26.障害物レース。
「よーい」
バン。
どうして俺は、ここに立っているんだろう。
スタートラインとなっている場所を見て、ため息を吐く。
それにしても、隣に立つクウヒを見る。
「また、成長したんだな」
俺が眠っている間に、一気に成長したクウヒ。
なぜか、また成長している。
前は顔付きが大人になり、背が高くなった。
今度は筋肉に厚みが出て、かなり体格が良くなったようだ。
いいな、俺もこんな体形になりたいなぁ。
自分の腕を見る。
比べるのは止めよう。
空しくなるだけだ。
「飛びトカゲが、『第3成長期が来たんだろう』と言っていた」
第3成長期?
俺は子育てをした事が無い。
だから分からないんだけど、それは人にもあるのだろうか?
それとも獣人特有のもの?
「そんな成長期があるんだな。知らなかったよ」
「獣人には生まれた時、5、6歳の時、そして大人になる時と三段階になっているんだって」
つまり獣人特有のものか。
それにしても、クウヒの腕に触る。
硬い……いいなぁ。
「あっ。そろそろ順番ですね」
あぁ、とうとうきてしまった。
もう諦めるしかない。
それにしても、どうして障害物レースで、森から爆発音が聞こえるんだ?
さっきから気にしないようにしていたけど、おかしいよな。
俺、ちゃんと障害物レースがどういう物かリーダー達に説明したぞ?
ちょっと過酷なレースもあるけど、運動会の障害物レースは比較的簡単だって。
しかも、なぜか俺が絶対に出場する事になってたし。
俺は、出ないと言ったのに。
いや、最終的に了承したのは俺だけど。
だって、子天使のモモとスミレに両手で掴まれてお願いされたから……つい、頷いてしまった。
「あっ、凄い」
クウヒの言葉に、森に視線を向ける。
おぉ~、見事な火柱。
……俺が出場するのって生死を賭けた障害物レースだっけ?
「主、行きましょう」
あぁ、ついに俺達の番になってしまった。
クウヒの為にも、無様な事は出来ないよな。
……頑張ろう。
「次、行きますよ~。頑張って下さいよ!」
応援が憎い。
俺とクウヒはチームだから、先頭はクウヒに任せよう。
敵チームは誰だろう?
ギルスとカフィレットのチームか。
2人とも、クウヒより体格がいいんだな。
……負けるのは、凄く嫌だ。
「よーい」
バン。
音と同時に大地を蹴る。
うん、やるだけの事はやろう。
魔法の使用は駄目なので、身体強化は出来ない。
でも、この世界に来た俺は、なぜか前の世界ではありえない身体能力を持っているんだよな。
だから、クウヒに置いて行かれないように走る事は出来る。
「罠がある!」
クウヒが叫ぶと同時に右に曲がる。
それに合わせるように方向を変え、クウヒが指した方を見る。
確かに、何かの仕掛けがあるみたいだ。
ただ、一瞬で通り過ぎたため、それがどんな仕掛けだったのかは分からないが。
右に曲がったので、今度は左に曲がり進む方向を修正する。
走りながら周りを見渡す。
探知の魔法は使えないので、しっかりと周りを見て行かないと。
「色々な罠が仕掛けてあるな」
俺の言葉に、クウヒが不貞腐れた表情を見せる。
「どんな罠があるのか気になるよぉ! ちょっとだけ? いや、駄目だ。我慢、我慢」
……自ら罠に嵌っていきそうな勢いだな。
駄目だぞ。
さっき見ただろう?
爆発や火柱を。
カチン。
やばい!
「「避けろ!」」
クウヒと俺は、同時に叫ぶと左右に飛んだ。
グサグサ。
不穏な音が聞こえた方へ、視線を向ける。
視線の先には、地面に突き刺さった10本の細い棒が見えた。
「まじ?」
俺達が立っていた場所に、細い棒が突き刺さっているんだけど?
こういうのって、少しずらして突き刺すものでは無いのか?
「面白いですね」
クウヒの言葉に顔が引きつる。
「ははっ」
本当に楽しそうなので、水を差すのも悪いよな。
うん、こういう時は笑って誤魔化そう。
「主、行きましょう!」
「そうだな」
さっきよりスピードを上げたクウヒの後を追う。
んっ?
ギルスたちも罠に掛かったみたいだな。
今の叫び声は、間違いなくカフィレットのものだ。
「主、俺達が先行みたいだ」
確かにカフィレットの声は後ろから聞こえた。
このままいけば、勝てるかな?
ヒュン。
「伏せろ」
クウヒの言葉に、とっさに地面に倒れ込む。
倒れ込んだ上を、もの凄いスピードで何かが通り過ぎた。
「ぎりぎりだったな。クウヒ、ありがとう。助かった」
俺の言葉に嬉しそうに笑うクウヒ。
笑うと、幼い時の表情に戻るよな。
「クウヒ。今、罠が作動する音が聞こえたか?」
「いや、聞こえなかった」
やっぱり。
音が鳴らない罠は、本当に止めて欲しい。
「あっ! 主、あれっ!」
クウヒが指した方を見る。
そこには黒い箱があり、箱の中央から光が出ているのが分かった。
まさか、赤外線センサーみたいな物か?
箱から出ている光に手を当てるように動かす。
ヒュン。
……赤外線センサーで間違いないな。
これだと音はしないな。
うん。
はぁ、罠の性能を上げないでくれ。
「あの黒い箱、ここだけかな?」
「ん~、あっちにもある。あと、もう少し先にもあるみたいだ」
クウヒが見つけた黒い箱は、全部で6個。
箱の穴が向いている方向を確認しながら、匍匐前進で前へ進む。
初めて匍匐前進に挑戦するけど、これ……疲れる。
それに思ったより前に進まない。
「この辺りまで来れば、あの黒い箱は無いみたいだ」
クウヒの言葉に頷き立ち上がる。
全身に就いた土と葉っぱを掃いながら、周りを見る。
大丈夫だな。
「こっちみたいだ」
クウヒが、看板を見て走りだすのを止める。
「主?」
「ゴールはあちら」という看板を見る。
看板が指している方を見て首を傾げる。
「本当にあっちで大丈夫か?」
罠を避けるために、右へ行ったり左へ行ったり。
なので、正直ゴールの場所が分からない。
でも、今までゴールを指すような看板は1つも無かった。
なのに、ここにきてゴールの場所を教える看板?
「疑い出したらキリがないんだけどな。でも、あの看板は罠のような気がしてしょうがないんだ」
「だったらどっちへ?」
クウヒの言葉に、ゆっくり深呼吸して周りを見る。
看板以外には、何も無いか。
空を見る。
そこには靄が掛かっている。
きっと雲の動きから、ゴールの方向を分からせないためだろう。
なんという手の込みようだろう。
ムカつく!
「主、あっちに行こう」
看板の指す方から少し左にずれた方角。
「何かあるのか?」
俺の質問に困った表情をするクウヒ。
「何となくなんだけど。気になって」
何となくか。
ここで立っていても答えはでない。
なら、試してみるか。
「行こう」
クウヒは頷くと走りだす。
それに遅れを取らないように足に力を籠めた。
しばらく走るが、何も起こらない。
この方角では無かったのか?
あの看板は、罠ではなくちゃんと道を示した物だったのか?
うわ~、不安になって来た。
あれ?
少し先に見えるあれは何だろう?
葉っぱに隠れていてよく見えないけど……。
「看板は罠じゃ――」
黒い箱!
しかも、並んでいる!
「クウヒ! 前に見える岩まで高く飛べ!」
「えっ!」
隣でクウヒが戸惑っているけど、今は俺も焦ってるからごめん。
とりあえず、ぐっと膝を曲げるとそのまま少し先にある岩までジャンプした。
しまった、体勢が崩れた。
ズザー。
「うおっ」
着地した時に、足が少し滑ったが止まれた。
良かったぁ。
「焦った~」
隣を見ると、クウヒが胸元を押さえていた。
どうやら無事に、ここまで来られたようだ。
「主、一体何があったんですか?」
クウヒの言葉に、先ほど見つけた黒い箱を指す。
クウヒはその箱を見ると、肩を落とした。
「悪いな。もっと早く見つけていたら止まれたんだけど、大丈夫か?」
かなりの速さで走っていたため、見つけた罠が直前過ぎて止まれなかった。
止まろうとしたら、罠に引っかかっていた可能性が高い。
「大丈夫。それにしても黒い箱が……沢山並んでいるな」
クウヒの言葉に頷く。
葉っぱの影から見た時は、5、6個だと思ったけど、どうやら10個近くの黒い箱が並んでいるようだ。
いったいどんな仕掛けが動くのか、怖い、怖い。
「主、こっちで正解みたいだ。あれがゴールだと思う」
クウヒの指す方を見ると、ゴールテープが見えた。
良かったぁ。
これで、この命を掛けた障害物レースを終われる。
クウヒとゴールテープに向かって行く。
「お疲れ様ですよ」
終わった~。
ドバーン。
んっ?
あっ、火柱が上がってる。
ギルスとカフィレットは大丈夫かな?
いつも読んで頂きありがとうございます。
1回、更新を休みます、申し訳ありません。
次回の更新は、10月28日です。
どうぞ、よろしくお願いいたします。
ほのぼのる500




