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成れ果ての不死鳥の成り上がり・苦難の道を歩み最強になるまでの物語  作者: ネクロマンシー
第3章 妨害し続ける身分
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第105話 刻み込んだ感触

 頰をぺちぺちと叩かれた刺激で意識が持ち上がり、目をゆっくりと開けた。するとそこにはアリスの顔があり、不機嫌そうに頰を膨らませていた。


「にぃ、もーおひる! おなかすいた」


「え? いつのまに寝ちゃって……ッ、なんだこれ」


 アリスに言われ手をついて起き上がりはしたが、吐き気と頭痛に襲われて座り込んでしまった。うずくまるノアを心配したアリスは、さっきまで怒っていた事を忘れて心配するように背中をさすった。


「どーしたの? じょうぶ?」


 ノアは昨日の記憶を辿ろうとするが何も思い出せなかったが手に何かを握っていた事に気づく。


「ああ、そうだ。 アリス、これお土産」


 アリスは袋を渡され首を傾げたが、中に入っていたのが食べ物だと知って両手を上げて喜びを表す。しかしノアは宴会の場に行った事しか思い出せず、頭を悩ませるばかりだった。

 ノアは一緒に宴会へ行ったはずのメアリィ達に話を聞きに行くために、頭を押さえながらも塔を出て行こうとする。だが、その前にアリスがノアの袖を引っ張った。


「にぃ、これヤ」


 アリスは舌を出して顔を歪めていた。袋の中身は高級食材を選び抜いた一流の料理なのだが時間が経ったせいか、炎で温めて直してもアリスの口には合わなかった。

 仕方なく、ノアは食料の調達のためにメアリィに会うよりも先に厨房へ向かうことにした。すると何故か、すれ違うメイド達の視線が妙に絡みついてきた。その表情に込められた感情を読み取る事ができず、気にはなったがお互いが避け合い言葉を交わす事はなかった。食堂へ着くも、テトがいつものように出迎えてくれると思ったが姿が見当たらない。近くでテレサが机を拭いていたので軽く挨拶をするも、ノアを見た途端にテレサは驚いたように笑みを引攣らせて会話を濁らされてしまう。そこまで来るとノアでも昨日何かをやらかしてしまった事は想像できる。


(昨日僕は何をした。くっ、ダメだ。全く思い出せない)


 テトに何かあったのか。もしかしたら八咫烏としての正体がバレるような事があったのか。それとも眼を酷使するような出来事が起こり記憶に障害でも起きたのか。

 ノアは不安が沸き起こり、痛む頭をぐっと押さえつける。すると厨房の奥に、テトの影らしきものを眼で捉えた。体を縮めて座り込んでいるようだが、とにかくテトを見つけたノアはホッとしながら声をかけた。


「なんだ、いたのか。テト、僕は昨日……」


「にゃっ!?」


 名前を呼んだ瞬間、テトは肩を跳ねさせて頭を台にぶつけた。バンッと大きな音が厨房内に響かせ、台の下から頭を押さえながらテトはゆっくりと這い出てくる。


「ちょ、大丈夫?」


「ひっ!」


 二人は互いに頭を押さえながら向き合い、それぞれの困惑を胸に足を止めた。テトは顔を真っ赤に染めて慌てふためくように手を動かす。ノアが心配して一歩近づくと、それに合わせてテトは一歩下がった。

 テトは、熱くなる頰を両手で挟み喉からくぐもった声を漏らす。耳は触られた感覚を忘れておらずノアを見ただけで激しく震え、めちゃくちゃにされた尻尾は毛を逆立たせるのをやめなかった。


「……待って、今日はちょっと……だめ、かも」


 興奮を落ち着かせようとしながら目を泳がすテト。何が起きても落ち着いて対処するテトがここまで尋常ではない慌てっぷりを見せている事に、ノアはさっーと血の気が引いていく。ノアは記憶の断片をどうにかかき集め、きっかけを思い出していく。


「そうだ、酒だ」


「ひゃっ!」


 思い出した喜びもあり、ノアが手を叩いて声をあげると、テトがまたもやビクリと体を跳ねさせた。だがその反応でそれが間違いではないことは確かだと判断し、また一歩前へ出る。


「僕は昨日、確かに酒を飲んで……」


「ふわぁ!」


「っ、思い出せない。テト、僕は昨日何をしでかした? 何処までやった?」


「どどど、どこまで? ……べ、別に…き、昨日は……わ、わすれて!」


 昨晩、自分を包みこんだ影の形を思い出し、テトは目を潤わせながら猫のように走り去ってしまった。その怯えようにノアはどうすればいいかわからなくなる。


「思ったよりこのミスは今後に響くかもしれない。くっ、だが思い出せない。やっぱりメアリィを探してみるか?」


「はい!なんでしょう!」


 名前を口にした途端、メアリィが勢いよく扉を開けて姿を現した。肩で息をしている様子から呼ばれた途端、全力で駆けつけてきたのだろう。


「ぜぇ…はぁ…。すぐ来たよ! 怒ってないよね? だからアレだけはやめて!」


「なんで聞こえて……というかアレって?」


「アレはもうイヤ! 頭がおかしくなるの! 今度から言うこと聞くよ? 大人しくするから!」


 前のめりになりながらも、メアリィも何かを恐れているようだった。だがノアからすればメアリィが大人しくなるのは好ましいので意味もわからず頷くことにした。しかしメアリィは説明するのも恐れ、結局はテレサがノアに話を詳しく説明してくれた。何があったのか、何をしたのか。そして誰がそのノアを止めたのか。

 それを聞き終わったノアは盛大に頰を引き攣らせた。












 ーー昨晩、宴会の中心でニコラスは優雅に酒を嗜んでいた。あまり得意とは言えないのだが、少し口に含むだけでメイド達が次々に酒を注いでくれるためやむ終えず飲み続けた。クレアや部下達と他愛ない話を交わしながらも、ニコラスは周りを囲んでいるメイドの中に猫耳を生やした少女が居ないかをこっそりと確認し、密かに肩を落とした。


(やっぱりこういう場には来てくれないか)


 メイド達が酒を注ぐのは仕事の範疇(はんちゅう)ではあるが彼女達の好意であり、日頃の感謝を込めるという意味でもある。ニコラスはそれを彼女から貰える事を少しだけ期待していたのだが、姿は見えずに落胆してしまう。何故ここまで彼女の姿を探してしまうのかわからないが、出会ったのは最近なのだからそれも仕方ないと探すのを諦めた。

 そんな時、騒がしい音が端の方から聞こえてきた。宴会の場は楽しむものであり、騒ぐところではない。ルールも守れない輩が嫌いなニコラスは、酒に煽られいい気分になっていた顔をしかめてそちらに向ける。そして、奥で繰り広げられていた光景を見たニコラスは一瞬で酔いは覚ましてしまう。

 騒いでいたのは罪人の男であった。そして何よりその男の腕の中では、件の少女が指先を僅かに痙攣させて虚ろな目をしていたのだ。そのまましばらくすると少女はぐったりと倒れてしまう。


「あれは、テト? ッ貴様ァァァ!」


 ニコラスは翼を広げ、皆の頭上を越えてノアに飛びかかった。相手が酔っ払っていると気づくが、だからといって許せるわけもなく。ニコラスは豪速の拳を思いっきり、これ以上にないほどの力を込めて拳を叩きつけた。その様子には誰もが驚いただろう。軽々と吹き飛んでいくノアからすぐに視線を外し、ニコラスはテトの身体を持ち上げる。


「テト!おい、テト!俺だ、しっかりしろ。 あいつに何をされたんだ?」


「……そんな、だめ。……やめ、なくていいけど……でもやっぱり……」


 テトの身体を必死に揺するが意識が朦朧としているのか、声が途切れ途切れで聞こえない。近くには奴隷にされた少女と、五番隊隊長のホムラも倒れており罪人への怒りで顔を歪んでしまう。加減を間違え、罪人は今ので死んでしまったかもしれないがもう一度殴ってやろうかと本気で思えた。


「……おいおい、いきなりご挨拶だな? 面白いじゃないか。お前も床を舐めたいのか?」


 ニコラスは驚愕する。なんとノアは立ち上がるだけでなく、楽しそうに笑っているのだ。側から見れば気づかないだろうが、ニコラスは本気で拳を入れたし、骨も砕いた手応えは確かに感じた。


(うそだろ、なんで立てるんだ? 前はあんなあっさり……。いや、いいさ。 次は頭を……)


 ニコラスは表情に影を作り、ノアと対面する。

 前回は情けをかけて手加減をしていた。次は本気で潰してやろう。殺しても別に問題ない。罪人が暴れだしたから処理したまで。こんなやつ、生きていても仕方がないしきっと皆も困っている。それに、彼女も。


 ニコラスはテトを見て拳に力を込める。心の中で湧き上がる感情を全てぶつけてやろうと相手を見上げた。

 しかし、その間にノアは崩れ落ちるように倒れていた。


(……寝てる。やっぱり効いていたのか、それとも酔い潰れただけか。くそっ)


 気を失って倒れている者を本当に殴りに行くことなどニコラスにはできず、心の中で何度も舌打ちをした。

 暴れていたノアを止めてくれたと他の者達は思うだろうが、ニコラスの心の中は黒い粘り気のある感情が溜まっていた。

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