57.やられた。
―魔界にいるオウ魔神視点―
魔神達についての報告書を読んで、ため息を吐く。
力を求めるのは自由だ。
だが、やっていい事と駄目な事があるだろう。
特にギュア魔神が酷い。
彼のせいで多くの魔族が被害にあっている。
そしてその事を、魔族達は既に知っている。
彼が魔界王になる事は、もう無いだろう。
「読み終わりましたか?」
「あぁ……あっ?」
声に視線を向けると、馴染みのあるゴーレムが研究室のソファに座っていた。
おそらくサブリーダーだろう。
「……」
窓を見る、閉まっている。
扉を見る、閉まっている。
壁に設置した、侵入者を知らせる装置を確認する。
赤い光が点滅しているので、正常に動いている。
いや、侵入者を許したのだから正常ではない。
一度、調べた方がいいだろうか?
「調べるのですか?」
「あぁ、そうだ……な」
サブリーダーの言葉に、視線を向ける。
なぜ、あの侵入者発見装置の事を知っているんだろう?
話した覚えはないのに。
まぁ、サブリーダーだからな。
「何か細工でもしたのか?」
装置の事を知っているなら、その可能性がある。
「まさか、そんな事はしていないですよ」
サブリーダーの言葉を信じていいのか?
信じたとして、ならどうして侵入者に警報音が鳴らなかったんだ?
「どうかしましたか?」
サブリーダーを見ると、首を傾げている。
色々と考えるより、聞いた方が早いな。
彼は、質問にはちゃんと答えてくれるから。
「サブリーダーが部屋に入っても警報音が鳴らなかったんだが、原因を知っているだろうか?」
「家族として俺を登録しておいたので、鳴るわけがないですよ」
「はっ?」
サブリーダーの言葉に、唖然とする。
登録したら、反応するわけがない。
それはそうだ。
いや、問題はそこではない。
「いったい、いつ登録したんだ?」
「一月前に来た時です」
「一月前?」
「俺が渡した『呪界での魔神力実験』の報告書を、オウ魔神が読んでいた時ですね」
確かに一月前、『呪界での魔神力実験』の報告書を受け取った。
呪界では、魔神力が守る力になるらしく、ずっと気になっていた。
だからサブリーダーにお願いして、色々と実験をしてもらった。
前回、サブリーダーが来た時に実験結果をまとめた報告書を受け取った。
そして、気になったから我慢できずにその場で読んでしまった。
魔神力実験は、驚くべき内容だった。
本当に負の感情を煽る事なく、守りの力になっていたのだから。
そういえば、報告書を読んでいる時に名前を呼ばれたような……気がするような?
「俺は許可を」
何か言われて「あぁ」と答えたような、答えなかったような……。
「もちろん、許可をもらって登録しました」
いまさら後悔しても遅いが、何故サブリーダーが帰るまで読むのを我慢しなかったんだ!
「オウ魔神は集中すると、少し……全く周りが見えなくなりますね」
「そうだな」
特に気になる物が目の前にあると、周りへの警戒が薄れる。
だから、侵入者発見装置を付けたのだけど。
「どうして登録をしたんだ?」
「えっ、入って来る度に音が鳴ったらうるさいからです」
そうだけど……はぁ、許可を出してしまったんだよな。
「我々とオウ魔神の仲ではないですか? オウ魔神も我々が占拠……住処にした地下に、自由に来てもらって大丈夫ですよ」
どんな仲だ?
しかも占拠って分かっていたんだな。
「そうか」
今更、やっぱり登録は無し……なんて無理だろうな。
「そうだ、俺の仲間が来る予定なので、装置のスイッチをちょっと切っておきました。ついでに玄関の鍵も開けてあります」
「……そうか」
「仲間が来たら、すぐに呪界に行きましょう」
「はっ?」
「約束をしましたよね」
えっ、いつそんな約束を?
って、これも俺が他の事に気を取られている時にした約束なのか?
サブリーダーを見る。
もしかして、俺が何かに集中している時を狙って約束をしているのでは?
……ありえそうだな。
バーン。
「失礼。玄関の扉が開いてたので、入らせてもらった。どうしても調べて欲しい事があるのだが、協力を頼めないだろうか?」
いきなり入って来た存在に、傍にあった武器を手に持つ。
あれ?
鍵ではなく、玄関の扉が開いていた?
「うわっ、びっくりした。あぁ、ゴルア魔神殿でしたか」
「「「はっ?」」」
侵入してきた魔神達より、サブリーダーの大きな声に驚く。
研究室に入って来た魔神達も、俺と同じように驚いた表情でソファに座るサブリーダーを見た。
今度は、なんだ?
「あれは?」
「呪界の王が作ったゴーレムです」
ゴルア魔神の言葉に返事をすると、サブリーダーがソファから降りて頭を下げた。
それを、注意深く見る。
何かする前に止めないと。
「呪界の王に作っていただいたゴーレムのサブリーダーと言います。これから、宜しくお願いしますね。それにしても、いきなり入って来るから驚きました」
いや、絶対に驚いていなかった。
というか、ゴルア魔神とカチュラ魔神達が来る事を知っていたよな。
侵入者発見装置のスイッチを切って、扉を開けていたのだから。
「えっと、驚かせて申し訳ない。……呪界?」
あっ、しまった!
あまりに急な事だったから、本当の事を言ってしまった。
「そうです。呪界から来ました。オウ魔神とは、呪界と魔界がいい関係を築くためには何が必要かと、色々話し合ったりしています。今日は、これからオウ魔神と一緒に呪界に行くんです」
呪界と魔界がいい関係?
はははっ、次からは絶対にサブリーダーの前で報告書は読まない。
絶対に読まないからな!
「オウ魔神が、この世界と呪界との関係を……。しかしオウ魔神が呪界に行くのは問題だと思うが」
ゴルア魔神の言葉に、何度も頷く。
そう大問題だ。
だから、ゴルア魔神に反対してもらわないと。
「療養中であるボルチャスリ魔神を診てもらう事になっているんです」
「えっ、元気になってきたと手紙に書いてあっただろう?」
親アリが届けてくれた手紙に、そう書いてあった。
もしかして、何か問題でも起きたのか?
「保護した当初よりは、体力も体重も増え元気になりました。でも、急に体調が悪くなることがあるんです。その原因を、ボルチャスリ魔神の為に調べて下さいとお願いして、了承してくれましたよね?」
了承した……かもしれないな。
全く覚えが無いけど。
「ボルチャスリ魔神は呪界にいるのですか?」
ゴルア魔神はずっと、ボルチャスリ魔神を探していたんだよな。
知っていたのに、教えなかったからちょっと気まずい。
「はい。ドルハ魔神に囚われていたのを保護しました。魔界ではドルハ魔神の配下が探し回っていたので、安全に療養するため、呪界に来ていただいたんです。もちろん、本人に了承を取っています」
サブリーダーの言葉に、ゴルア魔神が俺を見るので頷く。
「そうですか」
ゴルア魔神が、手で顔を覆った。
「良かった。生きているのですね」
「はい。生きています。ただ、まだ大丈夫だとは言い切れない状態です。だからオウ魔神に呪界に来てもらって、ボルチャスリ魔神を診てもらいたいのですが、やはり問題でしょうか?」
「いえ、それなら仕方ありません。オウ魔神、宜しくお願いします」
あっ、やられた。
ボルチャスリ魔神の為なら、ゴルア魔神が俺を止めるわけがない。
しかも俺が、サブリーダーがボルチャスリ魔神を保護している事を認めてしまった。
そっとサブリーダーを見る。
俺の視線に気付いたのか、少し顔を上げて笑ったような気がした。
ゴーレムだから、表情は変わらない。
なのに、なぜかニヤリと笑ったような気がした。
そっと窓の外を見る。
あぁ、親アリ達だ。
そういえば、仲間が来ると言っていたな。
あれって、逃げ道を塞ぐという意味だったのか。
「……はぁ」
そういえばサブリーダーに、集中していると周りが疎かになり過ぎると注意されていたな。
まさか、それを言った本人に利用されるとは。
「まぁ、こうでもしないかぎり俺は動かないか」
サブリーダーは、間違いなく俺の性格を把握しているな。
なぜなら、普通にボルチャスリ魔神の為にとお願いされても、面倒だと呪界には行かなかった。
そしてゴルア魔神達が訪ねてきても、魔神達の面倒ごとに巻き込まれないために、玄関を開ける事も無かったはずだ。
「あれ?……いつからこの事を計画をしていたんだ?」
―サブリーダー視点―
思ったより早くゴルア魔神が動いたので焦りました。
呪界に来る約束もボルチャスリ魔神を診る約束も、まだしていなかったですからね。
まぁ、オウ魔神が混乱していたので気付かれませんでしたが。
冷静に考えられるとバレるので、ハラハラしました。
あぁ、良かった。
今日持ってきた報告書は、次に使いましょう。
たぶん、まだ使えると思うので。
いつも読んで頂きありがとうございます。
更新が1回飛び、申し訳ありません。
何度書き直しても納得がいかず、時間を空けて書くことにしたためお休みいたしました。
これからもどうぞ、よろしくお願いいたします。
ほのぼのる500




