78.再調査を。
―アイオン神視点―
「久しぶりだな。それで用事とは?」
「あぁ、忙しいのに悪いな」
久しぶりか。
こんな風に2人で話をするのは……数百年ぶりか?
前からそれほど親しくはなかったけど、全く会わなくなったのはどうしてかな?
何かきっかけが有ったような気がするんだけど……思い出せないという事は、気にする事は無いかな。
「魔界に繋がる通路が見つかった事は聞いたか?」
「もちろん。いまだに落ち神の信者がいるみたいだな。もしくは新しく落ち神のような屑が現れたか」
あれ?
カルアタ神は、こんなに口が悪かったかな?
「どちらだと思っている?」
「そうだな。落ち神に心酔している馬鹿だろう」
記憶にあるカルアタ神とかなり違うな。
まぁ、数百年も経っていたら彼だって変わるよな。
私も、かなり変わったからな。
「それが妥当か。それで目星は付いているのか?」
「何が知りたいんだ?」
カルアタ神が探るような視線を向けるので、肩を竦める。
正直に話した方がいいか。
「創造神の周りにいる神達を調べ直して欲しいんだ」
彼等を調べる権限を、私は持っていないからな。
「疑わしいのか?」
「私が調べられる神達は、今回見つかった魔界への通路とは無関係だと判明した。それで、創造神の調査を逃れられる事が出来る存在は誰かと考えて、彼等しかいないと思った。だからもう一度、もっと詳しく調査をして欲しいと思ったんだ」
彼等が落ち神に心酔していたという情報は無いが。
「確かに、彼等ぐらいだろうな。創造神の調査を逃れられるのは」
「あぁ」
創造神が作った「調査の空間」からは、誰も逃れる事が出来ない。
それなのに、誰かがその調査の空間に入りながら、犯罪を隠し通した。
「創造神が『調査の空間』を作った時に傍にいた存在が怪しいと思うんだな」
「そうだ」
調査の空間を作るには、かなりの集中力が必要だと聞いた。
そのため、もしもの時のために傍に神が数柱控える事になっている。
調査の空間に、手を加えるなら作っている最中しかない。
だから、創造神の傍にいる神達が怪しい。
「はぁ、奴等か」
なんだか、凄く面倒くさそうだな。
「最近、態度がデカくなってきていると報告が来ている。どうも創造神の傍にいる事で、力があると錯覚したようだ」
あぁ、よくある事だな。
「酷いのか?」
「神族に対する態度がな。それに、落ち神との関わりも出てきた」
「そうなのか?」
「あぁ。一方的に落ち神に心酔しているんだ」
「一方的?」
「そう。落ち神は、彼等の存在すら知らなかっただろうな」
だから、調査では関係者として出てこなかったのか。
「もしかして、再調査が決まっていたのか?」
私の言葉に、ふっと笑うカルアタ神。
「神族から、奴らに攻撃をされたという訴えがあったんだ。だから今、極秘で動いていたんだ」
やはり、決まっていたのか。
それにしても神族に攻撃か。
「落ち神の真似をしたのかもな。落ち神も、神族達に攻撃するのは日常茶飯事だったそうだから」
落ち神を調べれば調べるほど、偏った思考と行動に吐き気がした。
力が弱い存在は、全て自分が勝手に利用していいと考えて実行していたからな。
そんな落ち神に心酔しているんだ。
真面目な神では無いだろう。
「真似か。確かにそうかもな」
「それで、いつ頃調べるんだ?」
「既に準備は調っているからすぐに調べる。アイオン神に、1つ聞きたい事があるんだが」
カルアタ神の言葉に首を傾げる。
「なんだ?」
「既に神達の調査は終わったと言ったな」
「あぁ」
神が作った調査の空間も利用したが、それよりも力強い味方がいるからな。
まぁ、その事を私から話す気はないが。
「呪界王に、助けてもらっているという話が聞こえてきた。本当なのか」
ロープの事が洩れたのか?
いや、それなら呪界王とは言わず「魔幸石に」と言うはず。
あっ、私が呪界に何度も遊びに行っているから、助けてもらっているという噂が流れたのかも。
ロープは翔の指示で動くから。
「そうだ。助けてもらっている」
間違いではないな。
それに、翔に助けてもらう事を悪い事だとは思わない。
「そうか」
カルアタ神が考え込む様子を、観察する。
どうやらカルアタ神は、翔という存在を否定はしていないようだ。
「それがどうしたんだ?」
「それが……呪界王に助けて欲しい事があるんだ」
んっ?
カルアタ神の言葉に、首を傾げる。
今、彼は「呪界王に助けて欲しい」と言ったのか?
「えっ。本気で言ってるのか?」
カルアタ神は、複雑な表情で私を見て頷いた。
「本気だ」
これは予想外だ。
カルアタ神は下位の神や神族には優しいが、呪界については否定的な部分があると報告が来ている。
神のせいで呪いが生まれたという事にも、最近まで否定的だったそうだからな。
だから、翔と関わっている私とは距離を取っていた。
あれ?
少し前まで、しっかり距離を取っていたよな。
なのに、今日はすぐに会いに来た。
「何かあったのか?」
それもかなり重要な事が。
「………………命花が枯れてしまったんだ。それで、そこに呪いが」
「命花が、枯れた?」
命は神にしか生み出せない。
そしてその命を生み出すのが命花だ。
命花が枯れると、新しい命は生まれない。
「いつからだ?」
「最初に異変に気付いたのは150年ほど前だ。命花の葉に出来た小さな黒いシミだった」
そんなに前から?
「ただその時は、その異変をそれほど重要な事だと考えなかった。だが、少しずつ、少しずつ異変は続き、とうとう花に影響が出始めた。花が咲いても、黒いシミが花に広がって枯れていくんだ」
黒いシミ?
カルアタ神は呪いと言ったよな。
「もしかして呪いの影響で枯れたのか?」
「それは分からない。だが、花が枯れると代わりに呪いが現れる」
分からないって、間違いなく呪いが関係しているだろう。
それにしても150年も前から?
「命花の状態はそんなに悪いのか?」
「5年ほど前から、全く育たなくなった。新しい場所で新しく種を作り植えても、すぐに呪いに変わる」
つまりこの5年間、新しい命は生まれていないという事か。
「知っているのは?」
「創造神と第10位までの神達には知らせた」
カルアタ神の言葉に、溜め息を吐いた。
確かに表沙汰に出来る情報では無いか。
神としての役目が果たせなくなっているのだから。
「呪いには浄化だろ? 行ったのか?」
「当たり前だ。ただ、浄化は一時的に呪いを消すが、すぐに現れてしまうから意味がない」
命花が枯れる原因と呪いが現れる原因が分からないと、どうする事も出来ないか。
「それで、呪いの事だから呪界王に手を貸してもらいたいんだ。頼めないか」
カルアタ神の真剣な表情に、頷く。
「話はしてみるが、助けてもらえるかは分からないからな」
「もちろんだ。ありがとう」
魔界に繋がる通路も問題だけど、命花の事もかなり大きな問題だよな。
「呪いか」
呪界が出来た時に、神国の呪いが全て消えたと思ったんだけどな。
今日はもう一度、呪界に行こう。




