76.バンバン。
ガラガラガラ。
大きな音が聞こえたキッチンに、視線を向ける。
ガッシャーン、カランカランカラン。
壊れる音に転がる音。
普段ならしない音に苦笑が浮かぶ。
まさか、ここまで料理が苦手だとは思わなかった。
いや、料理というか細かい事が全て苦手なようだ。
魔族のオリー達に何が出来るのか調べるために、色々な事に挑戦してもらった。
庭に転がる岩を移動させることは簡単に出来た。
魔物を持ち上げる事も簡単だったので、力はかなりあるみたいだ。
でも、魔物を前にビビっていたので狩りは無理。
闇の魔力はあるが、攻撃は苦手だと分かった。
ただ逃げ足は、もの凄く速かった。
次に細かい作業に挑戦。
服を折りたたむのは、まぁ微妙だけど出来ないことは無い。
箒を持たせると、持ち手の部分を折ってしまった。
力加減が、少しだけ苦手なのかもしれない。
その次に料理。
皮むきは、皮むき器を使ったのにもの凄く時間が掛った。
皮だけでなく実も削れていたな。
食材を小さく切るのは、怖くて止めた。
大きめに野菜を切る事は出来た。
ただ、見ている側の心労は酷い。
彼等を見ていると、ちょっと魔界を覗きたくなった。
まぁ、俺が何か言うと大事になるので言わないけど。
子供達が帰って来たら、思う存分話して貰おう。
きっと面白い話が聞ける気がする。
ガターン。
今度は何が倒れたんだろう?
怪我をしていないといいけど。
色々心配だったけど、細かい作業には慣れるしかないと、予定通り料理担当になった。
ただし、料理を学ぶ前に色々と教える事があると、リーダーが意気込んでいた。
リーダーの様子から、ちょっとスパルタになるかもしれないが……大丈夫だろう。
それよりも、さっきオリーが言っていた「神国から落とされた」が気になるんだよな。
神の奴らは、仲間の神を魔界に落としていた。
魔界にいる、異常な力を持った魔族や魔神。
力を与えられる神。
「……異常な力を植え付けた仲間を魔界に落とした……なんて事を、やりそうだよな」
神という存在がどれほど身勝手なのか知っている。
だから、やってそうなんだよな。
ただ、ドルハ魔神の中にあった沢山の力については、いまだによく分かっていないけど。
何となく、あれも神が関係しているような気がする。
バン。
ウッドデッキの窓が開く音に視線を向けると、アイオン神がいた。
「アイオン神か、珍しいな」
「あぁ、久しぶり」
彼女の様子がいつもと違うので首を傾げる。
何かあったのだろうか?
「大丈夫か?」
傍に来たアイオン神を見て気付いたが、かなり疲れているようだ。
そのせいなのか、神力がおかしな流れになっている。
こんな状態になっているのを見るのは初めてだな。
「大丈夫……ふふっ、大丈夫?」
あっ、駄目だ。
おかしな状態になっている。
「リーダー」
「はい」
「何か甘い物と、すっきりするお茶を用意して欲しい」
「すぐに」
リーダーがキッチンに行くのを見送ると、アイオン神を見る。
隣を指して、座るように促した。
「ありがとう」
椅子に座ると、大きなため息を吐くアイオン神。
「何かあったのか?」
疲れているのにここに来たという事は、話したいのかもしれない。
「ふふっ。まだまだ、神の中に愚かな屑がた~くさんいるんだ」
言い方が怖いな。
「そうか」
「神達の調査は行われたけど、簡単にしただけだった。だから落ち神の問題がある程度片付いたら、神全員を再度調査すると言っておいたんだ」
「うん」
「落ち神の問題は、全てを把握するまでに少し時間が必要だった。本当に色々な事をしてやがって。調べれば調べるほど、頭を抱えるような事が多くて。それでも、仲間の神と協力して後処理をほぼ終わらせたんだ」
「そうか。お疲れ様」
俺の言葉に、力なく頷くアイオン神。
「で、神国……そういえば、我々の世界は神国になったらしい」
誰が広めたんだろう?
それが出来る者は、ロープか。
まぁ、アイオン神の様子から、特に問題はなさそうか。
「そうなんだ」
「うん。まぁ、神国でも屑国でもいいよ。もうなんていうか、呼び方なんてどうでもいい」
うわ~、そうとうやばい状態だな。
「それで! 落ち神の問題が概ね片付いたから、再度神国に属する神と神族を調べたんだ。そうしたら、前に調査した時より『問題あり』が3倍に増えたんだ!」
「えっ?」
増えた?
前の調べ方が悪かったのか?
「落ち神の事を調べている間に、神達は行動を顧みるどころか、監視がいない間にと色々とやったんだ!」
あ~、それは。
「何を考えているんだ? 再度調査すると言っておいたんだぞ。馬鹿なのか? あぁ、馬鹿なんだな、知ってるけど!」
バンとテーブルを叩くアイオン神。
あっ、彼女の剣幕に魔族達がビビってキッチンから覗いている。
「翔! 神をばっさり狩ろうか」
「待て。俺を巻き込むな」
あまりにはっきり言うから、頷きそうになってしまった。
気を付けないとな。
バン。
「しかも、塞いだはずの魔界への通路も復活させてやがった」
「えっ?」
「まだ神達は、仲間を魔界に落としているという事だ! あれほど、その行動は神として恥ずべき行動だと、広めたのに! 実行した奴にも協力した奴にも厳しい罰が下ったのに!」
今も仲間を、魔界に落としているのか。
「その通路は?」
「今、急いで塞いでいる。ただ、他にもある可能性がある」
異常な力の魔族や魔神は、間違いなく神が作った存在だな。
「それだけじゃない!」
バン。
まだあるのか?
テーブル、大丈夫かな?
「神達に、護り管理している星の情報を提出するように言ったら、『知らない間に滅んでいた』とか『今は情報を渡せない』とか『私は星を作っていない』とか。知らない間に滅んでいた? 全く管理していなかったという事だろう。情報を渡せない? 情報を渡したら問題が発覚するからだろう。星を作っていない? 星を作っていなかったら、その地位にいるわけが無いだろう! 愚か過ぎる!」
バンバン。
まぁ、なんというか。
さすが神だな。
うん、この言葉に尽きる。
「お疲れ様。ほら、リーダー達が作ったケーキだ。沢山食べろ」
丁度いい時に、リーダーが甘味とお茶を持って来てくれた。
アイオン神もそれを見て少し落ち着いたのか、お茶を飲んだ。
「おいしいな」
「ケーキもどうぞ」
「ありがとう」
溜め息を吐くと、アイオン神はケーキを食べ始めた。
まぁ、言いたい事を言って、あとは好きな物を食べたら、落ち着くだろう。
テーブルにヒビが入る前に落ち着いてくれてよかった。
「穴を復活させた屑を調べているんだけど、分からないんだ」
「そうなのか?」
「あぁ、見事に隠れている。神達は全員調べているはずなんだけど」
「見逃している者はいないのか? 例えば……」
何があるかな?
全員調べていると言っているけど……。
「ある地位にいて、調べられない神がいるとか」
「いや、創造神が命令を出したから、逃れられる神はいない」
「そうか」
そう言えば、神達をどうやって調べたんだろう?
聞き取り調査だと、嘘も混じるよな。
記憶装置の調査は、かなり時間が掛りそうだ。
「どうやって調べるんだ?」
「創造神が作った空間に入って、創造神を裏切っていないか見るんだ。裏切っていると分かった者だけ、詳しく調べていく」
「なるほど」
創造神の作った空間。
「その創造神が特別に贔屓している神はいないのか?」
「まぁ、創造神になるのを後押しした神達には少しだけ贔屓しているかな。今まで問題を起こした事が無いから、気にした事は無かったんだけど」
「とりあえず、その神から調べてみたらどうだ」
「そうだな。そうするよ」
アイオン神を見る。
来た時より、かなり落ち着いたようだ。
もう、大丈夫だな。




