43.魔珠宝の力。
―魔界にいる親アリ視点―
魔界に作った地下道。
その地下道には一定の距離を開けて、数十個の巨大な空間が存在する。
その巨大な空間の1つは、魔界で活動する我々の運動不足を解消するための場所となっている。
皆、「運動広場」と呼んで親しんでいる。
ただ残念な事に、「運動広場」で特訓は出来ない。
特訓場所としては、魔神力を使った結界に不安があるからだ。
でも、軽く体を動かす程度になら、最適な広さと強めの結界だ。
その場所で、オアジュ魔神の子である魔族のトスミラが我々の仲間の一匹と遊んでいる。
いや、戦っている。
「おっ!」
「あっ!」
仲間達の声に視線を向けると、トスミラが親アリに蹴りを入れていた。
親アリが、すぐに防御魔法を発動したのでダメージは無いが、今の動きに仲間達がざわついている。
「今の動きは良かったよな」
「うん。かなり素早く動けていた。なんだか、彼女は強くなっていないか?」
仲間達の声に頷く。
確かにここ数日の動きを見て気付いたが、彼女は強くなっている。
このトスミラは、主が作った2個目の魔珠宝を試した者だ。
まさか、魔珠宝を取り込んだ事で強くなったのだろうか?
その場合、残念な事だが主が作った魔珠宝は使えない。
魔界の者達をレベルアップするわけにはいかないのだ。
それでなくても、魔神達の争いは日々激しさを増している。
そしてこの争いを勝ち抜くために、魔神達は力を求めている。
もし、主の作った魔珠宝にそんな力があると分かれば、主が狙われてしまう。
今の主に、余計な心配は掛けたくない。
力と言えば魔神達は、かなり最悪な方向へ突き進んでいる。
魔界の王になるためとはいえ、仲間である魔族達を実験に使うなんて。
あれは、少し確認したが最悪だ。
よくも仲間に、あんな酷い事が出来るものだ。
まぁ、見て見ぬふりしている我々が、彼等の事を言う資格は無いのかもしれないが。
「ただいま戻りました。トスミラとそのパートナー、ホウシュの健康状態はどうですか?」
運動広場に来たサブリーダーに、前脚を上げて挨拶する。
それに、手を上げて応えてくれるサブリーダー。
「問題な~いよ。健康そのものなんだけど、ちょっと別の問題が見つかったかも」
「別の問題ですか?」
「うん、トスミラなんだけど」
サブリーダーの視線が親アリと戦っているトスミラに向く。
しばらく彼女を見ると、1回頷いた。
「動きが、かなり良くなりましたね。まさか、魔珠宝に強くなる力があるのですか?」
サブリーダーの声が少し低くなる。
主の作った魔珠宝が使えなくなると思ったのだろう。
俺もそれが心配だから。
「まだ、分からない。でも、確実にトスミラは強くなっているのは見た通りだよ。最初に魔珠宝を試した者はどうだったの?」
「オアイスに変化は感じられませんでした」
それならトスミラだけなのかな?
「そう言えば、トスミラは魔神力と闇の魔力の流れが不安定でしたね」
サブリーダーの言葉に、魔珠宝を試す前に行われた健康診断の結果を思い出す。
「そう。『心臓の近くに闇の魔力の塊があって、流れを阻害している』と、診断した仲間が言っていたね」
あれ?
トスミラに視線を向けて、魔神力と闇の魔力の流れを見る。
俺は他人の力を見るのが苦手なので詳しくは分からないけど、スムーズに流れている気がする。
「治っていますね」
サブリーダーの言葉に、戸惑いながら頷く。
「彼女が強くなったのは、流れを邪魔する塊が消えたからかもしれないですね」
そうなると……魔珠宝が治療した?
そんな力が魔珠宝にあるのかな?
「魔珠宝に、治癒の力があると聞いてる?」
「いえ、全く」
本来の魔珠宝には、無いみたいだな。
つまり主の作った魔珠宝だから?
まぁ、元々の力が発揮されただけなら、主の作った魔珠宝は問題ないだろう。
「同じ症状の者がいれば試して――」
「あっ。少し状況が違いますが、いました」
んっ?
「魔珠宝を取り込んだあと、オアイスのパートナーに掛けられていた呪いが解けて、力が元に戻ったそうです」
呪い?
その話は初めて聞くな。
「そうなんだ。つまり、魔珠宝は治癒や解呪が出来ると思っていいのかな?」
「判断するのはまだ早いですが、その可能性が高いと主に報告しておきます」
「うん、ありがとう」
「うわぁ、負けたぁ」
運動場にトスミラの叫び声が響く。
どうやら、親アリとの戦いに決着がついたようだ。
まぁ、親アリは本気ではないので決着とは少し違うけど。
「やっぱり強いね。全然相手にならないや」
トスミラが楽しそうに言うと、そのまま運動広場に寝っ転がる。
「大丈夫か?」
すぐにパートナーであるホウシュが駆け寄り水を渡している。
「ありがとう。でも、大丈夫」
この2人は、トスミラはかなり好戦的だが、ホウシュは戦いが嫌いなようだ。
本気になれば、そこそこ強いホウシュ。
でも、今のところその力を出した事はない。
「んっ?」
「なんだ?」
「この気配はなんでしょう?」
仲間達とサブリーダーが、運動広場の出入り口へ視線を向ける。
地下道を伝って、怒り狂った魔神のびりびりとした力を感じる。
「何かあったみたいだね、見てくるよ」
「一緒に行きましょうか?」
サブリーダーの言葉に、少し考える。
もしも何かあった場合、サブリーダーがいた方が素早く対処できるだろう。
「うん、お願い」
運動広場を出て、少し迷路のようになっている地下道を迷いなく、怒り狂っている気配を放つ魔神に近付く。
「どうやら、魔神ドルハの城の地下に作られた地下牢で暴れているみたいですね」
サブリーダーの言葉に頷くと、魔神にバレないように気配と力を抑える。
そして、そっと目的の場所に近付くと、中を覗き込んだ。
「あ゛~~、シルシファリア。なんで、くそっ。あいつ、探すと言ったのに!」
地下牢で暴れ回っているのは、真っ赤な髪を持つ魔神だ。
確か魔神達の資料に名前が載っていたな。
あ~……あれ?
えっと?
あっ!
魔神ドルハの側近の1人で、ボルナックだ。
あれ、ボルナック?
「保護した魔族のシルシファリアが、気にしていた魔神ですね」
そうだ。
牢屋に囚われていた1人シルシファリアが、保護した時に気にしていた者だ。
どうやら、ボルナックも彼女の事が気になるというか、好きみたいだな。
「……魔神ドルハと魔神ボルナックは仲間ですよね?」
「あっ……うん」
どうして魔神ドルハが実験のために集めた中に、仲間の恋人が混ざっているんだ?
「あぁぁぁぁ」
ボルナックが地面に膝を突く。
よく見ると、見張り役の魔族がバラバラになって転がっている。
どうやら怒り狂って殺してしまったみたいだ。
まぁ、見張り役の魔族たちは性格が悪かったからな、特に可哀そうだとは思わない。
囚われて何も出来ない者達を、痛めつけていたからな。
うん、自業自得だ。
「なんだこれ」
ボルナックが自分の頬を触って、不思議そうに指を見つめた。
その行動に首を傾げながら、ボルナックの指先を見る。
「濡れているので、彼は泣いているようですね」
「うん。あの反応……もしかして、ボルナックは泣くのが初めてなのかな?」
ボルナックを見ていると、濡れた指先にかなり戸惑っている。
あっ、座り込んだ。
ん~、項垂れてしまった。
これは、どうすればいいんだ?
「接触してみる?」
俺の言葉に、サブリーダーが頷く。
「愛する人が死んだと思っているのは可哀想ですからね。ただし、まだ信用はしません」
それはもちろん。
「では、接触してみるね」
隠れていた場所から、そっと地下牢に入る。
まだ気配も力も抑えているけど、これだけ近づけば気付くだろう。
あっ、気付いた。
「誰だ、お前。ドルハから殺せとでも命令されたか? ここがバレた以上、俺がドルハに敵意を向けるのは分かっているだろうからな」
「あんな屑の仲間だと思われるのは心外です!」
うわっ。
仲間だと思われた瞬間、嫌悪感がすごい。
「……そうか。そんなに殺気を向けないでくれ。まぁ、今の俺なら簡単に殺せるな」
どうやらシルシファリアが死んだと知って、気力がなくなっているみたいだ。
そんなに彼女に惚れていたんだな。
「シルシファリアは生きていますよ」
「……ふざけるな! 死んだ事は知っている。何がしたい?」
一気に膨れ上がった殺気に、少し警戒する。
「落ち着いて下さい。死んだ事にしないと、問題が生じるので『死んだ』と思わせたんです」
「えっ? 本当に生きているのか?」
まぁ、驚くよね。
「はい」




