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成れ果ての不死鳥の成り上がり・苦難の道を歩み最強になるまでの物語  作者: ネクロマンシー
第4章 進行し続ける代償
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第125話 化け物達

「お、お前。 どういうことだよ⁉︎ 取引は……約束が違うじゃねぇか‼︎」


 シスマは叫ぶ。裏切らた事、殺される事をやっと理解し、初めて表情を怒りに染めた。しかし、そんな激情に呑まれているシスマとは対極に、ノアはひどく当然のように落ち着いている。


「最初からこうするつもりだったのか? なら何故今まで待っていた! 俺が岩から解放した時点で逃げればよかっただろ!」


「まさか!気が変わっただけだよ。 君の案に乗るより、こっちのほうが僕に利点が多いからね。 どのみち自由なんだから、もう君に付き合う必要なんてないし、そもそもこんなのは取引にすらなってない」


 バッサリと切り捨てられたシスマは信じられないものを見るように瞳を震わせた。実際にノアの行動を、シスマは未だに信じられないのだ。


「……これも作戦、なんだよな? そうだよなぁ?」


 怒りと困惑の狭間に揺れるシスマは、ノアと歩みよってくるエルザを交互に見る。


「困った子だわ。 母親である私に刃を向けて、泣きながら逃げ出し、こんなとこに捨てられてるなんて。謝ったら許してあげようと思っていたけど。 ……今の貴方、本当に醜いわ」


 シスマは絶望するしかなかった。エルザの目が、コレクションを見る目から、ゴミを見る目に変わっているからだ。


「ッ……!。 不死鳥ッ、いいのかよ! こいつはお前の仲間を殺したんだぞ! 仲間をこんな石ころのように扱われて、今もニヴルヘイムで仲間が死んでいってる。 それを止めたいんじゃなかったのか!」


 そう言われたノアは、ティアラや顔見知り達の生首を見て、一瞬だけ悔しそうに表情を歪めた。

 それを見たシスマは希望を持った。本当はエルザを殺したいと思っていたのだと。仲間の死を悲しんでいたのだと。だが、それは違った。


「知らなかったんだ」


「知らなかった?」


「ああ。 ニヴルヘイムが、これ(ティアラ)が、遺跡の場所を一つしか管理していなかったなんて知らなかったんだ。 だから今まで忠誠を誓ってきたし、ご機嫌取りもしてきた。 結局は時間の無駄使いだったけどね」


 シスマはその発言にゆるゆると首を振る。死ぬということは、今まで自分の日常の中で生きていた人達が消えることだ。一度死んでしまえば、もう二度と話すことも、笑い合うことも、触れ合うことも、何一つできなくなるのだ。

 それなのに、ノアは動じることなく今こうして笑っている。それがどれだけ恐ろしいことなのか、それはここにいる中でシスマにしか理解できない。


「一緒に過ごした人達なんだろ……。それが今、殺されたんだぞ?何かのために利用してたとしても、同じ場所で暮らして、同じものを食べて、同じものを見てきた仲間だったんだろ? なのに……なんでそんなに平気でいられるんだ!!」


「なんでって、こいらはもう死んだんだ。 悲しんでも怒っても、こいつらの価値は変わらない。それ以上でも、それ以下でもないだろう。 死んだってことは、そういうものだよ」


 ノアは転がっている頭を見て、自分の心と相談するがやはり何も答えは出てこない。自分とティアラ達の関係を知らないから言えるのだ。あんなくだらない毎日を繰り返し、今更情なんて湧くはずもないだろう。


「…………そんなのおかしいだろ、イカれてるよ!お前ら! !価値だの何だの、()()()()()()()()()()()()()!」


 拳を握り、シスマは吠える。自分の事ではないのに、並べられた首を見て泣きそうになった。だがこの二人にはそれがないのだ。他者の命や人生を、希少価値や利用価値で左右させるノアとエルザが、化け物以上におぞましく見えて仕方がなかった。


「何でわからねェんだよ!何で不思議そうな顔をしてんだよ! お前らがやってる事は普通じゃないんだぞ!? 皆んな一人一人に、お前らには無い感情や魂があるんだ! それなのに……」


「うるさいな、立派にお説教でもするつもりか? お前だって僕を殺そうとしただろ。 お前があの時の事を気にしてなかったとしても、何で僕も許さないといけないんだ。 お前は負けたんだよ、前回も、そして今回も」


 この世界は勝者こそが正当化される。何をしても、何をされても、勝った者が全てを決めれる。それを知っているノアに、シスマの言葉は届きはしない。


 いつも側に居てくれた少女を殺された恨みを果たすことも、自分の生涯で溜まり続けた憎しみも、最後に裏切られた怒りも、人としての感情に対しての訴えも、シスマの想いは何一つ届くことはない。心を失った化け物達に、化け物ではない者達は喰われるだけなのだ。


「このッ、化け物がァ!!」


 頭が体から離れるその瞬間まで、シスマはノアを睨み続けた。










「ふふ、流石ね。 私から逃げようとするからこうなるの。 せっかく愛してあげたのに、大切に育ててあげたのに。 けれど、死にゆく姿は美しかったわ」


 注がれた命が溢れる瞬間は言葉で言い表せないほど美しい。エルザはうっとりとした表情で、赤い花を咲かせたシスマを眺める。


「死体は中身をくり抜いて剥製(はくせい)にして、ずっと保管してあげるから。安心して眠りなさい。 コレクションとしてなら、これからもずっと側に置いてあげるわ」


 生きていたほうが勿論コレクションとしての価値は高い。だが逃げ出すくらいなら殺して、永遠に自分の手元に飾れるほうがいい。

 エルザは綺麗に斬られたシスマを手に取り、さっそく剥製にするために中身を取り出そうとする。子供は母親の目の届くところに常にいなければならないのだ。


「……そうだな。 これからもずっと側にいるべきだ。 だからお前も、すぐに送ってやるさ」


「……?。どういう意味かし……ら」


 言葉の意味がわからず、振り向いたエルザ。すると視界に入ったのは、剣を振り下ろしていたノアだった。

 ペチャリと手に付着した何か。自分の血を見た事がなかった彼女だったが、それが何か気づくまでにそう時間はかからなかった。何故なら、どうしようもない痛みに現実を教えられたからだ。


「キャァァァアアアァァァァ」


 腰ほどの太さがある尻尾が、ノアの一太刀によってまとめて切り落とされていた。エルザは大量の血をぶちまけながら、痛みに悶えて転がり回る。


「少し残っちゃったな」


「……な、なんでっ! ァァァァア」

 

 気づかれるのが早かったせいで狙いがズレたのか、切断出来ていない九尾の尻尾がまだ二本残ってしまい、ノアは残念そうに肩をすくめた。


 エルザは何故剣を向けられたか理解できず、理由を問おうとするが、痛みでそれどころではない。だが理由はごく単純なことだ。ノアは別にエルザを裏切ったわけでもなんでもない。最初から味方になる気も、コレクションになるつもりもサラサラなかったのだ。しかし遺跡の場所を聞き出せるまでは普段通りご機嫌取りでもしてやるつもりだった。


 だが、彼女はミスを犯した。ノアが自ら自分のコレクションになってくれたと、『崇拝』の力に侵されたと思って信用し、情報の在り方を喋ってしまったのだ。


(この女の部屋に遺跡の情報を管理している巻物があるなら、もう持ち主は不要。 殺しても構わない)


 さっきとはまるで違う冷めきった目つきのノアに慌てふためき、やけになったエルザは青い炎を一心不乱に放出する。


「私の()が効いてないはずが……。 こんなの嘘よ! 私は母親よ? 母親に手をかけるっていうの!? そんなの、私の子供じゃないわ!」


 蒼炎は恐ろしい高火力で、一瞬で部屋ごと焼き尽くす。防いだ腕も炭となり、隙間から流れ込む熱で顔も焼かれる。この異能の前では、誰であろうとなすすべなく焼き殺されてしまう。


 しかしどんなものでも焼き尽くす炎だろうと、不死鳥には関係ないことだった。焼かれながら殺せばいいだけなのだから。


「口は言葉を創り出し、言葉は嘘を吐く」


 確かにノアは感謝の言葉をエルザに送った。だが心のなかでは一欠片もそんな感情はなかったため、エルザの呪いにかかることもない。それなのにエルザは言葉の意味だけを汲み取り、安心しきった。シスマもそうだ。ノアに協力すると言われて喜び、ほいほいとエルザの呪いなどの情報を渡した。しかし悪いのはシスマ達だ。嘘に踊らされ、自分達の解釈のままに話を進めた。それにどちらにせよ、今ここでエルザを殺してやるのだから、対して変わらないだろう。


「誰しも他人に見せる人格は嘘で塗り固めた一面。だが嘘だとしても、飾ればそれはもはや人格なんだ」


「ひっ!!」


 所詮は王族の一人。エルザに騎士やハンターのように戦闘経験があるわけではない。虚飾の前では、ただのちっぽけの女でしかないのだ。



 ノアは残りの尻尾も一本一本丁寧に切り落として、気高い九尾を底に落とす。


「これでお前の希少価値も無くなるなぁ」


「やめてぇぇぇええええ!! 」


 エルザは涙を流しながら、短くなった尻尾を振り回す。しかしノアには届くことなく棚や本を派手に散らかすだけ。そんな王族の無様な足掻きにため息を吐くと、ノアは剣をエルザの首めがけて一気に振り下ろした。



 しかし剣から伝わったのは首を落とした感触だはなく、もっと硬い何かにぶつかったものだった。それは割り込んできた少女の爪に弾かれたからだ。


「……随分と好き勝手やってくれたわねぇ」


「思ってたより遅かったね」


 ノアの剣を止めたのは、ツノを隠しきれないフードを被った少女、トビラだ。トビラは、ギザギザとした歯が生えた口を歪め、ノアを睨んだ。その形相は、ゆったりとした口調からはまるで想像できないほどで、まさに鬼のようだった。


「お前らが喧嘩を売ってきたんだ。 どいつもこいつも邪魔ばかり。 ここに連れて来られた時から、僕はお前らを殺す事は決めていたんだ。 一人残らず、お前も勿論例外じゃない」


 タルタロスの時からだ。何度も何度もノアの障害となり、ニヴルヘイムに行っても任務で邪魔をし、今もこうして無理やり連れて来られた。だからノアは決めていた。関わった奴らを全員後悔させてやろうと。自分に関わればどうなるのかを教えてやろうと。騎士達やティアラ達もいづれはやるつもりだったのだ。


 だがこうしてずっと心の底で溜め込んでいた怒りを、今吐き出せたのだ。


「言うじゃなぁい。 でも、出来るかしら? さっきの二の舞にならないことねぇ」


「ああ、それはないよ。 僕も()()()()()


 壊れることを決意したノアは瞳を紅く染めた。視界いっぱいに広がる歪みは心も巻き込み、世界を変える。その異様な光景にトビラは表情を険しくさせたが、彼女は退くそぶりは見せなかった。


「こんなでもね、昔は優しかったのよ」


 トビラは、側で震え上がっているエルザに一瞬視線を向けた。かつて道端で拾われ、育ててくれた恩人。汚い子供の母親がわりとなって笑顔を取り戻させてくれた王族。


「まぁでも仕方ないわねぇ。 これは私達の宿命、互いに壊れていくしかないの」


 その言葉を語っていく少女は健気な表情ではあったが、身体や骨格がどんどん変化していっている。ツノや牙は更に肥大化し、おまけに悪魔のような羽や蛇の頭を持つ尻尾すら生え出した。彼女は合成獣(キメラ)だった。


 トビラは禍々しい爪をノアに向け、残酷な笑みで笑う。呪われたからには、自分が正しいと思う事を完遂するまで。


「私はこのムスペルスヘイムの騎士長。 この人は守り、あなたを壊す。 さぁ、先に壊れるのはどちらかしらぁ 」

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