31.報告
リーダーが、エントール国でやった色々な所業……違う。
功績の話を聞いた。
ちょっと、ほんの少しリーダーの思惑に頬が引きつったが、これもエスマルイートの悩みを解消するために必要な事だったのだろう。
それにしても、コタルギ伯爵は自分の所業がエスマルイートに筒抜けだったと知って驚いただろうな。
いや、驚いたというか恐ろしかったかな。
仲間……というかこの場合、手駒かな。
多くの手駒が捕まって、何が起きたのか調べようとした瞬間にエスマルイートが目の前にいる。
そこで彼は、全てバレていた事を知ったはず。
それなのにエスマルイートは、何も言わず笑って通り過ぎた。
……怖いな、これ。
まぁ、自業自得なんだろうけど。
今回の事でコタルギ伯爵は、王に手綱を握られた状態だ。
王の指示で動く手駒。
手駒を上手く使ってのし上がるつもりが、自ら王の手駒に落ちた。
コタルギ伯爵がそこから逃れる方法は……貴族でなくなれば……いや、無理だな。
その地位にいるから、生きられるんだ。
貴族でなくなれば、死罪かな。
リーダーの報告から、コタルギ伯爵は間接的とはいえ、人を殺している。
これは、コタルギ伯爵自らが招いた結果だ。
それはそうと、どうしてコタルギ伯爵は潰さなかったんだろう?
これまでは、問題を起こした貴族は全て潰してきた。
エスマルイートからの恩情?
いや運動会の時に、エスマルイートがコタルギ伯爵の事を話したが、そこには嫌悪感しかなかった。
だから、情けを掛けるとは思わない。
別の理由があるはずなんだけど、なんだろう?
そういえばエントール国は、王が暴走しないように重要な役職を決めるのは多数決だと聞いたな。
コタルギ伯爵がエスマルイート側に入る事で、彼が信頼しているエルマスを宰相に出来るんだろうか?
多数決……もしかして、コタルギ伯爵は多くの貴族を誘導できるのか?
それなら、潰さなかったのも頷ける。
まぁ、理由があってこの形になったんだろう。
リーダーが決めた事だから、きっと問題ない。
「リーダー、オル。お疲れ様。エスマルイートを助けてくれてありがとう」
俺の言葉に、小さくガッツポーズをしたリーダーとオル。
それ、バレていないと思っているんだろうな。
それにしても、それぞれの国に担当者がいる事にビックリだ。
いつの間にそんな存在が出来たんだろう。
役割は、各国の王の方向性や傾向の調査。
同時に、王を害する存在の有無の調査だそうだ。
必要なんだろうけど、スパイみたいだよな。
……みたいじゃなくて、これはスパイか。
「リーダー。各国にいる担当者の、安全を最優先で頼むな」
俺の言葉に、頭を下げるリーダー。
「はい。もちろんです」
これ以上、口を挟むのは駄目だな。
信用しよう。
「分かった」
エントール国についての報告は終わったので、オルが下がる。
リーダーが残ったという事は、他にも報告があるのだろうか?
「『魔珠宝らしい物』について、報告があります」
おっ、何か結果が出たのか?
「申し訳ありません」
失敗?
「魔界が今、かなり荒れております。そのせいで、魔神力の暴走が各地で起こっています」
「魔神力の暴走? どんな物なんだ?」
「魔神力の塊が空中に出来、かなりのスピードで移動するそうです。移動時には、暴風が吹き荒れ大地を襲うと聞きました。力の弱い者は、その力を纏った暴風で亡くなっていくそうです」
死者も出ているのか。
かなり厄介な物みたいだな。
「暴走を防ぐ方法は?」
「魔界王をめぐる争いで、力の強い魔神達が戦っているせいで起こるので、魔神達の争いが終れば落ち着くでしょう。ただ、名乗りを上げている魔神達の力が拮抗しているため、なかなか勝敗が決まりません」
それは、まだまだ時間が掛るという事だな。
それなら仕方がないが、オアジュ魔神の子供達がいつその魔神力の暴走に巻き込まれるか分からない。
なんとか、こっちの世界に来られないかな。
オアジュ魔神からは、魔珠宝を持たない者は不安定な為に移動は無理だと聞いたけど。
だけど、本当に方法は無いんだろうか?
―子蜘蛛視点―
不快な気持ちにさせる魔神力の塊が、頭上を猛スピードで通り過ぎていく。
私は、魔神力の塊が起す暴風に飲み込まれないように、仲間達とギュッと身を寄せあった。
いったい、こうしてどれくらい時間が経ったんだろう。
「前に来た時より魔界が荒れている」と、気付いたのは、魔界に来てちょっとしてから。
身の危険を感じたので、すぐに引き返そうと思ったが、遅かった。
近くで起こった魔神力の暴走に、巻き込まれてしまった。
少し焦ったが、日々の特訓は無駄では無かった。
襲って来た魔神力の塊を、私の持つ魔神力で破壊する事が出来たのだ。
そのお陰で怪我を防ぐ事は出来た。
ただ、破壊する方法は駄目だった。
魔神力の塊を破壊すると、凄い力の波が生まれ魔界に広がった。
慌ててその場所を移動したが、魔神が飛んで行くのが見えた。
そのため今は、身を低くして魔神力の暴走が通り過ぎるのを待っている。
「少し落ち着いて来たんじゃないか?」
仲間の言葉に、顔を上げる。
「そうみたいね」
まだ、魔神力の暴走は起こっているが、私達がいる場所からは遠い。
「すぐに――」
「待って、周辺に問題は?」
仲間の言葉を遮る。
変化が起きた時は、慎重に行動しなければならない。
ここは、魔界なのだから。
「魔神達の気配は、遠いな。この近くには、魔族の気配もない」
他の仲間からの報告に、少し緊張を緩める。
「みんな、光の魔力や神力が溢れていないか確認」
「「「了解」」」
私の言葉に、仲間達が動く。
私も自分の中に流れる力を確認する。
魔界に合わせて、闇の魔力と魔神力だけを使うようにしている。
ここで光の魔力や神力が溢れてしまえば、大問題になる。
良かった。
問題無いみたい。
魔神力の暴走に巻き込まれた時は、一瞬光の魔力が揺らいだ気がしたけど抑えられたみたい。
「「「問題無し」」」
「私も問題無し。それじゃ、行こうか」
周りを警戒しながら、出来る限り早く移動する。
魔神力の暴走に巻き込まれてしまったせいで、予定が大きく変わってしまった。
本当なら、仲間達と合流していたはずなのに。
オアジュ魔神の子供達とそのパートナー達がいる隠れ場所まで急ぐ。
途中で何度も止まり、周りの気配を探る。
子供達の力を完全に封じたので死んだと思っているはずだけど、油断は出来ない。
魔神力の暴走に再度巻き込まれそうになったが、なんとか回避する。
ただし、隠れ場所に行くのに遠回りとなり8時間も掛かってしまった。
いた!
かなり抑えているが、仲間の力を感じる。
魔界は薄暗い場所で、少し遠い場所は視界では確認できない。
そのせいか、魔界に生きる者達は気配や力に敏感だ。
初めて魔界に来た時はそんな事は知らなかったので、何度か魔族に追い掛け回された。
原因がわかってからは、行動には気を遣った。
違和感を持たれる行動を取ったら、魔族が確認に来るからだ。
隠れ場所として利用している、洞窟の前に来る。
もう一度周りを探り、目の前の出っ張った岩に前脚を近づけ、魔神力を少し流す。
スッと風が吹く。
幻影魔法で見えなくなっていた、洞窟に入るための扉が見えた。
扉を開けると、速やかに全員が中に入る。
「良かった、無事だったんだな」
慌てたように洞窟の奥から仲間が姿を見せた。
私より大きな子アリで、幻影魔法を得意としている。
「悪い。魔神力の暴走に巻き込まれて動けなかったんだ」
「怪我は?」
「それは問題ない」
私の言葉にホッとした様子を見せた子アリ。
すぐに洞窟の奥に案内してくれた。
「洞窟生活に問題は?」
「全く無い。それより、見て!」
案内された先を見て、茫然としてしまう。
まさか、魔界に巣穴を作りだしているとは。
まぁ、魔界の大地に巣を造る者はいないとオウ魔神が言っていたから問題ないか。
「これが完成したら、魔界のどこにでも行けるな」
「そうか。そうだな! 後で手伝うよ!」
これが完成したら、魔神力の暴走に巻き込まれなくて済む。
さすが我が仲間達だ。
あれ?
主にはあまり目立たないようにと言われていたような。
……地下に巣を造っても目立つことはないからいいか。
うん、問題なし。
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ほのぼのる500




