129.黒い影。
―ロープ視点―
子蜘蛛や孫蜘蛛から上がってくる報告に溜め息が出る。
今日1日だけで、黒い影に襲われた神は12柱。
怪我などはしていないが、徐々に神達の間で不安が広がっている。
「いったいあれは何なんだ?」
俺はまだ、黒い影を実際には見ていない。
蜘蛛達と一緒に神国を見回っているけど、なかなか目の前に出現してくれない。
そのため、蜘蛛達から上がってくる報告から予想するしかないんだけど。
「色は黒で影のような印象。でも見方によって煙のようにも見えるところがある。黒い影は、呪いに似ている力を持っている。神を襲うが神族は襲わない。そして黒い影に触れても今のところ、何も起こらない。追うと忽然と消える、か」
一番不思議なのは、襲っている黒い影に触れても何も起こらない事だよな。
蜘蛛達の話では、黒い影には不穏なものを感じるそうだ。
だから襲われそうな神を助けているのだけど、実際に黒い影が神に触れても何も起こらない。
それなら、黒い影はどうして神達を襲っているのか。
考えてもさっぱり分からない。
そして何も無いからと言って、放置していいのかも判断が出来ない。
「主も心配しているから、正体を掴みたいんだけどな」
「申し訳ない。俺の力がもっと強ければ、良かったんだが」
あれ?
振り返ると、創造神が扉から入ってくるところだった。
考え込んでいて、すっかり気を抜いていたな。
「焦らなくても大丈夫だよ。創造神の力は増え続けているでしょう?」
見た感じ、5日前よりまた増えているな。
ただ、増え方が少しゆっくりになってきている。
完全に神国を掌握するのは、まだ先になりそうだ。
そうなると、黒い影の正体を創造神が掴むのはまだ無理だな。
「確かに増えているが、以前に比べるとゆっくりだ」
本人も気付いているのか。
「成長したね」
「えっ?」
あっ、しまった。
「なんでもないよ」
つい、口から零れてしまった。
まぁ、成長したと思っているのは本当の事だけど。
最初の頃は、創造神が使う神力を捉える事も出来ていなかったからな。
今では自分の中の神力の量をしっかり捉えている。
うん、やっぱり成長してるな。
「それで、今日はどうしたんだ?」
創造神の言葉に、今日はお願いに来た事を思い出す。
「創造神に許可を貰いたいんだ」
俺の言葉に、創造神と一緒に部屋に入って来た神族が俺をチラッと見た。
彼は、フィオ神が創造神に付けた補佐。
信頼できる者だと、フィオ神から紹介された。
あの時の彼の表情には笑ったな。
まさか、呪界の関係者を紹介されるとは思っていなかったようで、目を見開いて固まっていた。
今では、結構仲が良い。
色々と相談に乗ったのが良かったんだろう。
恋愛相談された時は、「なぜ俺に?」と思ったけど。
「許可? 別に幾らでも許可は出すけど」
「こらっ。駄目だろう? ちゃんと話を聞いてから許可を出すか決めないと」
「あぁ、そうだな。それで何の許可を出せばいいんだ?」
許可を出す前提で話しているな。
まぁ、助かるんだけど。
「この道具を、神国で使用する許可が欲しいんだ」
ナインティーンが作った道具を、テーブルの上に置く。
「カメラ? カメラなら既に許可を出したよな?」
「うん。これはそのカメラの改造版」
俺の言葉に首を傾げる創造神。
まぁ、不思議だろうな。
見た目はほとんど変わっていないから。
でも1つ大きく違うところがある。
「これには吸収魔法が掛かった魔石が付いているんだ。黒い影専用だよ」
道具の裏を見せると、創造神が頷いた。
カメラの裏には、少し大きな魔石が組み込まれている。
そしてこの魔石が、黒い影の力を吸収する予定だ。
主は何とか黒い影の正体を掴みたいと、ナインティーンに相談。
ナインティーンは、黒い影が持つ力を魔石に吸収させる方法を考え、カメラを改造。
そうして黒い影専用のカメラが誕生したのだ。
何故カメラなのか。
黒い影を写真で撮ってから魔石を起動させると、逃げても追ってくれるらしい。
「黒い影専用か」
創造神を見ると、真剣な表情でカメラを見ている。
彼も、黒い影の正体を掴もうとしているから興味があるのだろう。
「これで分かるのか?」
「それはまだ何とも言えないかな」
上手く黒い影の力を吸収できれば、主が調べてくれるだろう。
でも、主が調べても分からない可能性もある。
まぁ、あまりその心配はしていないかな。
一番心配なのは、黒い影が出現した場に居合わせられるかどうかだろうな。
つまり、運任せだ。
蜘蛛達の中で一番運がいいのは誰だろう?
「分かった。許可を出す。俺も黒い影の正体を知りたいからな」
創造神の言葉にお礼を言う。
まぁ、許可が下りないとは思っていなかったけど。
「では、俺はこれで失礼するね。これから黒い影を探すから」
「うん。宜しく」
創造神に頭を下げてから部屋を出る。
さてと、黒い影は何処に出現するかな?
今までに出現した場所を思い出す。
創造神が住む星でしか出現していない。
他の星も調べてもらったけど、一度も出現していない。
でも、創造神の近くには出現しない。
「とりあえず、一番多く出現した場所に行ってみようかな」
それは、リースリア神が管理する建物がある周辺だ。
リースリア神は、今の創造神を送り出した派閥のトップ。
創造神を送り出したという事で、力をつけてきている派閥で警戒しているんだよな。
特に注意する点は、落ち神を輩出した派閥のトップ、ピスリアリ神と手を組んだ事だ。
2柱が手を組んだのは、創造神を傀儡にして神国で力を手に入れようとしたから。
まぁ、その目論見は創造神があっけなく砕いたけどな。
でも未だに繋がっているので、何かするつもりなんだろう。
「お疲れ様」
リースリア神の周辺を警備している子蜘蛛達に挨拶をして回りながら、様子を聞く。
「えっ? ピスリアリ神と会う予定?」
「うん。しかもボッティ神も来るみたいだよ」
子蜘蛛の言葉に、溜め息を吐いた。
「それは、呪いが詰まった黒い塊で何かするつもりという事だな」
ボッティ神は、呪いが詰まった黒い塊を持っている神の1柱だ。
ちなみにフィオ神と仲の良い神ではない。
俺の言葉に子蜘蛛が頷く。
そして前脚を万歳するように上げ、前脚の先だけをくるくると左右に揺らした。
「頭の中が残念だね」
どうやら前脚で、残念さを表現したみたいだ。
頭の中がくるくる?
「その踊り? 何処で覚えたの?」
「神族が神に向かってやっていたんだ」
あはははっ。
神族は面白い事をやるな。
「それにしても、創造神の警告はあまり効果が出なかったな」
創造神に、2柱から呪いが詰まった黒い塊を回収した時「他の者も監視中だ」と発言もしてもらった。
それなのに、動き出すとはね。
創造神を甘く見ているんだろうな。
「監視の強化をお願い」
「もちろん」
俺の言葉に右の前脚だけを上げる子蜘蛛。
おそらく、3柱の周りは既に監視が強化されているんだろう。
「黒い影の方だがどうだ?」
「朝方に襲われた者がいたけど、今なら落ち着いているかな」
「そうか」
声の時も思ったけど、黒い影も急に現れるため対処が出来ない。
予兆でもあれば、それを探すのだが。
「何とか数日中にこの魔石に力を吸収したいんだけど」
「どうかな?」
子蜘蛛の言葉に長期戦を覚悟する。
まぁ、ゆっくり待とうかな。




