128.下級神のある日。
―神国 ある下級神の視点―
「なぁ、聞いたか?」
私と同じ下級神のトアが、傍によって来ると周りを気にしながら聞いて来た。
おそらく、神国で一番話題になっている噂の事だろう。
それしか思いつかない。
「第2位のカシュリア神の事?」
「あぁ、どうやら本当に呪界に行ったみたいだぞ。カシュリア神の補佐をしている神族も行ったとか聞いたけど、それについては調べられなかったよ」
少し前に、上級神に仕える神族達が頻繁に呪界に行っているという噂を聞いた。
馬鹿な話だと思った。
呪界など、気にするのも時間の無駄だと。
そもそも、創造神が呪界など認めるわけが無い。
だから、いずれ神国に飲み込まれるとも言われていた。
でも違った。
呪界はどんどん力をつけ、今では神国以上の力があるのではないかとも言われだした。
まぁそれはあり得ないと思うが、それなりの力をつけたのだと思った。
それでも、我々神が気にする事は無いと考えていた。
でも少し前に起こった、神の暴走。
神族を魔界に落とし、混乱を招こうとした事件だ。
その事件で被害にあった神族達を、呪界の者達が救った事から呪界に対して興味を持つ神が増えた。
興味を持った神達は、魔界に落ちた神族の帰りを待った。
しかし、助かったはずの神族達の半分が未だに帰ってきていない。
魔界で捕まっているという噂が出たが、帰って来た神族達から聞いた話だと「神国に帰ってもいい事ないから、魔界にもう少し住む」という事らしい。
上級神に仕える事は、名誉な事のはずなのだが。
そして帰って来た神族達から話を聞いた神達は、呪界に対してかなり良い印象を持ったようだ。
でも、ここまではちょっとした興味だった。
でも呪界がもっと重要だと気付かせる事件が起きた。
それは、戻ってこない神族達が仕える上級神達が、魔界に対して攻撃を仕掛けようとした事件だ。
まぁ攻撃自体は、第1位のガルアル神によって未然に防がれた。
それなのに、創造神自らが上級神に罰を与えたのだ。
なぜなら上級神の狙いが、呪界の者達だったから。
その話を聞いて、私も他の下級神達も驚いた。
だって狙われたのが神でもないのに、しかも誰も傷ついていないのに、創造神が「罰」を与えたからだ。
今までの神国なら、ありえない事だった。
そしてこの事件は、創造神が呪界に対して意識している事を、多くの神に知らしめた。
そんな事が起きた後、創造神の建物が開放されたという噂が流れた。
聞いた時は、誰も信じなかった。
でも、それは本当だった。
私も創造神の住まう建物が開放されている事をしっかりとこの目で確かめた1人だ。
私は、ようやく神国が大きく変わり始めている事に気付いた。
そのきっかけを呪界王が作ったという噂が流れている。
真偽は不明だけど。
「大丈夫か?」
「えっ? あぁ、大丈夫だ」
色々考えていて、トア神を無視してしまったな。
「色々調べてくれてありがとう。助かったよ」
「良いよ。俺も自分で調べたかったから」
トア神の言葉にもう一度お礼を言うと、また会う約束をして別れた。
小さくため息を吐くと、上司である中級神の下へ向かう。
今日も、まだ仕事が残っている。
「あれ? 久しぶりだな。休憩か?」
私の上司に当たる中級神の友人である上級神がいた。
名前はオフィー神。
気さくな上級神で、実は昔からの知り合いだ。
「お久しぶりです。今、休憩が終わって戻るところです」
「そうか。それなら一緒に行こう。俺も奴に用事があるんだ」
オフィー神の言う奴とは私の上司。
ピフェル神の事だろうな。
「分かりました」
オフィー神の少し後ろを歩きながら、今からの仕事を考える。
私は今、神国に存在している星の調査に参加している。
「星の調査はどう? 進んでいるか?」
「はい。何とか頑張っています」
結界で隠されているため見つけるのが大変だったり、見つけても結界が邪魔で入れなかったり、本当に色々大変だけど、頑張ってはいる。
なかなか、結果が出せてないけれど。
「そうか。偉いな」
オフィー神は、私の事をどうも子供扱いしているような気がする。
確かに私が初めてオフィー神に会った時は、子供の時だったけれど。
あれから既に数百年は経っているんだけどな。
んっ?
何か不思議な力を感じるような気がする。
「止まれ」
オフィー神の言葉に、足が止まる。
彼を見ると、険しい表情で周りを見ている。
それに不安を覚えながら、同じように周りに視線を向ける。
「危ない!」
体がぐっと誰かに持ち上げられると、立っていた場所から凄い勢いで離れた。
次の瞬間に目にしたのは、私とオフィー神がいた場所が黒い影に襲われているところだった。
「なんだ、あれ。それに、えっと?」
オフィー神の戸惑った声に、私も自分の置かれた現状に気付く。
体が、誰かによって持ち上げられている。
おそらく助けるためなのだろうけど、恥ずかしい。
「えっと」
持ち上げている存在を見て、固まった。
神でも神族でもない。
真っ黒な…………生き物?
「呪界の」
オフィー神の言葉に、えっと驚き私を持ち上げている存在を見る。
足が8本?
えっと、何か黒い物に覆われているような?
もしかして呪界の者達は、全て真っ黒なんだろうか?
それはちょっと怖い。
「効くかな?」
きく?
私とオフィー神を持ち上げている生き物が、前脚でいいのかな?
持ち上げると、光?
力を感じるから力の塊なんだろう。
それを黒い影に向かって放った。
黒い影に視線を向けると、力の塊が当たったのか黒い影の一部が消えていた。
黒い影がするっと移動するのが見えた。
「あっ、逃げる!」
「逃がすな。追え!」
私の声に応えるように下から声が聞こえ、誰かに指示を出したようだ。
って、誰に?
「えぇ~」
何も無い空間から、次々と私を持ち上げている生き物と似たような生き物が出てくると黒い影を追って行く。
「……」
何か凄い光景を見たような気がする。
でも、それをどう言っていいのか。
そもそも、どうして呪界の者が神国にいるんだろう?
そして、私はいつ下ろしてもらえるんだろう?
「あの」
オフィー神の声に視線を向けると、戸惑った様子で呪界の者に話しかけていた。
あぁ、下ろしてもらうようにお願いするのかな。
というか、この光景を見た私達を殺したりしない……よね?
「はい。どうしましたか?」
下を見ると、やっぱり黒い生き物がそこにいる。
何処を見て話したらいいんだろう。
目は……何処?
あれ?
この生き物、どこかの星で似たような形の生き物を見たような気がする。
「下ろしてもらう事は出来ないだろうか?」
「んっ?……あぁ、ごめんね。忘れてた」
謝られた。
それに声がさっきと違って優しい感じ?
「えっと、ありがとう。助かった」
地面に足がつくとホッとする。
そしてオフィー神と一緒に頭を下げた。
「いいよ。たまたまだったし」
たまたまか。
それで、今の光景を見た私達はどうなるんだろう?
「急に持ち上げたけど、怪我してない?」
「あぁ、大丈夫」
オフィー神が私をチラッと見るので、頷いて大丈夫と伝える。
「それなら良かった」
「あの、呪界の者ですよね?」
「うん、そうだよ。子蜘蛛と呼ばれているよ」
子蜘蛛。
「どこに行くの? 狙われている可能性もあるから、送っていくよ」
「送ってくれるのですか?」
「うん。狙われているかもって言ったよね?」
オフィー神の言葉に不思議そうな呪界の者。
「えっと、黒い影を目撃したので……始末するとか」
オフィー神の言葉に、呪界の者の前脚が上がって左右に揺れる。
「あはははっ。面白い事を考えるね。そんな事をするわけないよ」
面白い事なんだ。
そっか、大丈夫なんだ。
良かった。
「大丈夫? ふらついているよ?」
安心したら、ちょっと体がふらついてしまった。
それを支えてくれた呪界の……子蜘蛛。
感謝を言って、しっかり立つ。
「あのどうして神国に?」
「さっきの黒い影とか声とかいろいろ調べるためだよ」
声?
何の事だろう?
「そうだったんですね。許可……いえ、なんでもないです」
オフィー神は言葉を濁すと、首を横に振った。
ピフェル神の下へ一緒に行くと、スッと姿を消してしまった子蜘蛛。
姿が見えなくなった瞬間、その場にへたり込んだ。
「大丈夫か?」
オフィー神の言葉に首を横に振る。
「大丈夫ではないです。色々あり過ぎて」
呪界の子蜘蛛か。
まさか神国を自由に動き回っているなんて。
それにしてもさっきの黒い影。
いったい神国で何が起こっているんだ?




