80.大切な者。
獣人の騎士達が、広場に転がっている。
昨日はお祝いと言う事で、かなり飲んだようだ。
狩りの技術だけでなくお酒にもかなり強くなったのに潰れるとは、いったいどれだけ飲んだのか。
「「「主、おはよう」」」」
森に走りに行っていた月と太陽。
それにウサとクウヒが戻って来る。
「皆、おはよう」
森の中には魔物がいるから心配だったけど、魔物に追いかけられながら走るのも楽しいらしい。
その話を聞いて「いろいろな楽しみ方があるんだな」と思う事にしておいた。
「月と太陽は、昨日の疲れが出ていないか?」
俺の質問に、2人は首を横に振る。
呪界と魔界では、流れている力が異なるから疲れるかもしれないと聞いていたけど、大丈夫そうだな。
「全然。そうだ! 授業が終わる頃に、教室に来てほしい。魔界から持って帰って来た物を、先生達に披露するんだ」
月の嬉しそうな言葉に、「分かった」と頷く。
そう言えば、魔界の事を聞こうと思っていたのに、魔界用のゴーレムや獣人達のお祝いで聞けていないな。
「魔界の事も話してくれるか?」
「「もちろん!」」
ウサとクウヒも興味があるのか、後で合流する事になっているらしい。
魔界という違う世界の事は、やっぱり気になるよな。
「もうじき朝ごはんだろうから、行こうか」
広場に転がっている獣人達が、一つ目達に回収されているのを見ながらウッドデッキに向かう。
「あぁ~」
んっ?
ダダビスが起きたみたいだな。
あっ、頭を抱えたという事は二日酔いだな。
かなり苦しそうだけど、ヒールを掛けた方がいいかな?
あっ、一つ目が掛けてくれたみたいだな。
「もう大丈夫だね」
ヒカルの言葉に視線を向けると、朝食の手伝いをしている彼の姿があった。
「あぁ、もう大丈夫だろう。それより、おはよう。手伝い、ありがとう」
「今日は朝早くから目が覚めてしまって」
どこか落ち着きのないヒカルの様子に首を傾げる。
何だろう?
いつもより……落ち着きがない。
あっ、浮かれているんだ。
「ヒカ兄ちゃん、今日だよね」
何が?
太陽の言葉に、少し照れた様子のヒカル。
月も嬉しそうにヒカルを見ている。
あれ?
もしかして浮かれている理由を知らないのは俺だけなのか?
「初デート。上手くいくといいね」
………………えっ!
月の言葉に、頭が一瞬真っ白になる。
いやいや、落ち着こう。
ヒカルが。初デート。
えっ、相手は誰?
と言うか、どうして俺には報告がないの?
えっ、仲間外れ?
なにそれ、凄く悲しい。
「デートなの? 相手は誰? そんな事、聞いてない!」
ウサの言葉に、ヒカルが照れたように笑う。
あっ、ウサも知らなかったんだ。
「そういえば、気になる子がいるとは聞いたけど、誰かは聞いてないな。誰なんだ?」
クウヒも、ヒカルに気になる子がいる事は知っているが、それ以上は知らないのか。
俺だけ何も知らないという事ではないみたいだな。
良かった、ちょっとホッとした。
「それは、その……」
んっ?
どうしてそんな不安そうな表情で俺を見るんだ?
別に恋愛禁止とか言った事はないよな。
もしかして俺が独り身だから?
「どんな子なんだ?」
「ギルスの妹です」
獣人では珍しい、獣姿のギルスの妹なんだ。
ヒカルが気に入るという事は、いい子なんだろうな。
「楽しんでおいで」
ヒカルは神のせいで、地獄のような生活を強いられて来た。
だからこれからは、どんどん幸せになって欲しい。
「良いのですか? その……」
どうしよう。
ヒカルの気にしている事が、全く分からないんだけど。
とりあえず今は、ヒカルの不安を軽くしておこう。
不安の原因は、後で調べればいいからな。
「ヒカルが認めた子で、ヒカルが幸せになれるなら良いよ」
それがどんな子でも。
凄く性格が悪かったりヒカルの立場を利用したりする子だったら、周りの仲間が排除するだろうし。
んっ?
俺のこの考え方、ちょっと危険じゃないか?
「主、ありがとう。今はまだあの子の事を詳しく知らないから紹介は出来ないけど、これからどんな子なのか見極めて、問題無いと思えたら主に紹介するから」
「あぁ、分かった。楽しみにしているな」
……待った。
今のヒカルの言葉はちょっとおかしくないか?
でもどこをおかしいと思ったんだ?
「主。朝ごはんだよ!」
あぁ、朝ごはんだったな。
テーブルには既に他の子供達が座って、俺達を見ている事に気付く。
謝ってテーブルに着くと、リーダー達が温かいスープを持って来てくれた。
「ありがとう。それじゃ、食べようか。いただきます」
用意をしてくれたリーダー達にお礼を言ってから、朝ごはんの挨拶をする。
「「「「「いただきます」」」」」
朝ご飯を食べている子供達の様子を見る。
昨日の疲れが出ている子は、いないようだ。
月と太陽の時も思ったけど、魔界に流れる力は子供達に影響ないな。
それが心配だったから、良かった。
朝食が終わると、子供達は特訓の時間になる。
元気に広場に向かう子供達に手を振る。
「行ってきます」
ヒカルもデートの準備が終わったのか、嬉しそうに家を出て行った。
それを笑って見送る。
「飛びトカゲ」
「どうした?」
いつものように、足元で寝始めた飛びトカゲに視線を向ける。
「俺は子供達に、『恋愛禁止』と言った事が、あっただろうか?」
「はっ?」
意味が分からないと、飛びトカゲが首を傾げて俺を見る。
「いや、今日はヒカルの初デートらしいんだが、好きな人がいる事を今まで教えてくれなかったんだ。それに、相手を言う時に俺の様子を窺っていたから、どうしてなのかと思って。何か知らないか?」
「ヒカルに好いた相手がいるのか」
飛びトカゲも知らなかったみたいだな。
「うん」
「主に言わなかったのは、相手の事をまだよく知らないから言えなかったのだろう」
言えなかった?
「主はこの世界の全てだ。ヒカルだけでなく我々も、主の心を乱すものを傍に近付けたくない」
そうなのか?
別に気にしないけどな。
「もしかして俺のせいで、好きな相手と別れる可能性もあるのか?」
飛びトカゲが言う、俺の心を乱すと思ったら。
それは少し悲しいな。
「別れるというか、そんな相手だと分かったら気持ちが冷めるだろうな」
「好きという気持ちは、そんな簡単に割り切れないだろう?」
障害があればあるほど燃えるというし。
まぁ、経験をした事が無いので、小説やドラマの受け売りだけど。
「ははっ。あの子供達が、そんな甘い考えを持つと思うか?」
甘い考え?
「子供達は、何を一番大切にすべきなのか分かっている。その大切な者のために、何を切り捨てるのかも」
」
大切な者とは、俺の事だよな。
つまり俺のせいで、好きになった者を切り捨てる?
やっぱり俺のせいで別れるという事か。
凄くショックだ。
「主が気にする事ではない。彼等が自分達で決めた事だ」
まぁ、そうなんだけど。
俺のせいで、色々諦めては欲しくないな。
「相手に問題があっても好きなら、ここに連れてこなければいいだけだ」
……んっ?
あれ?
ここでずっと一緒に生活しようと言ったかな?
別に独り立ちをしてくれていいんだけど。
家庭を持ったら、相手の家族の傍に家を持ってくれてもいいし。
それで時間が空いた時に、たまに顔を見せてくれれば。
「それぞれに家庭を持ったら、好きな場所で生きてくれていいんだけど」
「それを彼等に言ったら、拗ねるぞ」
「えっ?」
飛びトカゲの言葉に首を傾げる。
「あの子達は、主を守れるようになるために頑張っているんだから」
そう言えば、俺を守れる存在になりたいと言っていたな。
俺を守るか。
何時か、俺より優先したいと思える人を見つけてくれればいいな。




