81.崖に砂埃。
子供達の授業が終わった頃、教室にお邪魔する。
先生達は分かるけど、獣人のカフィレットがいた事に少し驚いた。
どうやら彼は、魔界に興味があるらしい。
「主。これを見て」
紅葉の言葉に、テーブルに並べられた物を見る。
「えっ、また岩?」
まさか、また岩を見るとは思わなかった。
それも今日は、形も大きさもバラバラの岩が沢山ある。
「岩を持って帰ってきたのは、雷だけでは無かったんだな」
それ以外の物は、子供達が手に持って帰って来た物だよな。
枯れた花が入った瓶が11本。
よく見ると、中に入っている花の形が違うようだ。
あとは、干からびた根っこ?
いや、干からびた根野菜かな?
それが7個。
7個とも同じ色だけど形は少し違うな。
どれもジャガイモみたいな見た目だけど……干からびている。
どうして枯れた物や干からびた物を持って帰ってきたんだ?
もしかして、魔界ではこれが普通とか?
いや、さすがにそれは無いよな。
「この岩、魔族達が住みやすいと言った洞窟の物なんだ」
……んっ?
「洞窟? 魔族は洞窟に住んでいるのか?」
「そうだよ。今までは狙われる事が多かったから、洞窟に隠れ住んでいたんだって」
太陽の言葉に、唖然とする。
まさかそんな生活をしているとは、想像もしていなかった。
「魔神達は?」
「強い魔神達は、各自で家を建ててるよ。でも、半分洞窟みたいな家。一番強い魔神は城に住んでいたみたい。色々あって、今はオウ魔界王が住んでいる城しかなくなったけど」
色々あって?
まぁ、気にする事は無いか。
「そうなんだ。今は魔族達も洞窟に住む必要は無くなったんだよな?」
俺の言葉に子供達が頷く。
それにホッとする。
「でも家は無いし、そもそも家を建てる場所がない」
家が無いのは、必要としていなかったからだな。
でも、建てる場所が無いというのはどういう事だ?
「ある程度の広さがあれば、家は建てられるだろう?」
俺の言葉に、子供達が首を横に振る。
「平らな場所がほとんどないの。崖ばっかり」
翼の言葉に、他の子供達が頷く。
「崖」
まさか、魔界がそんな場所だったとは。
「すっごく乾燥していて、砂埃が凄かったよな」
「そうそう。行ってビックリした。あと、生き物も植物もいないの」
太陽と月の言葉に首を傾げる。
生き物も植物もいない。
「この瓶の中の……花は?」
枯れているので花と呼んでいいのか少し迷うけど、花は花だよな。
この花は魔界から持って帰って来た。
と言う事は、どこかで花が咲いているのでは?
「魔界で咲く花で、すっごく珍しくて見つけたら『奇跡』なんだって」
桜の言葉に、瓶の中の花を見る。
「奇跡」の花なんだ。
だから枯れても瓶に入れて、持っているのかな?
「それ、枯れているように見えるけど、枯れていないんだって。俺も最初は枯れていると思ったけど、その状態で咲いてて、そのままにしておくと3日ぐらいで崩れて消えるらしいよ。それを長持ちさせるために、瓶に入れて魔界の風が当たらないようにするんだって。そうすれば、1年は持つらしいよ。この瓶の花は、どこも欠けていないから本当に珍しいみたい」
「そうなんだ」
枯れているように見えるけど枯れていない。
と言う事は、もしかして。
傍にある干からびた野菜を手に取る。
これも干からびていないのか?
「それは魔族達や魔神達の主食で、ゴロと言われる野菜」
………………主食?
この干からびた根っこが?
えっ、これを食べるのか?
さすがに俺でもかなり勇気がいるんだけど。
あっ、味は凄くいいとか?
「その野菜、中は真っ黒だし味もちょっとあれだし。主食なのが、ビックリ」
月が何かを思い出したのか、凄い表情を見せる。
今の話しぶりから、この野菜を食べたんだろう。
「そんな酷い味なのか?」
俺の言葉に子供達が頷く。
そして、月と同じような表情になった。
いったい、どんな味がするんだろう?
「味は残念だけど、そこまで大きくなるのは珍しいんだって。かなり貴重な大きさなんだよ」
「そうらしいよ」
翼の言葉に月が頷く。
欠けていない奇跡の花に、貴重な大きさの野菜。
「どうしてこの花や野菜を持って帰ってきたんだ?」
何か、意味があるのだろうか?
「あ~、それは」
少し戸惑った表情になる翼。
隣の太陽を肘で突くと、太陽も困った表情を見せた。
何だろう?
質問が悪かったかな?
「これね、別に悪い意味では無いの。ただ、魔族達が主に「どうぞ」って。そう、これは嫌がらせでは無くて感謝の贈り物なの」
桜の言葉に、苦笑してしまう。
「分かった。これは魔族達にとって最大限の贈り物なんだな」
欠けていない花は珍しいと言っていた。
それに、大きく育った野菜も。
きっと、結界のお礼なんだろうな。
「そうなの」
嬉しそうな桜の頭を撫でる。
それにしても、魔界と呪界ではこんなにも違いがあるんだな。
干からびている野菜を手に取る。
これを食べるのが当たり前の世界か。
今、育てている野菜が収穫できるようになれば、色々と改善されていくんだろうな。
「それで、その岩はどうするんだ?」
俺の言葉に、太陽が岩を突く。
「魔族達に聞いたら、やっぱりちゃんとした家が欲しいんだって」
逃げる必要がなくなったからだろうな。
「だから今、アリ達と蜘蛛達が家を建てられる場所を作ってくれているんだ」
崖に、家を建てられる場所?
何だろう。
かなり大掛かりな事をしているような気がするんだけど。
「どんな事をしているんだ?」
「爆発させたり、崩壊させたり、埋めたり」
俺の言葉に、風太が楽しそうに答えてくれる。
あぁ、やっぱりか。
でも、魔族達の為なら大丈夫か。
「そうか。それで場所は確保できそうなのか?」
「うん。もう半分ぐらいは出来てた。あと半分は、森も作りたいとかいろいろ計画していたよ」
風太の言葉に、子供達が全員頷く。
森か。
あったらいいよな。
「森は作れそうなのか?」
崖ばかりの場所。
花は枯れているように見えるし、野菜は干からびているのが当たり前。
そして砂埃。
「サブリーダーが、『今のところは全く森が出来る見込みは無い』って」
翼の言葉に、「やっぱり」と思う。
花や野菜から予想できたけど、無理そうだよな。
「今は難しいですが、いずれ森は出来ると思います」
サブリーダーの声に視線を向けると、教室に入って来た。
魔界から帰ってきたようだ。
「おかえり」
「ただいま戻りました。ゴーレムをありがとうございました」
そう言えば、彼等は頑張っているのかな?
まだ、魔界に行って1日だけど。
「ゴーレム達は、何をしているんだ?」
「家を作るための土台作りなどを、魔族達に教えています」
んっ?
もしかして彼等は、教師の役目があったのか?
えっ、彼等を作った時にそんなイメージを……あっ、サブリーダーをイメージして作ったんだ。
それなら大丈夫か。
「問題は起きていないか?」
「もちろんです」
それなら良いか。
「それより、いずれ森は出来るのか?」
今のところは全く森が出来る見込みは無いのに?
「はい。魔界が今、大きく変化してきています。主の力と魔族達の力で」
俺と魔族達の力?
よく分からないが、いい方向へ向かっているのかな。
「主。持って帰って来た岩を、見て欲しいのですが」
洞窟から持って来た岩の事だよな。
テーブルにある岩を、1個手に取る。
「これが、どうしたんだ?」
「力が通りやすい岩がどれなのか、知りたいんです」
力が通りやすい岩?
それならサブリーダーでも出来ると思うけど……まぁ、いいか。
テーブルに並んだ岩を手に取り、少しずつ力を通していく。
見た目は少しずつ違うけど、力を通すと違いがはっきりするな。
「この3個の岩は、かなり力が通りやすいな。こっちの5個は、通りにくかった。残った岩は、普通かな」
「ありがとうございます」
でも、力の通しやすさなんて調べてどうするんだ?
「力が通りやすい岩は何に使うんだ?」
「これでレンガを作ります」
あぁ、力で形を変えるのか。
だから力が通りやすい岩を探していたと。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
レンガ造りの家か。
呪界は木々が豊富だから、木の家なんだよな。
レンガ造りの家。
ちょっと気になるな。




