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成れ果ての不死鳥の成り上がり・苦難の道を歩み最強になるまでの物語  作者: ネクロマンシー
第3章 妨害し続ける身分
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第100話 崩壊の前兆

「うぅ…ひっぐ、あぅ」


「もう、泣いても仕方ないでしょ」


 嗚咽まじりに泣きじゃくるアリスを、アシュリーは宥めるように背中を撫でてやる。ノアが出て行ってからずっとこの様子で、流石のアシュリーも困ったように眉を下げていた。


「…にぃに、ひぐっ、……ひどいこといった」


 死んじゃえ。そんなこと思ってなんかいないのにノアが離れて行くのが嫌で思わず口から出してしまった。その時のノアの顔を思い出してアリスは深い後悔を残していた。


「そうね、さっきのは貴方が悪いわ」


「うぅ…でもにぃがどっかいくから……」


「それも貴方のため、ノアはいつも貴方の為に頑張ってるのよ」


「……ほんと?」


「ええ、だから帰ってきたらちゃんと謝るのよ。 お姉ちゃんも一緒に待っててあげるから」


 泣くのをやめた妹の頭をアシュリーは優しく撫でてやる。

 アリスは自分のためにいつもノアが色んなことをしてくれていることはわかっていた。それでも素直になるのが難しかったのだ。しかしアリスはノアに感謝の気持ちを忘れた事は一度だってなかった。


「……うん、あやまる」


「偉いわ。 さ、もう少しよ」


 アシュリーは、アリスの手を握って塔へと向かっていた。王族の部屋は広すぎたのか、アリスは落ち着かない様子だったため本人の希望もあり塔の中で待つ事にしたのだ。だが、塔に着くとアシュリーは目を見開く。


「な、なに……これ」


 塔の部屋へと(いざな)う螺旋階段を見上げてアシュリーは驚愕に染められる。それを見たアリスは、アシュリーが階段の多さに驚いたのだと思った。自分もノアにおぶって貰わないとこの階段を登ることが出来ないからだ。

 だがそれは違う。アシュリーが驚いたのは階段や壁についている()だった。

 引っ掻き回したような跡、何度も何かをぶつけたような窪み、乱暴に何かが暴れたような亀裂。まるで獣が怒りのままに暴れ狂ったような傷が至る所にあったのだ。しかもこの傷は新しいものではない。何日も何日も繰り返しつけられたものである。

 誰がここで暴れたのか。 何がこの傷で表されているのか。アシュリーは、壁に痛ましく刻まれた傷を指でなぞって表情を固くした。











 ―――――――――――――――――――


「私のツノは折られたけど……私達の勝利には違いないわ」


 氷剣で頭を貫かれ、ノアは腕をだらりと垂らして壁に釘付けにされている。女はツノを手で押さえて息を荒げているが、この代償も惜しくないほどの相手を倒せた事に喜びを感じていた。


「不死鳥なんだから死んでないわよね? 目を覚ます前に運んじゃいましょ」


 女はノアの頭に刺さった剣を掴んで引き抜こうとするが、念のため先に両腕を土で固めて固定しておく。女はノアを連れて行くのを手伝わないパートナーに文句を言うが、男は心の中に蠢く疑惑を払えずにいた。


(な、何かがおかしい。俺は腕を飛ばすつもりで……いや、まさか!?)


「駄目だ! そいつから離れろ!」


「え?……」


 本能が危険を訴えかけ、男は思わず叫び声をあげた。だがその時には既に遅く、女の体はくの字に曲げられ吹き飛ばされていた。


「ッ!!やっぱり……お前、わざと…」


 男は声を震わせながらノアを睨む。

 

 さっきまでノアの腕を固めていた岩が不自然に解けてぼとりと落ちる。ノアの眼は紅葉のように赤く染まり、また一つ何かが壊れた音を響かせた。









 顎を蹴り上げられた影響で脳震盪(のうしんとう)を起こし、ノアの脳に神経障害が生じてしまった。足が言うことをきかず、膝をつくことしか出来なかった。だからノアは、相手の氷剣に自ら頭を突っ込むことで脳を破壊させた。破壊され再生されれば元どおり。そのほうが時間での回復を図るよりも確実なため、()()()()()()()最適解。

 

「くっ、不死鳥ってのはそんな便利な体してんのかよ」


 男は一歩づつ後退しながら横目で女の様子を確かめる。女は血反吐を吐いて苦しんではいるが、幸い立ち上がる体力はあるようだ。


 男達はノアを不死鳥だと勘違いしていると思っている。しかし実際に今のノアを見れば不死鳥だと誰もが思うだろうし、あながち間違ってはいなかった。だが、ただ呪われた哀れで醜い雛鳥でしかないのが実態。

 ノアは所詮、不死鳥の成れの果てだ。


 乾いた笑みをこぼしてノアは翼を広げると、男は反応して構えるが、ノアの標的は男ではなく弱りきった女のほうだ。


「な、やめろ!」


 男は咄嗟に走り出したが、急激に加速したノアに触れることさえ出来なかった。


「こいつ、いきなり速く!?」


 ノアは、腹を押さえて朦朧(もうろう)とした状態の女に蹴りをぶちこんだ。


「ウゥゥググ」


 女は泥の壁を自分の前後に作り、ノアの蹴りの衝撃を吸収しようとする。だが蹴りの威力が桁外れに高く、更に奥へと吹き飛んだ。

 女の内臓は破壊されていたが、それと同時にノアの両足の骨もひび割れていた。ジャック・オー・ランタンのエネルギーを使って、ノアは身体能力を暴走させているのだ。身体のリミッターが外されたノアの蹴りは、重く、速く、鋭い。女は、ノアの足元を陥没させて抵抗するが未来を見ているかのようにノアは避ける。

 脚に一回、腹に一撃、顔に一発、ノアの蹴りが炸裂する。何度もバッカスに習った体技、それに莫大なエネルギーを乗せて撃つ。常に最大の一撃を放ち続け、女は歯を砕け散らせながら地面を転がっていく。



「やめろぉぉお」


 男が口が裂けそうなほど叫び声をあげながら突っ込んできた。だが二対一で互角だったノアに男一人で勝てる筈もなく、簡単ねじ伏せられる。さっきまでとは比べものにならない動きと力。自分の攻撃は掠りもせず、男は一方的に吹き飛ばされてしまう。


「なんだよ、不死身なうえにこれかよ。……強すぎんだろ」


「……ふふ、そうね。これは失敗だわ。母さんに怒られちゃうわね」


 男は口から大量の血を吐きながら、女の側に倒れこむ。男はゆっくりと手を動かし、女の手に重ねた。特に意味なんてない。ただ死を受け入れた事を伝えたかっただけで、女も諦めたような笑みでそれを受け入れる。




 しかしノアはその二人に死を振り下ろすことができなかった。


「………こんな強さなんて、僕はいらなかった」


 それは男達の耳まで届き、二人はノアの歪めた表情を見上げて驚いたように言葉を見失った。

 そこにあったのは先程までの化け物とは思えない弱々しい少年のような顔。


「こんな体、いらなかった。……あの時一緒に死ねたらって、何度も思った。 強くなくたって、君の側に居られたらって……」


 ノアはぽつぽつと弱音を吐いていく。目の前の弱りきった二人を見て、何かを重ねてしまったのかもしれない。二人の姿はある意味、ノアの理想だったのかもしれない。


「おい、お前…」


 男がそんな苦しむノアに声をかけた。優しさだったのかもしれない、同情だったのかもしれない、だが自然と口から声が出たのだ。

 しかし次の瞬間、ノアの眼が深く染まり、表情が一変した。



「違う……。弱さは罪だ。 同情されてたまるかっ‼︎ 僕が弱いから失ったんだ。 あの時、僕に力があれば奪われる事もなかった。弱さを憎め、弱きを殺せ」



 眼が根を張り脈うち始める。


「アァァァ!?」


 ノアは激痛に耐えきれずうずくまる。目の前が真っ赤に染まり、茨が脳みそに絡みつく。


「ッ!、おさまれ!おさまれ! おさまれ」


 ビキビキと割れていく神経を、顔に爪をつきたてながら必死に繋ぎ止めようとする。


 そんな悲しみの痛みに暴れ回るノアを背に、女がよろよろと立ち上がった。


「今のうちに……逃げましょう。次狙われたら死ぬわ」


「でも母さんが……」


 男が母の名を出すと女の表情も険しくなった。だがそれでも、目の前で蠢く化け物から遠ざかるために首を横にふる。


「今回は仕方ないわ」


 最後にチラリとノアに視線を送った後、二人は地下から去っていく。














 何分間苦しんでいたかはわからない。だがどっと疲れを感じたノアはその場に倒れこむしかなかった。


「……はぁ……はぁ」


 ノアは地面に仰向けになって酸素をめいいっぱい取り込む。ノアは日に日に感情のコントロールが難しくなっていた。

 しかし、まだ壊れるわけにはいかない。やらなければならない事がまだあるのだ。


「もう少し、もう少しだけもってくれ……」

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