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成れ果ての不死鳥の成り上がり・苦難の道を歩み最強になるまでの物語  作者: ネクロマンシー
第3章 妨害し続ける身分
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第117話 所詮中途半端な覚悟

(……どうするべきだったんだ)


 ノアは手のひらを見つめて、何が悪かったのかを見直そうとする。しかし答えが出ることはなく、しばらく立ち尽くしたままだった。出来る限り優しく言いよったつもりだったが、それすら拒まれてしまえば、なすすべがなかった。



(そんなことより、まずは追わないと…)


 不要な雑念を振り払うように首を振り、ノアはアリスが出て行った扉に向かう。しかし、その扉は使用人達の手によって閉められた。


「なにを……」


「零番隊隊長、止まりなさい」


 振り向けば、踊る王族達の奥のさらに奥。紅茶のカップを傾けている第一王女、ティアラと目が合った。


(僕のことか? よりにもよってなんで今なんだ。こんなやつに付き合っている場合じゃない)


 ノアは、ティアラの発言を無視して扉の前の使用人達を退けようとする。賢い判断とは言えないが、今はアリスの事が心配だったのだ。そんな許されない無礼を働くノアを見て、ティアラは薄ら笑いを深めた。


「いいのかしら、私の命令に背いて。 私の一言であんな出来損ないなんて一瞬で消せちゃうのよ?」


 使用人の肩に乗せていたノアの手がピタリと止まる。ティアラはこの国の第一王女、それはこの国では絶対なる象徴だ。アテナや他の区の王族達すらも、彼女の地位には及ばない。そのため、全員がティアラの発言、言動を見守り機嫌を損ねないようにすることしかできなかった。


「ッ…………何の用ですか」


「ふふふ、そんなに睨まないで。 私を睨もうなんて不届き者はこの国で貴方くらいでしょうね」


 邪魔をされた事に怒りを覚えたノアは、ティアラを真正面から見上げた。

 そんな騎士あるまじき態度に、ティアラは笑いをこらえきれない様子で椅子から立ち上がった。今までティアラに向けられてきた視線は、機嫌を損ねないように恐る恐る向けられたつまらないものばかり。しかしノアには堂々と怒りを向けられ、ティアラは新鮮さを感じてしまう。


「貴方、私の守りびとになりなさい」


「は」


 驚きのあまりに喉から漏れた声。それは誰が発したのかはわからない。ノアの事を罪人だと知っているニヴルヘイムの王族か。その地位が、第一王女の守りびとという名声が欲しくてたまらなかった騎士達か。驚くように口元を押さえて固まっているアテナか。それとも、ぽつんと立ち尽くしているノアか。


「私の守りびとになれば不自由のない生活ができるわよ。 今まで罪人と言われて苦しい思いをしたんじゃない? でも私の騎士になったらそんな思いさせないし、何をしても許されるわよ?」


「何で僕を……」


「理由なんてないわ〜。強いて言うなら面白そうってくらいよ。 それに……」


 ティアラは一瞬だけアテナに視線を向けて口角を上げる。ここに来たばかりと比べると、ノアの今の評価は段違いだった。任務をこなす速度は騎士長すら認めており、ニコラスにも勝ったことは有名だ。それに庭で行ったホムラとの決闘のことも大きかった。騎士だけでなく王族の中にもノアを注目し、認め始める者達が出始めている。だがティアラの理由はそんなものではなかった。


「おやつは人から貰う一口が一番美味しいもの」


 他人が欲しがったから欲しい。流行っているおもちゃがあれば独り占めにしたい。子供のような性格のまま大人になったティアラは、そんな欲望を堂々と吐き出してくる。ノアの事情も、皆んなの視線も御構い無しに、ティアラは不敵に笑っている。


「有難い話ですが、ティアラ様には一番隊隊長のニコラスが付いているのでは?彼の代わりなんて僕にはとても……」


 この流れを嫌ったノアは第一王女を否定することなく、やんわりと抜け道を探そうとする。

 だが子供は新しいおもちゃが欲しい時、前まで気に入っていたおもちゃなんて簡単にゴミへと変わる生物だ。


「ああ、あれ? あれはもういいわ。 煩いうえにつまんないし。 そうだわ、ニコラスをあの子にあげましょう」


 ティアラは名案を思いついて機嫌よく鼻を鳴らした。ニコラスを捨てて、ノアの代わりにアリスの守りびとに押し付けるという意味だろう。


 ノアは流石に反対するしようと口を開くも、結局言葉は口から声となって出ることはなかった。


「あの子の事が心配だったんでしょう? ならこれでもう断る理由すらないわよね。 それにさっき見てたけど、貴方じゃああの子の世話は無理そうだし」


「そんなこと……」


 否定しようと、言葉を紡ごうと、ノアは必死に脳を動かそうとする。けれど心は、ティアラの言葉をストンと胸に落として受け止めていき、握った拳は自然と開いていく。



 ーーー確かに、そうだ。




 アリスが怒ったり機嫌を損ねる理由は大体ノア自身が原因だ。そしてその意味がノアにはわからない。さっきだって、ノアはアリスの事をどうにかしようとしたのだが、空っぽのノアには何もする事が出来なかった。ニコラスなら、きっとアリスにそんな思いをさせることはないだろう。

 ノアと比べニコラスは人望も厚く、誰かにアリスの陰口を言わせないかもしれない。もっと早く、ニコラスと変われていたらアリスに外の世界に恐怖を覚えさせなかったかもしれない。


「貴方はもっと早くあの子から離れるべきだった。貴方があの子を未完成のまま完成させようとした。 ここで身を引くのが、()()()()()()()()()()?」


「アリスの、ため……」


 ティアラの言葉全てが、じんわりと染み込んでくるのがわかる。何故ならそれはノアが日頃から思っていたからだ。下界から来たノアは、アリスに上界の、ましてや王族の嗜みなんて高貴なものは教えてやれない。所詮はノア自身も中途半端な代物なのだ。未来のあの子を思うなら、こんな自分より断然ニコラスのほうが可能性を見出せると確信できる。ニコラスなら、アリスにあんな事を叫ばせたりしなかっただろう。あんな涙を流させなかっただろう。


 アリスの拒絶は、ノアの中の劣等感を大きく膨らませていた。



「さぁ! 私のもとに来なさい」





 ――ノアがゆっくりと頷くのを見たアシュリーやホムラは複雑な表情を作る。だがノアはもう決めたのだ。


 ここからは、自由にやろうと。


 何をしに上界に来たのかを思い出せ。本当の目的は子守をすることじゃない。自分は十分に頑張ったんじゃないか。


 これで終わり、罪滅ぼしは終わりなのだ。


 そんな言い訳を並べ、半端な覚悟を上塗りして無かったことにする。そんなノアを見て、ティアラはまた嗤う。欲しかった物がまた一つ手に入ったと。飽きるまで遊んでやろうと。

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