46.予定外です。
―サブリーダー視点―
怯えている魔族への説明は、シルシファリアにお願いしました。
同じ魔族ですから、彼女からの方が説得力もあるでしょう。
ボルナック魔神は少し離れた場所から、シルシファリアを見ています。
好きなのに近付けないのは、つらいでしょうね。
まぁ、それもあと少しです。
「サブリーダー。彼はどうするんですか?」
子アリが、ボルナック魔神を見て聞いてきます。
あぁ、仲間達への説明がまだでした。
「3個目の魔珠宝を試してもらう実験体……いえ、被験者です」
言葉選びは大切ですね。
同じ意味でも言葉を変えるだけで、印象が変わります。
「サブリーダー、今――」
「えっ、何かありましたか?」
「……被験者か。分かった。あの魔神の相手は誰になるの?」
「魔族のシルシファリアです」
俺の言葉に、驚いた声が聞こえて来た。
まぁ、あれだけ力の差があるので驚きますよね。
「この世界の恋愛は、よくわからないな。力で全てを決めるくせに、どうして恋愛に力は影響しないんだろうね?」
「そうなんですよね。俺もそれが不思議でなりません。オウ魔神なら、何か知っているでしょうかね?」
「どうだろう? オウ魔神が恋愛に興味あるとは思えないけど」
そうだった。
彼は、自分の興味のない事に関しては全くの無知だった。
聞くだけ無駄かもしれませんね。
「えっ、オウ魔神にはずっと愛している人がいるよ。ただ、魔珠宝で力を分けた時に亡くなったみたいだけど」
「「えっ!」」
傍にいた親アリが言った言葉に、話をしていた子アリと驚きの声をあげてしまった。
いや、本当に驚きました。
「あの自分以外の事に無頓着なオウ魔神が? 隣で誰が死んでも我関せずで、通り過ぎるような性格のオウ魔神が?」
「すごい言われようだけど、否定できないな。でも、そんなオウ魔神にも愛する人がいるんだよ」
親アリの言葉を疑うのは失礼だけど、すぐには信じられない。
「愛する人が亡くなったから、今のオウ魔神のようになったのかな?」
子アリの言葉に、納得する。
なるほど、それはありえそうですね。
「あっ、いた。サブリーダー」
空間の奥から出て来た子アリが、前脚を振る。
「どうしました?」
「あの魔神が目を覚ましたよ」
「本当ですか? 話が出来るでしょうか?」
魔神ドルハによって、地下の牢屋に囚われていた魔族達。
でも囚われていたのは彼等だけではありませんでした。
魔族達とは少し離れた牢屋に、魔神が囚われていたんです。
その魔神を見た時は、かなり驚きました。
なぜならその魔神は、顔も手も皺だらけだったからです。
最初は何かの影響を受け、そうなっていると思いました。
なので、魔神に話を聞こうとしましたが、話が出来ないほど弱っていたため諦めました。
だから牢屋を徹底的に調べました。
そして分かった事に、大きなため息がこぼれ落ちてしまいました。
なんと魔神の入っていた牢屋には、魔神力を奪っていく魔法が掛かっていたんです。
しかも、魔神が決して死なない程度の力を残すような、最悪な魔法でした。
ですが、その魔法から逃れれば、魔神の見た目は元に戻ると思いました。
だから、すぐさま牢屋から魔神を救い出し様子を見ました。
ですが、牢屋から出しても魔神に全く変化が起こらなかったんです。
正直、困惑しました。
牢屋に掛けられていた魔法は、魔神力を奪う魔法だけです。
見た目を変える魔法など、掛かってはいません。
困っていると、助けた魔神が原因を話してくれました。
かなり苦しそうですが、頑張ってくれました。
そして原因を聞き、驚きました。
いったいどれほど長く生きたら、見た目が変わるのか。
詳しく話を聞こうと思いましたが、魔神は意識を失っていました。
力を奪われ続けて、限界だったのでしょう。
助け出してから彼は、今日までずっと眠っていました。
その間、二度ですが力の暴走がありました。
アリ達が対処出来たので問題はありませんでしたが、さすが魔神です。
衰えていても、かなりの力だったそうです。
俺も魔神が起こす、力の暴走を見たかったですが用事があり、その場にいませんでした。
本当に残念です。
「さっきまで起きていたけど、また眠っちゃったんだよね」
子アリの言葉に、少し気落ちします。
「まぁ、一度起きたから、次はもっと早く目を覚ますんじゃないかな? あっそうだ。魔神の力はようやく安定したみたいだから、もう暴走はしないと思うよ」
安定しました。
もう、魔神による力の暴走は起こらないのですね。
あ~、残念です。
どんなレベルなのか、実際の暴走を見たかった。
「無理に力の暴走を、起こそうとしないでね」
「しませんよ」
失礼な。
子アリをちょっと睨みます。
力の暴走は起こした者にも負担が掛かります。
今の彼にはかなりの負担となりますからね。
「起きていないのは残念ですが、一応様子を見ておきましょう。そういえば、彼の名前を聞けましたか?」
「それは大丈夫、最初に聞いたから。彼はえっと……『ボルチャスリ』という名前だったよ」
子アリが少し言い淀むので不思議に思いましたが、名前を聞いてちょっと固まりました。
「……ボルチャスリですか?」
「そう、ボルチャスリ」
長寿の魔神、ボルチャスリ。
それは、この魔界を長い事治めていた王の名前ですよね?
えっ?
「魔界王?」
「やっぱり、そうなの?」
子アリを見ると、困った様子で俺を見てきます。
魔神が嘘を吐く可能性もありますが、あの状態では嘘は吐かないでしょう。
という事は、彼は魔界を治めていた王という事になります。
えっ、本当に?
それは、かなり予定外なのですが。
「そういえば、3個目の魔珠宝は出来たの?」
子アリの話に首を横に振ります。
「いえ、まだです」
「でもさっき、えっと……ボルタック?」
「ボルナック魔神ですか?」
「そう。そのボルナック魔神とシルシファリアに、3個目の魔珠宝を渡すと言ってなかった?」
言いましたね?
それがどうかしたのでしょうか?
「まだ魔珠宝が出来ていないのに、連れて来たの?」
「大丈夫です。主の事ですから、そろそろ3個目、もしくは4個目も出来ていますよ」
俺の言葉に、子アリが納得した様子で頷く。
「確かに」
魔神が寝ている部屋の扉を、そっと開けます。
「やはり、まだ寝ているみたいですね」
部屋の中に入り魔神の様子を窺いますが、彼の表情にはまだ疲れが見えます。
これだけ眠っても、まだ疲れが完全に取れていないなんて。
いったい、どれだけの魔神力が奪われたら起きられなくなるのか。
俺では、想像もつきませんね。
「まだまだ、寝て休む必要があるよね?」
「そうみたいですね」
寝ているのを邪魔しては駄目なので、戻りましょう。
そっと天井を見ると、孫アリ達の姿が見えました。
「変化があったら、教えて下さいね」
「「「「「了解」」」」」
天井から小さな声が、聞こえます。
それに手を振ると、魔神が寝ている部屋から出ます。
魔神はまだ眠ったままですし、一度主の下へ帰りましょう。
魔珠宝が出来たか、確かめる必要もありますからね。
それに主とリーダーに報告しなければ。
「魔界王を拾いました」と。




