54.ある国の騎士2
-エンペラス国 第1騎士団 団長視点-
王の謁見の間は静寂が広がっていた。
その様子を見ながら今の報告を考える。
第4騎士団は異様に早く王城に戻ってきた。
しかも皆、その表情はこわばり誰もが口を開くことなく沈黙のまま。
第4騎士団の団長はそのまま謁見の間に。
他の騎士の団長、副団長が呼ばれた。
何事かが起こったのはわかったが、まさか。
「奴隷が逃げた、死んだのではなく逃げた、間違いないか?」
王の側近が第4騎士団、団長に聞き直す。
答えは肯定。
部屋の中に静寂が広がる。
そんな中、森の異変と魔物の異変が続いて報告される。
きっと誰もが想像すらしていなかったのだろう。
魔石のひびでビビっていたものも落ち着きを取り戻し恐怖心や異変を考える者は少数だった。
その少数を馬鹿にする雰囲気もあった、そんな中の報告。
どの顔も森が脅威であると認識したようだ、今さらだろうが。
変化は確かにあった、それを自分たちのいいように解釈しただけ。
森はすでに自分たちの国のものだと認識していたから。
しかし、今回の報告。
奴隷が逃げたのは奴隷紋が無効化されたためだろう。
我々の国が森に放った魔物は魔石によって歪ませた本能が復活したため。
森の異変の原因は全く不明。
森以外はどれも魔石が関係しているな。
ガタンと部屋に音が響く。
王がいらだたしげに立ち上がった音だ。
無言で部屋を出ていく姿に相当な怒りが見える。
森が手に入る1歩手前でまさかの事態、相当な怒りなのだろうな。
しかし少しホッとする。
友人である第4騎士団の団長。
王は失敗を許さない、罰として殺される可能性もあったのだ。
友の肩をたたき、謁見の間からともに出る。
「無事で何より」
俺の言葉に苦虫をかみつぶしたような顔をする。
珍しいな、表情が顔に出るとは。
「森はどうなっているのだ?」
それは俺も知りたいことなのだがな。
「見た目は変わらなかった、だが感じたことのない恐怖が…」
思い出したのか少し声が震えている。
それほどの恐怖を感じたということだろう。
王はどう判断をするのか。
このまま引き下がることはないだろう。
おそらく森に戦争を起こす。
その時に魔石を使うのはわかっている。
だが、今回の報告ではその魔石が関連していることが問題になっている。
このまま魔石を使い続けることが正解なのか。
王にとって魔石は王の力そのもの。
魔石を使わないという判断はしないだろうな。
「王以上の存在はどんな存在だと思う?」
俺の質問に友は驚いた顔をする。
なぜ驚く?
まさか森の王が反撃をしていると考えているのか?
それならもっと早く反撃しているだろう。
森には王以上の、森の王たち以上の力を持つものがいる。
それはいったいどんな存在なのか。




