28.出来た……だけど?
魔神力を溜めた洞窟。
欠片に変化が起きたと喜んだのは16日前。
今、目の前には「青い光を放つ透明の球」があった。
「いきなり光ったのか?」
オアジュ魔神の言葉に頷く。
「あぁ、そうなんだよ。で、光が消えたら、その球があったんだ」
本日分の魔神力を魔石から放出した。
あと少しで終わるという時に、頭上で「パン」という音が聞こえた。
慌てて上を見たが、眩しい光が発生していて見る事が出来なかった。
オアジュ魔神から「ここまでくれば洞窟が崩れない限り成功する」と聞いていたので、期待した。
ドキドキしながら光が消えた後に確認すると、青い光を放つ透明の球があった。
それを見た時、首を傾げた。
オアジュ魔神が見せてくれた魔珠宝は、直径3㎝ほどの透明の球だった。
なのに、出来た魔珠宝だと思う物は直径7㎝と大きく、しかも青い光を放っていた。
俺は不思議に思いながら、オアジュ魔神を呼んだ。
出来た「青い光を放つ透明の球」が何か調べるためだ。
慌ててやってきたオアジュ魔神は、すぐに「青い光を放つ透明の球」を調べてくれた。
結果、出来たのは「魔珠宝らしい物」だった。
「『魔珠宝らしい物』とはどういう事だ?」
オアジュ魔神が「魔珠宝らしい物」を手に持ち、俺を見る。
「これからは間違いなく魔珠宝の力を感じる。力の影響を緩和してくれる力だ。でも、それ以外の力も感じるんだ」
オアジュ魔神から「魔珠宝らしい物」を受け取る。
手の中から柔らかい力を感じる。
だが、オアジュ魔神が言うような「力から受ける影響を緩和する力」なのかは分からない。
ただ、どこかホッとする力だとは思う。
そしてその力と同時に何というか……スッとした力を感じる。
どう表現すればいいのか分からないが、その力を感じると体が軽くなるような気がした。
「それと通常は、欠片が出来てもこんなに早く魔珠宝は出来ないはずなんだ」
「そうなのか?」
「うん。早くても3ヶ月は掛っていたはずだ」
という事は、早く出来過ぎたんだな。
しかも、別の力を付けて。
「これは……使えるのか?」
魔珠宝として使えないなら、意味がない。
「ん~、使えるとは思う。調べた感じ、新しい力から嫌な感じは受けなかった。どちらかといえば、気持ちのいい力だ。ただ、その力からどんな影響を受けるのか分からないから、『使える』とは言えない」
そうだよな。
得体の知れない力を持った「魔珠宝らしい物」がどんな影響を及ぼすのか、それが分らない以上は使っていいのか判断は出来ないよな。
魔珠宝として使えるか調べるには……誰かが試してみるのが一番なんだけど……。
「誰かに試してもらうのは、難しいよな」
俺の言葉に、オアジュ魔神が頷く。
そうだよな。
「あっ、それにまだ試すのは無理か。1個しかないからな」
対で使うらしいから。2個は必要だよな。
「1個で十分だ。1個を分けて持つから」
オアジュ魔神の言葉に、「魔珠宝らしい物」を見る。
これを2個に分けるのか?
という事は、この大きさは特に問題にならないかもしれないな。
分けたら、オアジュ魔神が見せてくれた魔珠宝と同じぐらいの大きさになるはずだ。
「オアイスに事情を話してみましょうか?」
んっ?
洞窟の入り口を見る。
「いつの間に来たんだ?」
一つ目のリーダーはここ数日、獣人の国エントール国にお出かけ中。
そのため、今はサブリーダーが一緒にいる。
いつもなら洞窟の中には入って来ないのだが、なぜか洞窟の出入り口に姿を見せた。
「遅かったので心配しました」
そんなに時間が経っていたのか?
気付かなかったな。
「そうか。心配掛けて悪かった。それで……」
あれ?
誰だったかな?
オアジュ魔神に少し似た名前だったけど。
「なぜ、息子の名前を知っているんだ?」
オアジュ魔神を見ると、不思議そうな表情でサブリーダーを見ていた。
どうやら、さっきサブリーダーが言った名前はオアジュ魔神の息子の名前らしい。
「狙われていたので保護しました」
狙われている?
「誰にだ? 何かされたのか?」
オアジュ魔神の焦った声に、サブリーダーが落ち着くように手を前に出す。
「狙ったのはギュア魔神ですが、安心して下さい。保護が早かったので何もされていません。全ての力を結界内に抑え込んだので、狙っていた者はおそらく死んだと思っているでしょう。そうなるように仕向けたので。ふふっ、敵がまぬけで助かりました」
サブリーダーのちょっと黒い部分が出ているな。
まぁ、今回は特に問題ないか。
んっ?
この黒さがこっちに向いた事が無いから、特に気にする事は無いか。
「そうか。ありがとう」
「オアジュ魔神の子供たちと、その相手の方達は全員保護済みです」
オアジュ魔神がその場に座り込みため息を吐く。
良かった。
これでオアジュ魔神の子供やその恋人達に何かあったら、色々後悔した事だろう。
それにしても……。
「サブリーダー、よくやった」
あとで関わった子達全員を褒めよう。
すっごく褒めよう。
「…………」
あれ?
サブリーダーが何も反応を返してくれないんだけど。
「サブリーダー?」
「ほわぁ」
んっ?
「ごほっ。いえ、なんでもないです。ふふっ。任せて下さい」
「あぁ、これからも頼むな」
サブリーダーの様子を窺う。
……もしかして照れているのか?
分かりづらいが、視線が右往左往しているような気がする。
「あの、それでどうしますか? オアイスは、魔珠宝が出来たら試したいと話していました」
えっと、それは俺が魔珠宝を作っていると話したという事だろうか?
「期待だけさせて出来ませんでした」では申し訳ないから、隠しておこうと思っていたんだが。
今度からは、俺の気持ちを話しておこうかな。
「……分かった。オアイスに説明して試すなら試させてやってくれ。もちろん相手の者も納得してからになるが」
「えっ、いいのか? 危険かも知れないぞ?」
「俺が調べた限りでは大丈夫だと思う。それに保護されているとはいえ、魔界にいては危険だ」
まぁ、そうだろうけど。
サブリーダーを見る。
「守りは問題ないか?」
「大丈夫です」
自信ありげに言うので、大丈夫だな。
手の中の「魔珠宝らしい物」を見る。
両手で包みオアイスの為になるように祈る。
「はい。よろしく頼むな。何か異変があったらすぐに対処してくれ。その球が壊れてもいいから、オアイスを最優先に」
「分かりました」
サブリーダーに「魔珠宝らしい物」を渡す。
受け取ったサブリーダーは、「魔珠宝らしい物」をジッと見つめる。
「どうした?」
「いえ、魔神力で作った物にしては、優しい力を感じるのが不思議で」
そう言われてみれば、そうだな。
魔神力は負の感情を揺さぶる力を持っている。
なのに、俺が作った「魔珠宝らしい物」からは優しい力を感じる。
オアジュ魔神の話から、本物の魔珠宝も優しい力を持っているようだし。
「不思議です」
「不思議だな」
隣で聞いていたオアジュ魔神も頷いている。
「気にならなかったのか?」
「そういう物だと思っていた」
魔界では当たり前だから、誰もおかしな事に気付かないのか。
「主。先に戻って、魔界に行く者に話をしてきます」
「分かった。頼む」
俺の言葉に頷いたサブリーダーは、すぐに洞窟から出て行った。
オアイスが実際に試すかどうかはまだ分からないが、とりあえず待つしかないな。
チラッとオアジュ魔神を見る。
「心配なら手紙でも書いたらどうだ?」
仲間に頼めば持って行ってくれるだろう。
「そうだな。そうしようかな」
オアジュ魔神の肩をポンと叩くと洞窟から出る。
あとを追って来たオアジュ魔神の様子を窺う。
「んっ? 大丈夫だ」
俺の視線に気付いたのか、にこりと笑うオアジュ魔神。
無理をしているのが分かるが、気付かないふりをして頷く。
「分かった」
今、俺が言える事は何もないからな。




