71.神達の思惑
―神国 ある神の視点―
魔界から送られてくる憎しみの気配が消えた。
どういう事だ?
作戦は上手く進んでいたはずなのに。
「おい、どうなっている!」
仲間のスイピス神が、部屋に怒鳴り込んでくる。
「そんな事、俺が知るわけが無いだろう!」
スイピス神は俺の苛立ちを感じたのか、黙ったまま椅子に座った。
「魔界から感じていた気配は、完全に消えたよな?」
俺の苛立ちを受けて、スイピス神は少し落ち着いたようだ。
俺も冷静にならなければ。
「あぁ、1ヵ月前まではしっかり神に対して憎しみがあった。なのに、ここ半月ほど前から徐々に薄れていって、今では全く感じなくなった」
どうしてだ?
魔族や魔神に、神への憎しみを育てさせ、この神々の世界を襲わせる予定だった。
あと少しで、上位にいる魔神を憎しみで支配出来るところまできたはずだった。
それなのに、どうして憎しみが消えた?
「作戦は失敗したという事か?」
スイピス神が浮かない表情で俺を見る。
「失敗……」
憎しみが消えた以上、諦めるしかないのか?
いや、駄目だ。
魔神や魔族どもが、神々の世界を1回でも襲えば、奴らを根絶やしにする理由が出来る。
そのために、長い時間を掛けて作戦を実行してきたんだ。
途中で、第1位の神が暴走して失敗しそうになったが、隠し通す事が出来た。
ここで、諦めてたまるか!
「魔界に住む全ての者を1人残らず殺すまで、諦めるわけがないだろう」
「そうか。分かった」
俺の様子に少し顔色を悪くするスイピス神。
こいつは、少し気が弱いのが駄目だな。
「だが、どうして憎しみが消えたんだ?」
確かに、なぜ憎しみは消えた?
何が問題だったんだ?
「魔界に送り込んだ奴らに、問題は無かったはずだ」
神として優秀だと言って育て上げ、途中で裏切り神力を奪い、魔神力を埋め込んだ。
あの時の絶望は、そうそう忘れないはずだ。
魔界に落とす時には、我々に対して憎しみを隠そうともしなかった。
そう、神を憎むように育てたんだ。
問題が起こるはずない。
「送り込んだ数が少なかったのか?」
スイピス神の言葉に首を横に振る。
「それは、無い」
長い年月をかけ、多くの者を魔界に落とした。
半分ぐらいは、魔界に合わず死んだだろう。
だが、この作戦は上手くいっていた。
なぜなら、魔界から感じる憎しみは、年々濃くなっていたのだから。
そう、成功していたはずなんだ。
「魔界に、異変でも起きたのか?」
異変と言えば、大きな壁になっていた魔界王がその地位から落ちたぐらいだ。
だが、あれはこちらの作戦通りだった。
魔界王は、神々の世界とも共存を望んだ。
馬鹿馬鹿しい。
あんな奴らと共存?
全く愚かな事だ。
だから、神々の世界を憎む存在を多く作る事で、奴から力を奪った。
「そうだ。そこまでは上手くいっていた」
あの後、何かあったのか?
だが、たった1ヵ月で何ができる?
そんな短期間で、出来ることなどたかが知れている。
「魔界からの報告では、分からないのか?」
スイピス神の言葉に、ハッとする。
そうだ。
1ヵ月前まではあった、魔族からの報告が届いていない。
「魔族の奴等、裏切ったのか?」
魔界で生まれた魔族。
いや、我々の力で魔神にまで押し上げた存在だから魔族とは違うな。
と言って、魔神ともまた異なる存在だが。
我々の手足となって動く魔神もどき。
奴等が、我々を裏切るわけがない。
この作戦が成功したら、奴らは神として生まれ変われるのだから。
まぁ、まだ実験段階で成功率は50%ぐらいだが、上手くいけば神になれるのだ。
絶対に、奴らが裏切る事はない。
「ではなぜ、報告が来ない?」
魔界からの報告が無ければ、何が起きているのか知る事が出来ないでは無いか。
「他の仲間達の下には、報告が届いているのか?」
「いや、分からない。あとで確認をしておくよ。ただ、あまり動き回る事は出来ない。創造神は問題ないが……その、あの2柱と仲間達が」
俺の言葉に、神妙な表情をするスイピス神に溜め息が出る。
「アイオン神とフィオ神。そして彼等を支持する神達か」
なぜ、神の存在を高めようとしているのに邪魔をするんだ。
神は何者より尊く、偉大なんだ。
魔神など、足元にも及ばないほどに。
「奴らを抑え込む方法は無いのか?」
何が「犠牲者を出す方法は間違っている」だ。
神という存在を高めるために必要なんだ。
ならば、あれらは犠牲者ではない。
神に捧げられた供物だ。
「奴らが懇意にしている、新しい世界の王を捕まえるのはどうだ?」
スイピス神の言葉に、眉間に皺が寄る。
「その問題もあったな。新しい世界など、全く不要な物を生み出しやがって。何が呪いの世界だ。神が捨てたゴミが寄り集まったところで、ゴミはゴミだ」
あぁ、本当にあの2柱は余計な事しかしない。
もういっそ、誰かを差し向けるか。
「そうだ。邪魔なら殺す……いや、利用しよう」
「利用?」
仲間の不思議そうな表情に、笑みを向ける。
「魔界に落とす」
そうだ。
魔界に落として、自分の非力を嘆けばいい。
魔神達に殺されれば、どれだけ己が愚かだったか気付くだろう。
「あっ、そうか。神を1柱でも殺せば、きっと魔神達に自信が生まれるだろう。魔神でも神を殺す事が出来ると分かれば、きっと神々に対して挑んでくる。そうか、神々が強すぎるから、今は引いてしまったんだ」
「そうだろうか?」
スイピス神の不審そうな表情を、きっと睨み付ける。
「悪い」
これぐらいの睨みで震えるなら、黙っていろ!
役に立つから傍に置いているが、この弱さが本当に気に入らない。
「でも、アイオン神もフィオ神も強い。そう簡単に魔界へ落とす事は出来ないぞ」
そうだな。
ムカつくが、奴らは強い。
親交を深めたいと呼び出して、薬でも使って眠らせるか?
いや、今まで全く交流をしてこなかった俺が呼び出せば、不審に思われるな。
「他に方法が……あぁ、奴らの部下を利用しよう」
部下を捕まえて、おびき寄せればいい。
魔界に繋がっているあの場所まで来させられれば、あとは落とすだけだ。
落とす方法など、いくらでもある。
「部下を使うのか?」
「あぁ、アイオン神が最も信頼している神族。確か名前は……マ……」
思い出せないな。
今まで奴の部下などに興味は無かったからな。
「まぁ、名前などどうでもいい。アイオン神の補佐をしている部下は4人。3人は事務仕事の補佐で1人は違う。その1人を狙う」
3人の神族は、部屋からいつ出て来るか全く予想が出来ないからな。
それなら、部屋の外で動き回っている1人を狙った方が早い。
「いつ決行するんだ?」
スイピス神の言葉に、これからの予定を思い出す。
「創造神に大量の書類が届いていたから、暫くは時間を作る事が出来ないだろうな」
創造神の傍で仕事ができるのは、奴の動向を見られるので色々と役立っている。
しかも創造神の力で守られているため、色々と隠す事も可能だ。
だから、奴の傍で働く事に文句はない。
でも、仕事が多すぎて、自由に動き回れる時間が少ないのが問題だな。
「当分の間は動けないから、その間にアイオン神の部下達の動向を探ってくれ」
まずは部下の行動を把握して、それから作戦を考えよう。
失敗しないためにも、しっかり考えないと。
「分かった。他の仲間にも声を掛けようか?」
他の仲間か。
少し前までは多くの仲間がいた。
でもその多くは姿を消した。
残っているのは、4柱のみ。
「ツイーリー神には、俺から話しておく」
彼女の得意とする力が必要になるかもしれない。
ツイーリー神は、第1位の神にかなり心酔していた。
だから、第1位の神を追い詰めたアイオン神を憎んでいる。
きっと、協力は惜しまないだろう。
「分かった。では、俺はアイオン神の部下を探るよ」
スイピス神が部屋から出て行く。
その後ろ姿を見送って、溜め息を吐く。
「必ず、アイオン神とフィオ神には、我々の邪魔をした事を後悔させてやる」




