25.白組、赤組。
「よーい」
バン。
森に鳴り響くピストルの音。
ただし、音だけでピストル本体は無い。
ナインティーンが作った道具から出る音だ。
ところであのスタートの時に鳴らすピストルの正式名称は何だろう?
興味が無かったから知らないけど、きっとピストルとは言わないんだろうな。
いや、もしかしたらスタートのピストルとか、そんな名前かもしれない。
ピストルの音が鳴ると同時に走り出す子供達。
子供達の額には、赤と白のハチマキ。
まさか、この世界でこの風景を見る事になるとは。
「運動会かぁ」
就職してからは、縁の無い学校行事だったよな。
いや、最後に行ったのは妹の運動会だったような。
……そうだ、たまたま仕事が休みの日だったから、妹の通う中学まで見に行ったんだ。
あとで、妹には無茶苦茶怒られたけど。
数日前に、子供達からお願いをされた。
「学校と言う場所では、1年に1度皆で暴れ回る日があるので私達もやりたい」と。
最初、何を言っているのか分からなかった。
全校生徒で暴れ回る行事など、学校には無い。
ヒカルに話を聞くと、「同じ事をして順位を競う遊びをする」と教えてくれた。
その言葉で思いついたのが、運動会。
子供達に、運動会で行う競技について話をし、本当にやりたいのか確認。
やりたいとの満場一致で、即決定。
皆のやる気を見て、ちょっと不安になった俺は「魔法は一切使わない」というルールを設けた。
これで、少しは普通の運動会になるだろう。
と思った俺が甘かった。
魔法を使わなくても、皆の身体能力は凄かったんだね。
「よーい」
バン。
目の前を凄いスピードで通り過ぎる桜とウサ。
その後を追いかけるように獣人の騎士ボスアが駆けて行く。
熊の獣人が思った以上に速い事にビックリだ。
キミールは、思ったより遅いな。
と言うか、身体強化をせずに出せるスピードの限界はどこなんだろう?
「次は狩り物競争ですよ」
農業隊のテンの言葉に、フェンリル達とダイアウルフ達が動き出す。
どうやら狩り物競争はフェンリルとダイアウルフが出場するみたいだ。
赤と白のハチマキをしたフェンリル達とダイアウルフ達。
見ているだけなら、可愛い。
ただし俺は「狩り物」と言う言葉にビビっているけどな。
「今の1000m走の結果は、白組34ポイント、赤組31ポイントで白組の勝ちですよ。皆さま、お疲れ様でしたよ」
100m走では短すぎるという事で1000m走になったけど、誰も疲れた様子を見せないのは流石だ。
ちなみに、今のポイントを足すと白組が逆転した。
とはいえ、ポイント差はたったの3ポイント。
すぐに逆転される差だ。
「なかなかいい勝負だね」
隣に座るエスマルイート王に苦笑する。
なんで俺、エントール国の王と一緒に運動会を見ているんだろう。
本当、不思議でならない。
「そうですね」
「綱引きだっけ? あれの勝負がつかなかったのが残念だね」
「ははっ。そうですね」
1つ前の競技は綱引きだった。
太い綱が用意されてたけど、切れた。
そんな事もあるかと予備の綱が用意されていた。
すぐに新しい綱が出て来て、綱引き再開。
が、それも切れてしまった。
予備の綱は4本。
全ての綱が切れたので、残念な事に引き分けとなった。
次の競技、狩り物競争。
最初、競技の一覧を見た時に「あれ?」と思った。
「借り物競争」が、「狩り物競争」となっていたから。
すぐに傍にいたリーダーに間違っている事を言った。
が、「合ってます」と言われた。
そう、合ってます。
「狩り」という言葉には、魔物を狩るイメージがある。
なので、運動会には似つかわしくない言葉だと思う。
いったい何が始まるのか、不安だ。
「ではルールを説明しますよ。赤組と白組から各2名選出。制限時間内に指定された魔物を生きたまま怪我もさせず連れてくる事ですよ。もちろん魔法は一切使っちゃ駄目ですよ」
んっ?
怪我をさせず生きたまま、指定された魔物を連れて来る?
「早く広場に書かれた円の中に入れた方が勝ちですよ。あっ、制限時間は5分ですよ!」
まぁ、怪我をさせないようにするなら、狩りと書いてあったけど安心かな。
ただ、どんな魔物が指定されるのかが問題だよな。
凶暴な魔物だと、怪我をさせずに連れてくる事は無理だろう。
「では、よーい」
バン。
箱を持った一つ目に集まる、フェンリル2匹とダイアウルフ2匹。
そこで紙を1枚選ぶと、連れてくる魔物が決まるのか。
借り物競争の要素が、少し入っているんだな。
まぁ、連れてくるのは魔物だけど。
「面白いゲームですね」
エスマルイート王が興味津々な表情で、森に駆けて行ったフェンリル達を見る。
面白いか。
俺は、不安でドキドキしてるけど。
「実況入ります!」
実況?
「白組1番はフェンリル、選んだのはカポル、2番はダイアウルフ、選んだのはミッカです。どちらも小型魔物。逃げ足が速いので見つけるのが大変ですが、無事に連れてくることが出来るでしょうか?」
小型魔物カポル? ミッカ?
そんな魔物がいる事を知らなかったな。
と言うか、小型の魔物がいる事にビックリだ。
「赤組1番はダイアウルフ、選んだのはミッカ、2番はフェンリルで、選んだのはオルー。オルーは大人しい魔物ですので、有利なのは赤組2番か?」
魔物にも大人しいのがいるのか。
大型の魔物はどれも凶暴だから、想像できないな。
「白組2番ダイアウルフは、ミッカを見つけたがあっという間に逃げられた~。怪我を負わせたら負けなので、どうしていいのか戸惑っているみたいです。あっ、白組1番フェンリルはなぜかカポルと並走している。これでは連れてこられない」
逃げられたり並走したり。
弱い魔物だから扱いに慣れていないのか?
「赤組1番ダイアウルフもミッカを見つけたが……パニックになったミッカに脚をすり抜けられ固まった!」
固まった?
強い魔物には強気で行くダイアウルフの弱点が、小型の魔物だとは。
まぁ、怪我をさせないという条件だからだろうけど。
「そろそろ5分。どの選手が狩りを成功させるのか! あっ、赤組2番フェンリルがオルーを背に乗せ戻って行きます。背に乗っているオルーはピクリとも動きませんが、大丈夫でしょうか? では実況は終了します。テン、あとは宜しく」
テンって、農業隊の1体だな。
語尾に「よ」を付けて話すから、覚えてる。
あっ、フェンリルの姿が見えた。
背に、白いものが見えるな。
あれがオルーと言う小型の魔物か。
……全く動かないんだけど、死んでないよな?
ていうか、小型?
思ったより大きいな。
まぁ、この世界の魔物は巨大だから小型といってもそれほど小さくは無いのかも。
「赤組2番のフェンリルが戻って来たよ。連れて来る魔物はオルー……気を失っているけど怪我もないようなのでセーフだよ」
気を失っていてもいいのか。
ピー。
「5分になったから、終わりだよ~。残りは失格だよ!」
赤組のフェンリルだけが戻って来たかぁ。
選んだ魔物が良かったんだろうな。
次々と行われる狩り物競争。
最終的に、オルー以外の小型魔物を見る事は無かった。
優しく包み込んで連れて来るという行為は、フェンリルにもダイアウルフにも難しいみたいだ。
まぁ、姿を見たら逃げるからそれ以前の問題か。
「次の競技は、二人三脚ですよ」
あっ、コアとチャイで出るんだ。
というか、前脚だけじゃなく後ろ脚まで結んで走れるのか?
絶対に無理だと思うんだけど。
「よーい」
バン。
「あっ」
コアとチャイが目の前を駆けて行くのを見送る。
あの2匹、ずっと一緒にいるだけはあるな。
他の子達がのろのろ走る中、颯爽とゴールした。
コアもチャイも満足そうだな。
「はっ?」
なんでスタートの位置にエスマルイート王がいるんだ?
隣を見るが、当然いない。
あぁ、ペアになったダダビスの顔が引きつっている。
頑張れ?
「えっ?」
オアジュ魔神と妻のマカーシャも出るの?
なんだろう。
エスマルイート王とオアジュ魔神が凄くやる気だな。
「まぁ、いいか。楽しそうだし」
んっ?
リーダー、ハチマキを渡しても俺は出ないよ。
絶対に出ないからな!




