120.気になる?
「あっ、昨日ぶり」
夕飯を食べていると、アイオン神が白く光る箱を手にやって来た。
おそらく箱の中身は呪いが詰まった黒い塊だろう。
いい加減、箱の中身に名前を付けようかな。
……いや、止めておこう。
「はぁ」
俺を見てため息を吐かれてしまった。
リーダーがそっと椅子を用意して、ワインを渡した。
「ありがとう」
椅子に座ってワインを飲むアイオン神。
その表情から、かなり疲れている事が分かる。
これは、何かあったな。
それにしても、なぜリーダーはアイオン神にワインを渡したんだ?
この場合は、温かいお茶では?
リーダーを見ると、俺を見てこっそり親指を立てた。
ん~、何か意味があるらしい。
「大丈夫か?」
「ふふっ。あぁ」
不気味に笑うアイオン神に、子供達がそっと距離を取る。
いや、可哀想だから止めてあげて。
まぁ、距離を取りたくなる気持ちはわかるけど。
「全く大丈夫に見えないぞ」
「はは、そうか? あっ、これは呪いの黒い塊だ」
「ありがとう」
やっぱり名前が欲しいかも。
席を立ち白く光る箱を受け取ると、神力で守られている事が分かった。
どうやら、神力で作った結界が光っているようだ。
でもどうして、結界を光らせているんだろう?
何か意味があるのか?
「……」
神力の流れを見るが、普通の結界だ。
「なぜ、光っているんだ?」
「それはカシュリア神が作った結界なんだけど、彼女の結界はなぜか全て光るんだ」
カシュリア神と言えば、神のランクで第2位だったな。
というか、そのカシュリア神が作った結界は全て光る?
「光るように結界を作っているわけではないのか?」
「あぁ、違う。彼女は、光らない結界が作れないんだ」
それは、ちょっと面白いな。
カシュリア神の神力に秘密があるのかな?
それとも無意識に光る結界を作りだしているのか?
「どうぞ」
リーダーが、甘味の強いケーキをアイオン神の前に置く。
それを見た彼女は、パッと表情を明るくすると早速食べ始めた。
元気だな。
「あっ、食事を続けてくれ。もっと早く来るつもりが、色々あってこの時間になってしまったんだ。食事を邪魔して本当に悪い」
俺や子供達の食事の手が止まっている事に気付いたアイオン神が、申し訳なさそうな表情で言う。
どうやら少し落ち着いて、周りの状況を見られるようになったみたいだ。
「皆、気にせず食べていいぞ」
俺の言葉を聞いた子供達が、食事を再開する。
今日も元気に動き回っていた子供達は、気持ちのいい食べっぷりだ。
「よく食べるな」
アイオン神はそんな子供達を見ながら、感心した様子を見せる。
そんなに食べているかな?
普通だと思うけどな。
「アイオン神、食事は?」
「食べてきた。これ、うまいな」
リーダーが持って来た甘味を食べきったアイオン神は、空になった皿を見る。
「どうぞ」
すかさず、お皿に新しいケーキを載せるリーダー。
「おぉ。ありがとう」
笑顔で新しいケーキを頬張るアイオン神。
彼女はその後、5回もケーキをお替わりして、ようやく満足そうにフォークをお皿に置いた。
「よく食べるな」
夕飯は食べてきたんだよな?
「甘味が体に染み渡る」
「……そうか。それは良かったな」
満足してくれたなら良いか。
「それで、何があったんだ?」
「んっ? 特に何もないぞ。昨日言われた神の元に行って、呪いの詰まった黒い塊を回収。話を聞いたんだけど。はぁ、本当に馬鹿げた話を聞かされたよ」
「馬鹿げた話?」
「そう! 自分がいかに創造神に相応しいかという話を延々聞かされたんだ。それの対処に困っていた奴が、何が創造神に相応しいだ。馬鹿だろう?」
白く光る箱を指しながら、呆れた表情を見せるアイオン神。
つまり彼女は、意味のない話に付き合わされて疲れていたのか。
可哀想に。
「大変だったな」
新しいワインを持って来たリーダーにお礼を言って、アイオン神のコップにワインを注ぐ。
「ありがとう」
「少しも役に立つ話は無かったのか? 例えば……不思議な声が聞こえるとか」
神達の間で、声の噂はあるのかな?
「不思議な声? あぁ、そういえば言っていたな」
「えっ?」
期待していなかったが、あるのか?
「今日捕まえた神の1柱。タリーシュ神の話の中に『自分を導く声が聞こえた。私は特別だから聞こえたんだ』というものがあった」
マジか。
「声は、はっきり聞こえたと言ったのか?」
「悪い、その点については聞いていない。ただ『創造神に相応しいのが自分だ』と、教えてくれたそうだ」
怪しいな、その声。
魔界王に届いた声と同じか?
でもどうして、神には創造神になれと伝え、魔界をよくしようとすると邪魔をするんだ?
目的は何だ?
「話を聞いていて、ただの妄想なのかと思ったんだが、違うのか?」
アイオン神の言葉に頷く。
「本当に聞こえた可能性がある。前魔界王がその声に、翻弄された可能性があるんだ。そして今の魔界王がまだその地位に就く前にも聞いている。ただその時は、はっきりとした声ではなかったみたいだけど」
「そんな事があったのか。それなら……創造神を目指している神達に『声』について聞いてみるよ。他にも声を聞いた者がいるかもしれない。まぁ、正直に話してくれるかは分からないが」
アイオン神が疲れた様子で言うので、笑ってしまう。
神から話を聞くのは大変そうだ。
「頼むな」
「『声』が、そんなに気になるのか?」
「えっ?」
アイオン神の言葉に、少し考える。
確かに、どうしてこんなに「声」を気にしているんだろう?
いつもなら、皆からの報告を待つのに。
「そうだな。かなり気になるみたいだ」
なぜか、焦っているような気がする。
どうして俺は、声が気になるんだ?
どうして、その正体を早く突き止めようとしているんだ?
……自分の事なのに分からない。
「何かあるみたいだな。すぐに動くよ。そうだ、神族達にも協力してもらおう」
んっ?
「神族達にも協力?」
アイオン神には、手伝ってくれる神族がいるのか?
「翔のお陰でな」
「どういう事だ?」
アイオン神が俺を見て笑う。
それに首を傾げる。
「翔の事を最初から守って来た。今は守られているような気もするが。だからなのか、神族達は私のやる事に協力してくれるんだ」
「そうなんだ」
「あぁ。翔、神族と何か関わりがあるのか?」
お茶会だな。
間違いなくあれだ。
「まぁ、密かに」
「やっぱり。ははっ、だからだな」
「んっ?」
俺が不思議そうにアイオン神を見ると、彼女が楽しそうに笑う。
「私は何もしていないのに、協力してくれる神族達が勝手に増えて行くんだ。ずっとそれが不思議だったんだけど、翔が密かに神族達との輪を広げていたんだな」
確かに、お茶会に参加する神族達は増えているな。
会場が、最初に比べて数倍の広さになっているからな。
「あっ、アイオン神」
「どうした?」
「協力してくれている神族達に何かあったら、守ってくれ。そして、呪界と関わったせいで罰せられるなら、こっちに送り込んでくれ」
呪界のせいで罰を受けさせるわけにはいかない。
ロープが、おそらく監視をしてくれているけど、神にも協力者が居た方が安心だ。
「ふっ、分かった。任せろ」
これで、もしも何かあっても大丈夫だな。




