27.名? 迷?
「「「「「お疲れ様でした」」」」」
酒や果実水が入ったコップを持ち上げて、皆で乾杯をする。
皆を見渡す。
みんな笑顔だ。
良かった。
本当に、運動会が無事に終わってよかった~。
バンバン。
「うわっ」
持っていた酒をこぼしそうになるが何とか耐え、肩を思いっきり叩いた存在に視線を向ける。
「悪い、力加減が甘かった。それにしても凄いよ。翔! 障害物レースで1位! おめでとう」
「ははっ。ありがとう、エスマルイート」
本当にビックリだよな。
まさか俺とクウヒが1位になるなんて。
というか、出場者の7割が途中棄権の障害物レースなんて、あっていいのか?
しかも、俺達はたまたま運が良かったけど、偽のゴールがあったらしい。
終わったと思ったら「ウソ」。
考えただけで、気持ちが萎えそうだ。
それにしても、障害物レース後にあったドッジボール。
球技は駄目だな。
身体強化していないはずなのに、どうしてボールが地面を抉るんだ?
子アリさんの後ろ脚が、ボールが当たって飛んだ時はビビったよ。
まぁ、すぐに救護班にヒールを掛けてもらって、元通り。
すぐに競技に戻っていたけど。
「今、思い出してもヒヤッとするな」
他の競技に比べて怪我が多かったよな。
いや、怪我の多さでは障害物レースが一番か。
「飲んでいるか?」
「んっ? 大丈夫、飲んでいる」
エスマルイートの声がいつもより高いな。
酔いが回ってきているんじゃないか?
えっ……酔い?
「エスマルイート?」
今回の運動会を期に、お互いを呼び捨てで呼ぶようになった者の名前を呼ぶ。
「んっ?」
表情には出ていないが、声と行動に酔っている事が窺える。
エスマルイートは、酒にかなり強い。
だからこんなに早く酔うはずがない。
まさかと思い、エスマルイートの飲んでいるコップを取り上げ、香りを確認する。
「やっぱり、魔界の酒だ」
「翔も飲め!」
ドンと置かれた、酒瓶。
ラベルを見てため息を吐く。
魔界の酒の中でもアルコール度数が高く、籠められた闇の魔力が多い「魔神も殺す」。
いったい誰がこの酒を魔界から持ってきたのか。
オアジュ魔神達は恐らく違うだろう。
彼等から話を聞いたが、魔界に戻れる状態ではない。
という事は、ここ最近魔界に忍び込んでいる仲間の誰かだな。
「主、大丈夫です。この世界には既に闇の魔力が行き渡っていますので、前の時のように魔力酔いは起こりません」
「そうか」
それならいいのか?
いや、問題はそこじゃない。
「リーダー。この酒を魔界でどうやって手に入れた? ちゃんとお金を払っているのか?」
「お金? いえ、払っていません。ですがその代わりにオウ魔神には、いろいろな情報や調査結果をお伝えしています」
オウか。
またお世話に……そうでもないのか?
リーダーは、情報や調査結果を渡していると言った。
つまり、ギブアンドテイクの関係か。
「それなら問題は無いか。まぁ、でも魔界での行動には気を付けろよ」
「はい」
んっ?
リーダーが期待を込めた目で見てくるんだけど、何かしたかな?
ちょっと、じわじわ近づかれると怖いんだけど?
「さすがです」
何が?
えっ、理由を言わずに行ってしまうのか?
「翔は名王だな」
えっ?
エスマルイートを見るが、彼は空を見上げていた。
「俺は……まだまだだな」
エスマルイートの言葉に首を傾げる。
何を言っているのか、全く理解出来ない。
そういえば「めいおう」と言っていたな。
どういう意味だ?
「おう」は「王」でいいのか?
「めい」が何を指すのか……めい……まさか「名王」?
すぐれた王という意味だよな。
俺が?
……名王では無いな。
となると「迷」か?
「俺は……」
なんだ?
言葉を止めたエスマルイートを見る。
彼の表情には、初めて見る悲しみが窺えた。
ただ、それは一瞬で消える。
そして俺を見て、ニヤッと笑う。
「翔は凄い」
「そうか」
「あぁ」
ぐっと、魔界の強い酒を呷るエスマルイート。
彼は、急に運動会に参加したいと言い出したらしい。
エスマルイートの護衛で一緒に来た獣人の騎士が、ダダビスに話していた。
彼の国で、何かあったみたいだな。
コップに入った酒を飲む。
いつものワインの味に、微かに笑みが浮かぶ。
「話ぐらいならいつでも聞く。それに手助けが欲しい時は言ってくれ。出来る範囲で助けるよ」
俺の言葉に、隣から微かに頷く気配を感じた。
獣人国は少し前に問題の者達の処理が終わったはず。
という事は、別の問題が出て来たという事かな?
王という立場は大変だな。
……やっぱり俺に務まると思えないんだよな。
「翔は運がいい」
それは、俺も思う。
「そうだな」
「優秀で信じられる者を傍に置くことが、どれだけ難しいか」
つまり、エスマルイートの周りには信じられる者が少ないという事か?
俺の周りはゴーレム達がいて、シュリやチャイもいつも近くにいてくれる。
仲間達はみんな、俺のために色々してくれて。
そうか……俺は、周りに恵まれているんだな。
分かっていた事なのに、今凄く実感した。
「第1騎士団団長ガルファ、副団長ミリラ。第2騎士団団長マルフォラ、第3騎士団の方達はここにいるので省きます。現宰相は信用するに値しませんが、補佐の1人エルマスは大丈夫です。私はエルマスこそ、次の宰相に向いていると思います」
エスマルイートが呆然とリーダーを見る。
そして、ハッとした表情をすると首を横に振った。
「いや、エルマスは信用できるかもしれないが、彼を宰相にするのは無理だ。彼は貴族ではないからな。俺も彼が宰相になってくれたら嬉しいんだが。下手な事をすると命に係わる」
「邪魔をするのは、問題を起こした現宰相の一族と取り巻きの一族達ですね。彼らを黙らせる情報がありますが、知りたいですか?」
リーダーとエスマルイートがジッと見つめ合う。
どこか緊張感が漂う2人。
「翔。彼を少しの間、借りてもいいだろうか?」
俺に確認を取る必要は無いんだが。
「リーダーはどうしたい?」
俺の言葉に、ぐっと拳を握るリーダー。
やる気だね。
「どうぞ。リーダー、エスマルイートのフォローを頼むな」
ポンとリーダーの頭を撫でる。
「ぐふっ」
えっ?
今リーダー、変な声を出さなかったか?
「大丈夫か?」
「もちろんです。エスマルイート王、私にお任せ下さい。邪魔する者を徹底的に排除しましょう!」
リーダーが凄くやる気だ。
大丈夫か?
まぁ、暴走はしないだろう。
エスマルイートとリーダーが、部屋に入って行くのを見送る。
有意義な話し合いが出来たらいいな。
「王か」
大変だな。
……俺には無理だな。
なんて言って、逃げる事は出来ないんだけどな。




