99.どうしたら。
―星に隠れていた神視点―
星と星を守る結界を維持するために、今日の分の神力を地石に送る。
体からごっそり神力が抜けていくのが分かる。
そして数年前は感じなかった脱力感。
「どうしたらいいのか」
地石を見る。
なんとかここまでこの星を守って来た。
この星にいる全ての神達が協力して、この地石に神力を送り続けたから。
でも、もう我は限界かもしれない。
そうなると、地石に送る神力が不足してしまう。
「外の様子を知りたいが、下手な事をすればこの星の存在がバレてしまう」
だが、このままではここにいる神達は死んでしまうだろう。
あと1柱、我と同じぐらいの神力を持っている者がいてくれたらといつも思う。
いや、我より力の強い者はいた。
でも、彼は「これ以上の被害者を生まないため」と言って、出て行ってしまった。
おそらく既に亡くなっているだろう。
「お疲れ様です。お水です」
地石を収めている洞窟から出ると、この星で生まれた神族達が出迎えてくれた。
「ありがとう」
お礼を言って、水を飲む。
神力を移動させる作業は、かなり集中力が必要となる。
そのため、終わったら喉がカラカラだ。
このコップ1杯の水が、どれほど嬉しいか。
「美味しかったよ」
「それは良かったです」
神族から離れ、ため息を吐く。
神力が不足すれば神達だけではなく、この星で生まれた神族達も死なせる事になる。
「どうしたらいいのか」
彼等を死なせたくはない。
だが、神力が不足すれば、おそらく結界が無くなるだろう。
そうなれば、奴らに見つかるのも時間の問題。
奴等に捕まり弄ばれるぐらいなら、我がこの手で……殺した方がマシだろうか?
いや、彼等には彼等の人生がある。
我が勝手に決めていいわけがない。
だが、昔奴等に捕まった時にされた事を、彼等が経験する可能性を考えると……。
怨まれたとしても、この手で殺した方が地獄を経験せずに済む。
「……そうだな、あんな経験をするぐらいなら」
腹に手を当てる。
意識がある状態で切り裂かれた腹の痛さは、どんなに時間が経っても忘れる事が出来なかった。
あんな思いをさせるぐらいなら。
「し、失礼します! 砂漠の神達から連絡が! 見慣れない子供を捕まえたと」
見慣れない子供?
「侵入されたのか?」
結界は維持されているはずだが、どういう事だ?
空を見上げる。
我の力程度では結界を見る事は出来ないが、そこにあると感じる事は出来る。
「大丈夫だ。結界に変化は感じない」
いつもと変わらない結界。
侵入されれば、結界が揺れるので気付くはず。
では、どこから?
「すぐに我が行くと伝えろ」
まずは会ってみないと。
「はい」
もし、その子供が奴等の仲間だったら……地石を爆発させてこの星を砕く必要があるかもしれない。
この星の情報を、奴等に知られるわけにはいかないのだから。
砂漠に来ると、神達の緊張が伝わって来た。
「こちらです」
「子供は?」
「こちらの指示に従っているので、捕まえる事はせずに様子を見ています」
良かった。
下手に捕まえようとすると、大怪我を負ったかもしれない。
神に案内され、皆が集まっている場所に来た。
そこには、見慣れない子供が1人いた。
神力を使って、その子供を探る。
まずはこの子供が、神力を持っているのか調べないと。
「っつ!」
神力が子供を包んだ瞬間、力が消滅した。
そのありえない現象に息を飲む。
どういう事だ?
神力同士で反発する事はある。
でも今のは、消滅だと思う。
もしかして、我の力をあの子供が飲みこんだ?
「どうしました?」
心配そうに我を見る神に、首を横に振る。
まずは、神達を安心させてから、あの子供と話をしなければ。
「皆、お疲れ様。ここは我とこの者だけで大丈夫だ。仕事がある者は戻ってくれ」
急に襲われたとしても、離れていれば逃げるチャンスはある。
「そんな! シーバー神様だけでは危険です!」
我の手をギュッと握る神族に笑みを向ける。
「大丈夫だ」
何の根拠もないが。
子供を見ると、目が合った。
その瞬間、背中にゾクッとした寒気を感じた。
この者、我よりはるかに強いかもしれない。
逃げるチャンス?
本当にあるのか?
「あの、襲ったりしないので大丈夫ですよ」
不意に聞こえた子供の声に、神達と神族達の緊張が高まる。
子供は、そんな者達を見て首を傾げた。
バレないように1回深呼吸をすると、子供に近付く。
神は自由に姿を変えられる。
だから、この目の前の子供が本当に子供なのかは、分からない。
「?」
なんだ?
神とは違うような気がする。
でも、神族とも何かが異なっているような。
「初めまして。我は神のシーバーという。そなたは?」
やはり、この者は神とも神族とも違うような気がする。
魔界の者が、この星に来られるわけがないが、どういう事だ?
「初めまして。俺はロープ。呪界から来ました。あっ、呪界というのは最近できた新しい世界です」
「………………」
んっ?
今、何を言ったんだろう?
色々とおかしな言葉を聞いたような気がする。
えっと、まずはこの目の前の子供はロープという名前を持っていると。
そして…………じゅかい?
新しい世界?
「えっ?」
「呪界というのは、呪いが集まって来る世界の事です」
そんな世界があるなんて、聞いた事は無いが。
あぁ、そうだ。
新しい世界だといっていたな。
「あたらしい」
「そうです。俺はその呪界の王に仕えている者で、本来の姿は魔幸石です」
「まこうせき」という言葉を何処かで聞いたような気がする。
かなり昔。
まだ、この星に来る前に……あっ!
上級神が作ったとされる伝説の石が、魔幸石という名前だった。
「えっ? 魔幸石?」
「はい、そうです」
魔幸石は名前の通り、石のはず。
どう見ても、目の前にいるのは子供の姿をしている。
どうなっているんだ?
「今日はすみません。この星の神達の様子を見て帰るつもりだったんですが、この体を得たのは少し前で、まだ完全に使いこなせていないんです。そのせいで見つかってしまいました」
様子を見て帰る?
体を得たのは少し前?
「どうして神達の様子を見に来たのですか?」
子供、ロープの言葉に神達や神族達が困惑しているのが分かる。
我も表情や態度に出ないように気を付けているが、同じ気持ちだ。
ただ様子を見に来ただけ?
それはなぜ?
この星にいる神達を利用しようとしているのか?
「ん~、ある話をしようと思うんだけど、普通に話しても信じてくれないと思うんだ。だから君達を観察して、どう言えば信じてくれるか考えようと思って」
利用しようとしたわけではないのか?
いや、信じるのはまだ早い。
「今の話も信じてくれないだろう?」
「あっ、それは」
確かに、この者の話を信じる事は出来ない。
「もし、第1位の神が排除されたと聞いて信じる? その時に創造神も、代替わりしたと聞いて信じる? 信じないだろう? この星は外とは完全に遮断されていて、情報が入って来ない。だから我が真実をどんなに言葉にしても、この星の者達には届かない」
「……えっ?」
第1位の神とは、奴の事だよな?
我々がこの星に隠れている原因。
排除?
いや、それは無い。
あれほどに恐ろしい力を持っていた者が、そう簡単に排除される訳がない。
「ほら、信じない」
「……それは、しかし」
「ん~、今の神国の映像を見る? 一応撮って来たんだけど。これも作り物だと言われたらお手上げだけど」
ロープが肩から提げていた小さなバッグに手を入れる。
そしてそこから取り出した物に、我も周りの者達も驚いた。
「どこにその大きさの物が?」
どう見てもバッグに入る大きさではない物が出てきた。
バッグの5倍はあるんじゃないだろうか。
「このバッグの中だよ。信じないのだろうけど、とりあえず今の神国だよ」
ロープはそういうと、バッグから取り出した物を空に向けた。
何をするのかと警戒したが、空に何かが映し出された。
「これが今の神国だよ。まぁ、また問題が起きたから、皆はバタバタしているけどね」
空に映し出された世界は、知っているようで知らない世界だった。
「これが今の第1位のガルアル神と第2位のカシュリア神だよ。ちなみに彼等は兄妹なんだ」
ロープが教えてくれた2柱は、見た事が無い神達だった。
本当に、奴は捕まったのだろうか?
ロープに視線を向ける。
そう言えば、この者は呪界の者だと言ったな。
……どうして神国にある、この星に来れたんだ?
「ロープは呪界の者だと言ったな」
「そうだよ」
「呪界の者は神国に出入り自由なのか?」
「まさか。少し前までは、神国に入るのも大変だったよ。我は簡単だったけど」
ロープには簡単?
あっ、魔幸石だから?
「そうか。ロープはなぜ神国に?」
「ん~……極秘任務かな」
極秘任務?
「あっ、ちなみに極秘任務の内容は、この星の神達と神族の勧誘だから。呪界に来ませんかって」
「………………はっ?」




