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成れ果ての不死鳥の成り上がり・苦難の道を歩み最強になるまでの物語  作者: ネクロマンシー
第1章 壊れ続ける日常
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第1話 黒い翼

 今より700年前、ある大陸に6つの大国があった。その国は長年もの間戦争を続け、人間達は化学という現在では太古の魔法と言われている力を使用した。それぞれの国で崇められていた『悪魔』『天使』『獣』『龍』『鬼』『妖精』これらの生物を使い研究を重ねた結果、自分達の身体にその生物の力を宿し変化をおこす薬を生み出した。戦士達は自分達にその薬を打ちこみ爪や羽などを生やし姿を変えていき、ついには人間をやめていく。その者達を人々は亜人と呼んだ。



 だが何千もの数の亜人達は 火を吹き、氷を(まと)い、雷を降らせ、血を流して身を削りながらも何年も何年も熾烈な争いを続けた。敵の国を焼き潰して暴れ回り、潰されたら怒り狂う。血で血を洗う戦いの繰り返し。



 ーーーその結果、空は濁り、空気は汚れ、海は潰れ、大地は壊れ……世界は滅んだ。



 亜人達は暴れ狂いながらも戦い、その姿はまさに悪魔や獣そのものだった。そして疲れ果て、朽ちていく者が出始めようやく気づく。


 守るべき対象なんて既にいなくなっていたことを。自分達が壊したこの世界で亜人以外は生きていけるはずなく家族は既に死んでいたことを。



 炭のようになって朽ちている家族達を見て亜人達は己の愚かさに気づき争いを辞めた。今まで争っていた者達は目を覚まし手を取り合って一つの国として平和を作り上げることを誓ったのだった。

 

 この戦争をのちに人々は六花の戦火と呼んだ。


 そして6つの国の亜人は〈魔族〉〈天空族〉〈獣族〉〈龍族〉〈鬼族〉〈妖精族〉という6つの種族で分けられて呼ばれたが、一つの国で互いに協力し合い何も無くなった文明を、緑を、大陸を復元していったとさ。


 



  そんな大陸に産まれた〈不死〉の力を持った一人の少年の物語。何よりも白く、誰よりも黒い不幸を歩むたった一人の物語。













 ▲▽▲▽▲▽


 何もない荒野を1人の少年が歩いていた。


 何日も何日も目的地も無くただひたすら前に歩き続ける。体力はとっくに尽き、身体はボロボロで瞳も虚ろであった。服は血と泥で汚れ、唇は乾燥で裂けて血が(にじ)む。足の裏も削れて肉が丸出しになっているせいで後ろには血の足跡を作っていた。

 このあたりは六花の戦火の影響が残っており空気に濃密な毒が漂っていた。草木は枯れて黒ずみ、風が吹けば自然はパラパラと崩れていく。

 少年はその場所が毒に侵されていることを知ってもなお進む。鼻や口から血を零しながらもあることを願っていた。




 少年は自分が何故進み続けているかも何で生きているかもわからなくなっていき、次第に死を求めるようになっていた。ただぼんやりと死を求めて彷徨っている。だが()()()()()()()()()ことはわかっている。なにもかもどうでもよくなり俯いた時、足元の石に気付かず盛大にその場に倒れこんだ。起き上がる力など残っておらず、もう指をぴくりとも動かせない。けれど願うことはやめられない。


(ああ……死にたい)




 何度目かわからない願いを浮かべた時、優しい鈴音のような声がした。


『大丈夫?』


 視線を漂わせて声のする方を見ようとするが顔を動かすことすらできない。少年は自分を心配してくれてるであろう人物の顔を見ることもできず、ただ瞼を閉じる。









 ▲▽▲▽▲▽


 何年も前のことだ。国から少し離れた山奥に、獣族が集まる名もなき小さな村があった。六花の戦火が終われど、まだ他の種族を受け入れられないという者もいないわけでない。他者を許さず孤立する者たちの集まりだ。


 ここはそんな獣族達が集まりでできた村。ある日、村で1人の赤ん坊が産まれた。一つの命が芽生えたことに村の者達は祝し、両親も喜びあった。しかし、皆はある事に気付く。


 亜人はそれぞれ鬼族であれば角、悪魔であれば赤い爪など、種族によって特徴的な器官が存在する。そして獣族も例外ではない。


 だが、産まれた獣族の赤ん坊には獣特有の耳や尻尾がなかった。それだけではなく、なんと獣族ではあるはずもない物が背中にあった。


「……悪魔だ」


 誰かが恐れるように呟いた。なぜなら赤ん坊の背中には真っ黒な翼が生えていたのだ。


「この子、羽があるぞ!獣の耳も尻尾もない!」


「馬鹿な!獣族と獣族から天空族や悪魔の子供が産まれてくるはずは...」


「いや、この子の目は天空族の目じゃない!天空族の目は無色なはずだ。この子は黒い」


「なんなんだ、この子は……『気味が悪い』」


 それから赤ん坊は 忌み子 として扱われた。それも当然。他の種族が受け入れられないから国から離れて集落を作っているのだ。

 赤ん坊は村の端にある(おり)のような部屋に閉じ込められた。








 ーーーその子はそのまま10年以上、親の顔も知らずにずっとこの部屋で過ごした。部屋には身体を包むものはないため、代わりに自身の翼で身体を包みこんだ。

 一つだけ食料が投げ込まれる窓があるだけで、真っ暗な牢獄のような部屋。毎日パサパサの味気のない団子状の食べ物が一日一回投げ込まれるだけ。飲み物は雨の日に必死に窓から手を出して手のひらに雨水を貯めて飲むくらいだ。

 窓から外の様子を見ても大人達には(さげす)んだ目で見られ子供達には物を投げられ嗤われる。怒りの感情など少年にはなかったが自分は存在することがよくないことなのだということは分かった。

何故自分がここにいるのか、何故出してもらえないのか、何故餌を貰えるのか。疑問は疑問のままで崩れることはない。


 そんなある日、寝ていた少年に眩しい光が差し込んだ。檻が開けられたのだ。目を細めながら上を見ると茶色の丸い耳とふさふさとした太い尻尾の生えた女が手を差し伸べた。


「外に出してあげるわ。早く出なさい」


 有無を言わせない様子の女に手を引っ張り上げられ地面に投げ出される。


「周りを好きに見て回っておいで」


 女は尻尾を揺らし意味深な笑い声を残して姿を消していく。唐突なことで何をしていいかもわからない。閉じ込められていることが当たり前な少年は外にでてからやりたいことなど考えたこともなかった。解放され、広くなった世界が恐ろしく感じられるが、何となく建物が並んでいる方へ足を運んだ。すると少し離れたところにある一番大きな建物から火があがり始めたことに気づく。建物は燃え上がり暗かった周りが明るくなるほどだった。


 それに気づいた村の者たちが急いで鎮火を始めた。建物に集まり、騒いでる者や火を消そうとしている者、ただ心配そうに見つめている者。新しい風景は沢山で、少年は情報量の多さに困惑し意味もわからず立ち尽くす。建物が燃えている光景に、ただ綺麗だなと観察していた。


甲高い叫び声が後ろから聞こえた。


「何でこの子がこんなところに!」


 後ろを向けば、先程自分を出してくれた女がこちらを指差し叫び声をあげた。その叫び声は他の人たちにも聞こえるほど響き、村の者たちも今度は何事かとみんな揃ってこちらを振り返った。


少年が気づいた頃には、手に何かを持った者達が包囲するように歩いてきていた。


 今まで閉じ込めていた者が出てきた瞬間に事件が起きたとすれば、それは犯人は決まったも同然だった。少年は始めて対面した大人達にどんな態度をとっていいかわからず座り込む。怒りに顔を歪める人達を見て自分はやはり出て来てはならなかったのかと思い、檻へと逃げ込もうとする。けれど、それすらも間違いだと主張するように大人達に殴り飛ばされた。


少年は訳もわからず地面に転がされ痛みのせいでろくに立ち上がれもしなかった。


「お前の仕業かっ!」「どうやって出てきたっ!」「だからこいつは殺しておくべきだと言ったんだ」


 大人達は好き放題に怒鳴り散らしているが、少年は頭を殴られたせいで耳鳴りがひどく大人達の声が聞こえない。気絶するまで殴り続ける大人達を前に、疑問はやがて消えていった。








 目が覚めると少年は木の杭に縛り付けられていた。手足は固く紐で巻き付けられ、身体は貼り付けるようにぶら下げられている。


「あの火事で村長と息子さんが死んだ、お前がやったんだろう!どーやってあそこから出てきたっ!」


 いきなり犯人にされそうな空気を変えようと必死に誤解を解こうとする。しかしその瞬間に(ほお)を叩かれて遮(さえぎ)られる。叩いた本人を見るとあの時檻から出してくれた女だった。その女はみんなに見えない角度で嗤うと大声で叫ぶ。


「どうやって出てきたか知らないけどあんたのせいに決まってるでしょっ!父さんと兄さんをよくもっ...この子はすぐにでも殺すべきだわ!」


皆に見えないように、女はほくそ笑む。村の長の座を奪うための策略に利用されたのだ。だがそんなもの、少年には関係ない。ただ都合のいい犯人でしかなかった。


「殺しなさい!」


 それを合図に村の者達が少年の足下の薪に火をつけ始めた。だんだんと火が大きくなり足が炙られる。じくじくと痛みが襲ってくる。生まれた時から閉じ込められて、やっと出れたと思うと、殴られ。縛られ。叫ばれ。焼かれ。殺される。もう誤解を解く気にもならなかった。何の感情ももはやなかった。何で閉じ込められていたのかも何で殺されるのかも少年はどうでもよくなってきた。そして...






 ーーーーーその日、少年は業火に包まれて死んだ。

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