……」



 アテナが少し眉を下げて何かを呟こうとした――次の瞬間だった。

凄まじい地響きと共に大地をえぐりあげ、巨大な何かが出現したのは。



「なッ、なんだ!こいつは……」


 最初は機械生物だと思ったが、その生物が喉から鳴らすくぐもった咆哮は確かに生命を感じさせるものだった。

 白く濁った鱗は顔や蛇のように長い胴体を覆いつくし、頭部にはゴツゴツとした牙や角も生えている。片目は(ただ)れて腐りきっているものの、もう片方は翡翠(ひすい)の瞳がギロリと二人を見下している。


「で、デカすぎる……。こんな奴が潜んでたのか」


 鼻息だけで風が吹き荒れ、目を開けるのに精一杯だ。その生物は本物の龍。目玉だけでもノア達の身長を超えている、真の怪物だった。ずっと足下で眠っていたのだろうが、あまりに巨大すぎてノアの眼でも生き物として認知できていなかったのだ。


「ノアくん、逃げよう!」


 強風の中、スカートを手で押さえたアテナは、もう片方の手を伸ばし、ノアの引いて避難させようとする。

 しかしノアは驚愕のなか咄嗟に剣を抜き、既に狙いを定めるように龍に刃を向けていた。


「ちょっと!ノアくん!」


「アテナは下がって!向こうは完全にこっちを狙ってる。それに、どっちみちこいつを倒さないと先には進めない」


 正直この超巨大の龍を相手にするのは無謀だろう。だがやらねばならないと決め、ノアは力を解放させようと瞳を燃やし始める。


『―――グゥォォォオォォォォォオオ――』


 しかしその直後、超巨大な龍の身体がグリンと身をよじらせ、地面に激しく打ち付けた。


「うわっ」「きゃっ!」


 龍が身体を動かしただけでノアとアテナは振動で簡単に吹き飛ばされてしまい、身動きが取れなくなる。

 ノアの弱点は純粋な力と大きさ。身体を動かしただけでもこの威力の相手に、短剣を突き立てようと決定打になるはずもない。いくら鍛えた筋力や高めた剣技があったとしても、ここまで圧倒的な大きさの龍を前にしては無価値でしかなかった。





「くそっ、仕方な………なんだ?様子がおかしい」


 予想外の強さに焦りを覚えたノアだったが、身動きの取れない自分達に龍が何もして来ない事に気づく。そして龍の上空に、影が刺していた。


「まさか……」


 龍は身体をねじってノア達を潰そうとしたわけではなかった。強制的に曲げられたのだ。



「うぉぉぉぉぉぉおぉおお」

「ハァァァァァァァア!!」


 ノアが見上げた先に見たものは、二人の部下が一点に力を集中させて超巨大な龍の胴体をくの字に曲げるところだった。

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