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成れ果ての不死鳥の成り上がり・苦難の道を歩み最強になるまでの物語  作者: ネクロマンシー
第4章 進行し続ける代償
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第137話 道のり

「隊長! これ見てくださいよ! この白銀の鎧に黄金の剣。 まるで騎士隊長にでもなった気分だ」


 ノア達、零番隊は任務で遺跡へと向かっていた。その道中、ロキは自分に設けられた武具に見惚れて子供のようにはしゃいでいる。


「ロキィ〜それ何回目〜? 私もう聞き飽きたよ」


 げんなりとした表情でメアリィは肩をすくめるが、ロキが心躍らせるのも仕方のないことだろう。黄金の剣や白銀の鎧は眩しいほど光り輝いているも、そんな見た目など所詮はおまけだと言い切れるほど高性能な能力を秘めているのだ。着ていないと錯覚するほど重さを感じさせない鎧だが、硬度は本物。古代兵器とはいかないものの、かなりの数の機械生物の核が使われた一品である。騎士を目指す者なら、一度は扱ってみたいと夢見るものだろう。

 これらはアリスがノア達の任務のために用意させた最高級の装備だ。


「まさかこんな装備を着れる日が来るなんて。 今日まで隊長に付いてきて本当に良かったです!」


「そ、そっか。 それはよかったよ」


 大喜びのロキだったが、ノアからしては複雑な気分である。そしてなによりノアの言葉を詰まらせたのはロキの見た目だった。

 確かに鎧も剣も一級品以上で、ノアから見ても美しくはある。だがロキは、頭だけ前とは変えておらず、使い慣れている銀の兜をかぶっているのだ。綺麗に扱っているようだが、それでも鎧と比べれば悪目立ちしてしまうほど傷ついているし凹んでもいる。古びた頭に白銀の鎧、そして黄金の剣。何ともアンバランスな色合いで、気遣って口には出さないがあまりに奇怪だった。


「ねぇ遠くから見たらその汚い兜のせいですっごく変なんだけど」


 しかしメアリィの中にはモラルなんて概念は存在しなかった。







 メアリィの言葉にショックを受けてワナワナと震えているロキを、ノアが哀れむように見ていると隣からそっと声をかけられた。


「ノアくんは鎧着ないの?」


 ノアに声をかけたのは真っ白な髪を伸ばした美少女、アテナだ。今ノア達はアテナと共に遺跡へと来ているのだ。


「僕は軽量化重視というか、動きやすさを優先したくて」


「ふ〜ん、ノアくんの鎧姿も見てみたかったな」


 ノアの鎧姿を思い浮かべたアテナは残念そうに首を傾げた。ノアの格好は至って平凡で、羽のコートと短剣だけにすぎない。しかしこの装備も古代兵器の核を使用した一級品である事は確かなのだ。アリスが特注で用意したノア専用の鎧もあったのだが、あまりにも巨大で禍々しかったため消去法でこうなった。だが防御力よりも身軽さを重要視するノアにとってはこちらの方が好都合なのだ。


「そう言うアテナも鎧らしい鎧を着てないじゃないか」


 明らかに私服である青のラインが入った服装に胸当てと手脚の甲冑のみ。細くて白い脚が見えるようなスカートを履いているくらいだ。以前ハンターとして行動した時と比べると、やけに軽装で露出も多い気がする。


「可愛い、かな?」


 ひらひらとしたスカートを摘んでくるりと回って見せたアテナは、何かを期待しているようにノアを見る。


「可愛いけど、少し場違いだね」


「もうっ! 最後のは余計だよ!」


 正直に答えたことが嫌でも伝わる回答に、アテナは頰を赤らめて抗議した。







 ―――アテナと共に行動すると決めたのは遺跡に向かう直前、ほんの3.4時間前のことだった。



「お疲れ様です」


「ああ、お疲れ様」


 任務へと向かおうするノアに、通りすがりの騎士達が頭を下げてくる。アリスの守りびとに戻った日から騎士達のノアに対する敬意は180度変わっていた。それは第一王女の守りびとになった時からではないだろう。ノアは元から形だけは騎士隊長という称号を持っていたが挨拶をされることなどほとんどなかった。ティアラの守りびとだった時も形だけは畏まった態度を取られた事はあるが、敬意を払われた事は一度もない。きっとそれほどノアの知らないところで、アリスが魅力や権力というノアにはない力の根を急激に伸ばしていたのだろう。


(他人の心は難しいな……)


 些細な肩書きで態度を豹変させる騎士達に呆れながらも、適当に言葉を交わしていく。

 しかしそれ以外はノアの過ごし方が劇的に変わったわけではなかった。というよりも、変わらないようにアリスが配慮しているようだった。

 アリスは度々、他の区の王族や貴族を集めた会議に出席しているが、会議に付き合わせるのは悪いと言って、ノアがついて行くことを遠慮した。最初は、それなら守りびとをしている意味がないと思い自ら同行したこともあったが、会議の内容はノアにはとても理解できるものではなく、国の治安や安全など、内部の機能に対してのものだった。

 そのため、興味を持てなかったノアは一度行ったっきり会議には同席していない。勿論、アリス自身の安全が守られるように、会議は身の回りの世話をする複数の使用人や味方の騎士達が集うニヴルヘイムで行われるし、腰の重い他の区こ王族達すら客として招き入れるほどの権力をアリスは持っていた。



 そういったことからノアは基本的に自由だった。以前のように甲斐甲斐しくアリスの世話をする理由も必要もなく、望みどおり遺跡巡りに専念できるようになっていた。

 そう、それがノアの任務だ。表面上は任務ではあるものの、やる事は決められていない。好きに探索することを許可されているのだ。











 そうして、安全確認や見回りといった任務と銘打って、私事を遂行しようとした時のことだった。


「私も、一緒に行っていいかな?」


 廊下でバッタリと鉢合わせたノアとアテナ。まさか出会い頭にそんなことを言われるとは思っていなかったが。格好から任務へ向かうところだとわかったのだろう。しかし彼女がただの女の子ではないことはわかっているが、美しいドレス姿の姫に任務への同行を頼まれると少々驚いてしまう。恐らく例の会議に彼女も同様に招かれていたのだろう。


「その、ノアくんが任務に行くって偶然聞いちゃって。 それでその……」


「それは別に構わないけど、大丈夫? 遺跡に行くつもりなんだけど、立場とかいろいろアテナにもあるんじゃないのか?」


「大丈夫。 私は結構自由にさせてもらえてるから」


 アテナは王族ではあるが、昔ハンターになるために王族という立場を放り投げた。そのため周りからの期待は薄く、何をしようと誰の目にも留まることはないらしい。


「そ、それにほらっ。 あんまり剣を振らないと腕が鈍っちゃいそうだし。 それに一国の姫としても民の安全を確保することも大切だと思うの。これも王族の義務だと思うし」


 慌てたように理由を並べるアテナに、押されたようにノアはコクコクと頷く。

 しかしギルドのSランクハンターでもあり、王族の姫でもある彼女に関わるのは賢い選択では無い。繋がりがあり、接する時間があればあるほど、ノアの素性がバレる可能性は増えるし、きっと苦しむ時間も長くなる。


 そんな考えで頭を悩ますノアを見たアテナは、不安そうに眉を下げていた。


「ダメ、かな?」


 何故彼女がここまで自分と一緒に来たいのかは、ノアには理解できない。しかしそれが理解できたなら、きっと心が取り戻せるとノアは思った。







ーーーこうして今にいたり、四人は遺跡へ向かって足跡を重ねていた。

 防具に浮かれているロキ、お腹を鳴らしているメアリィ、力と悩みを隠し通そうとするノア、身だしなみを優先するアテナ。

 超危険区域である遺跡に入るには、なんとも不安な四人であることは確かだった。

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