75.2人の魔族
俺の質問に、魔族の1人が真剣な表情をする。
「私達は、呪界王の作ってくれた結界が無ければ死んでいました。そんな魔族が多いです。ですので、誰かの指示や命令ではなく、魔族達の多くが呪界王に少しでも恩を返したいと思っています」
えっ、つまり自主的に?
「この役目を手に入れるために、多くの魔族達を退け勝ち取ったんです」
何か、大変だったんだな。
「なので、我々をここでこき使ってください」
「いやいや、まてまて」
恐ろしい言葉を言わないで欲しい。
こき使うとは、酷使する事だから!
「えっと、つまり……」
なんとか断りたい。
魔族達を見る。
……無理な気がする。
「分かった」
真剣な表情で見られたら断りづらい。
それなら、何か仕事を与えて満足してもらってから、帰ってもらおう。
というか彼等を断っても、別の魔族達が来るような気がする。
「「いいのですか!」」
「あぁ、うん」
でも、彼等にいったい何をしてもらったらいいんだ?
特に困っている事は無いんだよな。
「主。準備が終わったから行って来るね」
翼の言葉に、手を上げる。
彼等にしてもらう事は、リーダーも交えて話し合おう。
今は子供達を、見送りたい。
「話は後で」
「「はい」」
嬉しそうな魔族達を見ていると、適当な事は言えないと感じる。
「皆、気を付けて。魔界では、サブリーダーの指示に従って、危険な事には近付かない」
「「「「「はい」」」」」
「楽しんでおいで。行ってらっしゃい」
「「「「「分かった。行ってきます」」」」」
テフォルテが俺の言葉に頷くと、空に向かって魔法を放つ。
すぐに上空の一部が歪むと、道が出来た。
「初めて見る方法だな」
いつもは歪んだ空間に突っ込んでいくのに、今日は道が現れた。
「子供達を、不安がらせないように考えたんだ」
「そうなんだ。ありがとう」
テフォルテにお礼を言うと、尻尾が揺れているのが見えた。
見た目は怖いけど、優しい性格だよな。
「この道を行けば魔界に着く。着いた先にはサブリーダーがいるから」
テフォルテの言葉に子供達が嬉しそうに笑うと、道を通って魔界に向かった。
「主、子供達は無事に送りとどけるから。あっそうだ。その魔族達はこき使ってくれ!」
「ははっ」
どうしてテフォルテまで、そう言うかな。
それとも魔界と呪界では「こき使う」という言葉の意味が、違うのかな?
テフォルテが魔界に向かうのを見送ると、リーダーを探す。
リーダーなら、魔族達に仕事を振り分けてくれるだろう。
あれ?
リーダーの姿が、見えないな。
さっきまで傍にいたのに、仕事かな?
「こっちで話でもしよう」
リーダーの用事が終るまで、魔族達と話でもしていよう。
「「はい」」
魔族達を連れてウッドデッキに向かう。
「なぁ、少し聞いても良いか?」
「「はい。なんでも聞いて下さい」」
2人の様子に苦笑が浮かぶ。
話しかける度に嬉しそうにされると、ちょっとむず痒いものがあるな。
「魔界では『こき使う』はどういう意味なんだ」
「死ぬまで働けです」
俺の質問に笑顔で答える魔族。
いや、その返答を笑顔で答えるのはどうなんだ?
もの凄い違和感を覚えるんだけど。
それに死ぬまでって……酷使より酷くないか?
「そうか。ここではこき使う事は無いから」
ここは重要だから、しっかり言っておこう。
「えっ。何か我々に不満があるのですか? それなら残念ですが、別の者に変わります」
「いいや、不満は無い」
やっぱり、彼等を断ったら別の魔族が来るみたいだな。
というか、こき使わないと不満があると思われるのか?
魔界の感覚が分からない。
「君たちに不満があるわけでは無い」
そもそも2人が、どんな魔族なのかまだ知らない。
「2人にはここで仕事をお願いしたい。ただし、しっかりと休憩と睡眠と食事をとって欲しい」
魔界での魔族の扱いは分からないが、ここは呪界。
ここでのルールで動いてもらおう。
死ぬまでなんて、絶対に駄目。
「えっ? 休憩? 睡眠? 食事?」
「あぁそうだ。ここでは当たり前の事だから、ここのルールに従ってくれ」
「そうなのですか? 我々魔族は、強い者に命の限り尽くすのが当たり前なので」
「そうなんだ。でも、命は大切にしてくれ」
俺のせいで死ぬとか、重すぎる。
とりあえず彼等には、無理をしないように見張りが必要だな。
ウッドデッキに着くと、椅子を勧める。
最初は遠慮をしていたが、俺がお願いすると座ってくれた。
「疲れた」
魔族とのやり取りが、こんなに疲れるものだとは。
というか、魔族の自己犠牲精神が凄い。
誰かに命がけで尽くすのが、魔界では当たり前なんだろうけどここでは違う。
なんとかそれを伝えているが、分かってくれた様子は無い。
「主。傍を離れてすみません」
ゆっくりとお茶を飲んでいると、リーダーが来てくれた。
「来てくれてよかった。この2人は魔族で、ここで一緒に生活をする事になったんだけど」
「サブリーダーから、魔族が来ることは聞いていました。彼等がそうなんですね」
聞いていたなら、彼等のこれからについて考えてくれていたかな。
「何かできる仕事はあるか? あと仕事をやり過ぎないように、注意する必要があると思う」
俺の言葉に頷くと、リーダーは魔族達に視線を向ける。
魔族達は、その視線を受けると緊張した面持ちになった。
「私は、主が作ったゴーレム達のまとめ役でリーダーと言います。サブリーダーの上司です。よろしくお願いしますね。あなた方のお名前は?」
そういえば、名前を聞き忘れた。
これは、かなり失礼だったな。
「私は、魔族のオリーと言います」
「俺は、魔族のワイライです。よろしくお願いします」
2人の魔族を見る。
髪が青く長い方がオリーで、女性の魔族かな?
もう1人の魔族は、茶色の髪で肩までの長さ……男性だよな?
「少し失礼な事を聞きますが。あなた方は女性ですか? 男性ですか?」
リーダーの言葉に、2人を見る。
そうなんだよな。
何というか、どっちか分からないんだよ。
「我々には、性別はありません」
「えっ? そうなのか?」
「はい」
オリーとワイライが頷く。
性別が無いんだ。
「魔族は皆?」
「半分ぐらいはそうです。神国から落とされた時の負担が大きすぎて、魂が歪むんです。そのせいで、体も変化してしまいます」
原因は神か。
「そうなんだ」
「申し訳ありません。踏み込んだ事を聞いてしまいました」
リーダーの言葉にオリーが首を横に振る。
「大丈夫です。私たちは気にしていませんから」
オリーとワイライの様子を見る限り、本当に気にしていないみたいだな。
これ以上、この話は続けない方がいい。
「リーダー。彼等にはどんな仕事を任せるつもりなんだ?」
俺の言葉にオリー達が、期待を籠めた目でリーダーを見る。
「彼等には、料理担当をしてもらいます」
料理担当?
時々、調理場を覗くけど、人手は足りているよな。
「えっ、料理?」
オリーの戸惑った声に視線を向けると、かなり困った表情をしていた。
「どうしたんだ?」
「あの、それが……料理は苦手で」
それなら別の仕事の方がいいかな?
ワイライを見ると、顔色が悪くなっている。
どうやら、かなり苦手みたいだな。
「リーダー。別の仕事の方がいいんじゃないか?」
リーダーに顔を近付け、小声で話す。
もしかしたら、何か理由があるのかもしれないけど。
顔色まで悪くなるなら、考える必要があるだろうな。
「いえ、料理担当でお願いするつもりです。魔族というか魔界の者達は、本当に料理が下手なんです。これからの事を考えて、料理が出来る者は必要です」
料理が下手?
美味しい野菜を作っても、駄目にしてしまうかもしれないと?
頑張って、魔界でも育つ野菜を作ったのに?
「オリー。ワイライ。頑張れ!」
俺の言葉にパッと嬉しそうな表情になったオリーは、でもすぐに顔を曇らせた。
ワイライもかなり考え込んでいる。
無理かな?
「頑張ります」
ワイライはやる気になったみたいだな。
「私も、頑張ります」
良かった、オリーもやる気になってくれた。
「リーダー、良かったな」
俺の言葉に頷くリーダー。
これで魔族達の仕事も決まったし、出来るようになれば魔界で活躍も出来るだろう。




