77.後悔がいっぱい。
―アイオン神視点―
また、やってしまった。
翔を前にすると、どうも色々と話してしまうんだよな。
あの「なんでもこい」という雰囲気が心地よくて、駄目だと分かっているのに甘えてしまう。
「年上なのに」
もの凄く年上で、色々な事を経験してきているんだけどな。
……まぁ、半分以上は諦めと惰性の中で生きてきたか。
碌な経験では無いな。
溜め息を吐きながら、執務室の隣にある控え室に入る。
「「「えっ」」」
部下からの驚いた声に、少し視線をずらす。
「早かったですね」
部下の1人アルスリの言葉に、苦笑する。
いつもは迎えに来るまで、帰って来ないからな。
「まぁ、いろいろあって」
いろいろぶっちゃけた後、冷静になると恥ずかしくなった。
あそこまで壊れたのは、初めて……たぶん。
で、その恥ずかしさに耐えられなくなって戻って来たんだけど、翔には気付かれたな。
だって、帰ると言った時に「しょうがないな」みたいな表情をしていた。
「とうとう追い出されたんですか?」
「違う!」
部下ナツリの言葉を、強く否定する。
まだ、追い出された事は無い!
ガチャ。
「えっ? とうとう翔様に追い出されたんですか?」
執務室から出て来た、部下マッシュの表情が憐れんだものになる。
「お前らな……仕事をしに戻って来たとは思わないのか?」
「「「「思いませんね」」」」
事務仕事を補佐する部下3人、アルスリ、ジュリョ、ナツリ。
側近でもあるマッシュ達に首を横に振られる。
「これまでの行動から考えて、何か余計な事を言って恥ずかしくなって戻って来たという感じでしょうか?」
まさにその通り。
なんて、言えないけどな。
部下達との関係は、かなり長い。
そのせいでこの4人は、私の事を本当によく知っている。
だから、隠してもバレているんだろうな。
「今度は何を言ったんですか?」
「まぁ、いろいろと」
あっ、駄目だ。
このままこの話が続くと、余計な事まで言いそうだ。
話を変えよう。
「それより、カルアタ神と連絡を取ってくれ」
「カルアタ神ですか? 我々とは別方向から、神達を調べている方ですよね?」
マッシュが不思議そうな表情をする。
今まで彼と接触をもったことは無いからな。
「あぁ、少し相談したい事があるんだ」
「分かりました。すぐに連絡を入れてみます」
不思議に思いながらも、すぐに動いてくれるマッシュには感謝だな。
そう言えば、思っている事は口にしろと翔に言われたな。
言葉は、伝えるためにあるから使えと。
「ありがとう」
私としては伝えているつもりなんだけど、翔からしたらまだまだだと言われた。
「……何か悪い――」
「なんでもない」
余計な事は言うものではないな。
全く。
あれ?
マッシュの光の魔力が揺れた?
「今日中に処理が必要な書類を置いてありますので、お願いいたします。では」
間違いない。
マッシュの機嫌がいい。
言葉を口にするのは、大切なんだな。
でも、他の神達よりは感謝を伝えているつもりだったんだけど、翔の言う通り足りなかったのか?
執務室に入ると、嫌でも机の上が見える。
あれが、今日中に処理が必要な書類か。
書類の山が4つ。
「はぁ、やるか」
気分転換もしたし、頑張りますか。
「疲れた」
書類の山は既に残り1つ。
頑張った。
今日はものすごく頑張った!
「ちょっと休憩だな。あっ、お茶だ」
いつの間にか持って来てくれていたお茶を飲む。
ほんのり甘いお茶は私が疲れた時に飲むお茶だ。
良い部下を持ったよな。
「カルアタ神とはいつ頃話せるかな」
創造神の近くにいる神達は、確か全員で3柱。
創造神をフォローし護衛をするためにいる。
そして、彼等だったら調査を誤魔化す事も出来る可能性があるんだよな。
ただし本当に誤魔化されていたら、創造神もこの問題の関係者になってしまうけどな。
もしそうなったら、また創造神を変更する必要があるな。
というか、そろそろ今の創造神を見極める時期なのかもしれないな。
彼もいい加減に、創造神としての自覚を持ち、神達を導くか。
それとも、限界を認め次の創造神に引き継ぐか。
翔の世界が独自の動きを始めた事で、これまで隠してきた問題が一気に明るみに出た。
その当時の創造神は、責任を取ってその地位を下りた。
彼自身が限界を感じていたのか、周りの大反対を押し切って辞めた。
もしかしたら第1位の神について、何か思う事があったのかもしれないな。
この件について、一切口を挟ませなかったと聞いているから。
今思えば、創造神が替わった事が原因で、第1位の神は暴走したのかもしれない。
今まで隠れ蓑に使っていた存在が消えた事で、上手く回らなくなっていたんだろう。
「切っ掛けは、翔なんだよな」
本人に言ったら、凄く嫌な表情をするだろうな。
ははっ、想像ができるな。
「創造神か」
今の創造神は、これまでとは違う方法で決まった。
今思えば、あの時にもっと慎重に選ぶべきだったのかもしれない。
でも、あの時は時間が無かった。
次の創造神を決めようとした時、すぐに上位の神達が決めた者に決まりそうだった。
だが、それまで上位の神達に虐げられてきた下位の神達と神族が、上位の神達が決めた事に反発した。
正直、あれには驚いた。
今まで、彼等が声を上げる事は無かったから。
「我慢していたんだろうな」
上位の神達の中に、下位の神と神族には何をしてもいい存在だと思っている者がいたらしい。
そして、中位の神達は上位の神のする事には口を出さず、見て見ぬふりが当たり前だった。
私のように、情報を操作され知らなかった者もいるが。
それだって、知ろうと思えば知る事は出来たはずだからな。
「彼らは、ようやく声を上げた」
だが、下位の神と神族の反発は神国の力を大いに揺らした。
それに危機を感じた、フィオ神とガルアル神、カシュリア神。
今のトップ3位までの神達が、下位の神達と話し合う事で何とか次の創造神を決める事が出来た。
下位の神達も神族も、神国が荒れる事を望んだわけではなかったからな。
そうして選ばれたのが、今の創造神。
彼になった決め手は、力の強さと下位の神達から嫌悪感を抱かせなかったからだ。
急遽決まった地位に最初は戸惑っていたが、それでもその役目をしっかりと果たしてくれた。
彼のお陰で、神国は落ち着きを取り戻した。
「彼がそのまま創造神を続けると思ったんだが」
創造神になった時に、覚悟はあったはずだ。
ただ、創造神という地位は、彼が思っていたより孤独な場所だったのだろう。
少しずつ、創造神の不安が表に出始めてしまった。
「見極めるというか、既に限界なのを周りが認める時なのかもしれないな」
頑張ってくれた彼を、犠牲にしていいわけがない。
コンコンコン。
「失礼します」
執務室に入って来たマッシュに視線を向ける。
「すぐに時間が取れるそうですので、こちらに向かっています」
「そうか。分かった。お茶の用意を頼む」
「はい」
彼はかなり忙しいと聞いていたから、こんなに早く会えるとは思わなかったな。
さて、カルアタ神は知っている情報を教えてくれるかな?
どうも私は、彼にあまり信用されていないんだよな。
原因は全く分からないんだけど。
コンコンコン。
「はい。どうぞ」
「失礼する」
執務室に、深い皺を眉間に刻むカルアタ神が入って来た。
そして、私の前に立つ。
……睨まれているような気がする。
会いたかったけど、ちょっと後悔しそうだ。




