122.呪力?
サブリーダーから聞いたオウ魔界王の様子に、全身から力が抜けた。
「良かった。もう大丈夫なんだな」
「はい」
オウ魔界王が苦しみながら崩れ落ちた時、自分の予想の甘さに苛立った。
俺は、オウ魔界王は大丈夫だと思い込んでいた。
最悪な事が起きたとしても、少し声に惑わされる程度だろうと。
でも、それもすぐに落ち着くはずだと。
でも結果は、オウ魔界王は苦しみながら意識を失った。
すぐにサブリーダーが対応してくれたので事なきを得たが、もし傍にサブリーダーがいなかったらオウ魔界王は最悪な事になっていた可能性もある。
もちろん彼の傍には、護衛についている魔神達がいる。
でもあの時、護衛の魔神達はサブリーダーが結界を張ったのに、声の影響を受けてしまった。
護衛についていた魔神は6柱。
4柱は急に体から力が抜けその場に倒れ、2柱は声に惑わされ攻撃的な性格が現れた。
落ち着いたあと、サブリーダーが個々に話を聞いたが、誰も声自体は聞こえなかったそうだ。
結界があったら大丈夫というのも、何の根拠も無かったと思い知らされた。
ただ、運が良かっただけなのだろう。
「サブリーダー、悪い。怖い思いをさせてしまったな」
パネル越しのサブリーダーに謝ると、慌てた様子で首を横に振っている。
「大丈夫です。あっ!」
サブリーダーの傍に、誰かが来たのが分かった。
ただパネルには映らない場所にいるため、誰なのかは分からない。
「どうぞ」
サブリーダーが場所を移動すると、オウ魔界王の姿がパネルに映った。
「オウ魔界王。本当にもう、問題は無いのか?」
サブリーダーの報告で、意識を失ったのは数分。
5分後には、自力で立つことも出来るようになったと聞いた。
でも、あとから何か症状が出るかもしれない。
まだ、完全に安心は出来ない。
「サブリーダーが素早く対応してくれたからな、今は全く問題無い。心配掛けて悪かった」
オウ魔界王の顔をジッと見る。
顔色も悪くないし、目の下の隈は……まぁ、いつもの事だな。
声に張りもあるし、彼の言う通り問題無いのだろう。
「何事も無くて良かったよ」
「あははっ。さすがに苦しかった時は、焦ったよ。まだ呪力の研究が途中だって」
……焦った理由は、それなのか?
「本当に研究が好きなんだな」
「あぁ、知らない事を知るのは楽しい。それが自分の研究でわかって来るんだぞ? 凄くないか?」
まぁ確かに、謎を解明するのは楽しいな。
ただ、死ぬかもしれない時の後悔が「研究し足りない」というのはどうかと思うけど。
「そうそう、声の事で話があるんだ」
オウ魔界王の言葉に、背筋が伸びる。
「何か分かったのか?」
「分かったという事ではないんだが、声がどう聞こえたのか話しておこうと思って」
「あぁ、頼む」
知っておいた方がいいよな。
オウ魔界王が倒れた原因が何だったのか、知りたいし。
「最初は前に聞いた時のように、何を言っているのか分からなかったんだ」
オウ魔神が魔界王になる前に聞いた声の事だな。
「うん」
「ごちゃごちゃとした音の塊? なんて言えばわかりやすいかな。声がいっぱいあって1つ1つを聞き取れないような感じなんだ。それで、何を話しているのか聞こうと思って声に意識を向けると、いきなりぷつんと声が途切れたんだ。まだ声に含まれる力を捉えていなかったから落ち込みそうになった瞬間、ドンと大きな力がぶつかって意識を失ったんだ。最後は、声ではなく力そのものだったと思う」
「声ではなく力」
ロープの話では、オウ魔界王が崩れ落ちた時に、蜘蛛達が声の力を捉えたんだよな。
つまり、力そのものが動いたために、仲間は力を把握できたという事か。
でもなぜいきなり、声では無く力をぶつけてきたんだ?
今までは声だったのに。
「どうだ? 役立ちそうか?」
「あぁ、ありがとう。1つだけ確認したいんだが」
俺の言葉に、首を傾げるオウ魔界王。
「声に意識を向けた時、何か感じなかったか?」
オウ魔界王の対応が、声ではなく力をぶつけさせる行動を起こさせたのだと思う。
ではその対応とは何か?
オウ魔界王の話の中で気になったのは「声に意識を向けた」という言葉。
その後に声は途絶え、次に攻撃を受けた。
おそらく、オウ魔界王が声に意識を向けた時に、何かあったはず。
「あの時に感じたもの?」
思い出そうとしているオウ魔界王を見る。
しばらく待つが、彼からの返事はない。
「何も無かったのならいいんだ。悪い」
俺の考え過ぎか?
ただ単に、攻撃方法を変えただけなのかな?
「あっ、んっ?」
「どうした?」
戸惑った様子のオウ魔界王に、声を掛ける。
彼は、眉間に皺をよせ首を傾げている。
「大丈夫か?」
「声から感じたものだけど、サブリーダーから感じる力に似ているかもしれない」
「……えっ?」
「えっ? 俺の力に? あの時に似たような力が傍に?」
パネルには映っていないが、驚いた様子のサブリーダーの声が聞こえた。
オウ魔界王が、右を見て頷くのが見えた。
「あぁ、似ている。あれ? サブリーダーだけでは無くて、蜘蛛達やアリ達から感じる力にも似ているかもしれない」
仲間たちから感じる力。
それは……呪力か。
「あっ、呪力だ。そうだ。魔神力とも神力とも違ったから、分からなかった。呪力に似ている力だ」
「という事は、声は呪力で作られているという事になるな」
そしてその呪力で作られた声は、呪界からでは無く神国から魔界に送られていた。
ロープは、創造神が住む建物から力が出ている事を確認している。
ただ、誰がその力を操っているのかは、分からなかった。
分かった事は、創造神やその周りにいた神達ではないという事だけだ。
調べようとしたら、力が感じられなくなったそうだ。
もう1つ気になるのは、その力が神国で捉えられた時に闇が広がった事だ。
闇が増えたり減ったりしている事は聞いていた。
でも、力を捉えられたと報告が入った時に、仲間達は闇が異常に増えた事を確認した。
闇は、のろくろちゃん曰く「呪い」らしい。
ただ、呪いと言っても闇に魂は存在していないそうだ。
その話を聞いて、首を傾げたんだよな。
魂が無いのにどうやって呪いが生まれたのかと。
呪いは、魂が長い間苦しめられた事で生まれるものだ。
それなのに、闇は呪いなのに魂が無い。
今までの呪いとは、異なる呪いという事になる。
あと呪いと声で思い出した物がある。
それは「呪詛」だ。
俺が知っている呪詛は墓場で聞こえたものだが、オウ魔界王が言うように声がいっぱいあって聞き取りづらかった。
「呪界王?」
「あっ、悪い。考え込んでいた」
オウ魔界王の言葉に、今は彼と話していた事を思い出す。
「何か気になる事でも?」
「うん。呪界が出来た時に神国にいた呪いに落ちた魂は全て移動したんだ。だから神国で呪いが生まれるのは、まだ先の話だと思ったんだが」
そう簡単に呪いに落ちる魂はいない。
特に神達が魂を不当に扱わないかぎり、生まれる事はないと思う。
「魂が全て移動出来ていなかったとか?」
「そうなのかな?」
俺がした事ではなく、呪界が出来た時に自然と魂の移動が行われた。
だから、見逃した魂がいる可能性は……ある。
ただそれだけだと、闇の説明がつかない。
あれは呪いだとのろくろちゃんは言った。
それなのに、魂が無い。
「……駄目だ。混乱してきた」
一度、落ち着こう。
頭の整理も必要だ。
「悪い、オウ魔界王。少し1人で頭を整理するよ」
「んっ? 分かった。俺もこちらから声について調べてみる」
「ありがとう。頼むな。でも、無理はしないように」
「大丈夫だ。またな」
パネルのボタンを押すと、ため息が出る。
「なんでこう、あとからあとから……はぁ。疲れた」




