22.いつの間に……。
「後悔先に立たず」。
この言葉は、何かしてしまった後で悔やんでも、もうすでに取り返しがつかないことを意味する。
「ははっ、マジか」
まさか、あの諺を心の底から実感する時が来るなんて思わなかった。
「主だ~!」
翼の言葉に、「違う!」と叫びたいが、どう見ても俺だ。
疑いようがないぐらい、そっくりだ。
「凄いね。大きい」
本当に、大きいな。
まさか、こんな石像を三つ目達が作るとは思わなかったよ。
分かっていたら、絶対にこの場所の使い道を相談された時に「好きにしていいよ」なんて言わなかった。
絶対に、絶対に言わなかった!
「主、どうですか?」
三つ目の言葉に口元が引きつる。
既に石像は完成している。
なんと言っても、今日はお披露目だ。
つまり、いまさら何を言っても手遅れ。
「ははっ、凄いな」
本当に凄いよ。
まさか、地下神殿から繋がる古代遺跡のあった空間に、俺の石像を作るなんて想像もしなかった。
そういえば、ここには崩れた古代遺跡があったはずだけど、あった痕跡すらないな。
まぁ、それはいい。
見習い達の残した物は、とっとと捨てるに限る。
それにしても、この空間はこんなに天井が高かったかな?
石像を見上げる。
座った状態で片脚を立て、真剣な表情をしている大きな俺。
顔の角度は下から見やすいように、少し下を向いている。
そのせいで、ばっちり顔の表情が見られてしまう。
「………………これっ、恥ずかしい」
両手で顔を隠す。
落ち着こう。
うん、今の俺には落ち着くことが大事だ。
とりあえず、目の前の存在を忘れよう。
いや、無理だろう。
「凄いですね。我々の国に置く『森の神』も楽しみです」
「これと引けを取らない物を、必ず作ります」
「お願いします」
「…………んっ?」
獣人のダダビスと、三つ目の1体の会話に首を傾げる。
今、何か不穏な言葉を聞いたような気がする。
えっと、「我々の国に置く森の神」?
森の神と呼ばれている存在は誰だ?
俺だ。
つまり、獣人国に置く俺の……石像?
待て、それは許可を出していない。
「三つ――」
「今、国にある『森の神』はどれも主に似ていません。だから、三つ目殿が作った『本物の森の神』が届く事を、皆楽しみにしています」
あっ、獣人国には既に俺に似せた何かがあるのか。
そしてそれが似ていないから、三つ目に作ってもらうと。
これは獣人国にある、俺の像みたいな物を排除してもらった方がいいのか?
「任せて下さい。俺も『あれ』を見た時は、あまりにも似ていないので驚きました。間違った姿を覚えてしまうのも、『本物の森の神』の姿を知らないのも、問題です」
そうかな?
それほど問題には、ならないような気がするけど。
「姿が分からなければ『自称森の神』が現れて、好き勝手する事も考えられますから」
確かに。
姿が分からなかったら、『自称森の神』が現れてもそれが偽物だと気付けない。
それを防ぐためにも、本当の俺の姿を知らせておく必要があるのか。
「ですので、急いで『本物の森の神』を作りエントール国に届けますね」
そんな事を言われたら、止める事が出来ない!
あれ?
紙に描かれた「森の神」は出回っているんじゃなかったか?
それなら、わざわざ石像にしなくてもいいような気がする。
「三つ目、えっとごめん。名前は何だっけ?」
一つ目のリーダーから、ゴーレム達全員に名前がついたと聞いた。
つまり三つ目と呼ぶのは失礼だよな。
ただ、三つ目達はいまだに区別がつかないんだけど。
「主。私は、このちゃんです」
「このちゃん?」
三つ目には、あんちゃんという名前の子がいたよな?
同じ姿だから、似た名前にしたのか?
どうも俺の周りには、残念な名前が増えていく。
俺のせいなのかな?
「はい、そうです」
あっ、嬉しそうに声が弾んだ。
あんちゃんとこのちゃんの名前を、言い間違えないように気を付けよう。
全く、自信はないけど。
「石像を作る必要はあるのか? 紙に描いた俺の姿が出回っているよな?」
「実物大の森の神が必要です」
「えっ、実物大?」
「はい。主は、少し……」
言い淀むこのちゃんに苦笑する。
あぁ、うん。
この世界の人間より背が低いよな。
「見た目が……細く小さいので、実物大の姿を知ってもらう必要があります」
傷つかないように言葉を探してくれたんだろうけど、そこまで困らなくても。
というか低いだけでなく細いとも言われてしまった。
自分の腕を見る。
細いかな?
少し離れた所にいる太陽の腕を見る。
……小さな事は、気にしない方がいい。
「そうか」
今ので、気が逸れたな。
もう、いいか。
エントール国に送る石像は、既に作り始めているんだろうし。
諦めが肝心だ。
無事に石像のお披露目が終り、家に戻る。
「疲れた」
朝からゴーレム達が盛り上がっていたから不思議だったけど、まさか「あれ」だったとは。
……忘れよう。
「主、少しよろしいですか?」
「リーダーか? どうした?」
そういえば、リーダーのテンションが一番凄かったよな。
あの時に、何かを感じなければならなかったな。
「主の石像がある場所ですが古代遺跡という名前では合いません。変更する予定ですが、希望はありますか?」
名前か。
まぁ、崩れた古代遺跡が消えた以上は、変更が当然か。
でも、希望と言われても何も思いつかないな?
任せてしまおうか、駄目だ。
任せたら、凄い名前を付けられそうだ。
「そうだな」
仰々しく無くて、重く感じない名前。
やばい。
本当に何も思いつかない。
どうすればいいんだ?
神だから、寺?
違うな、神社……待て。
森の神と言われ過ぎておかしくなってるぞ。
冷静に!
「やはり名前は、主の神々しさが伝わるようにしたいです」
リーダーの言葉に、首を横に振る。
「いや、シンプルにいこう」
ここは止めないと。
凄く仰々しい名前が付きそうだ。
いろいろ手遅れだけど、名前を聞くたびに羞恥に晒されたくない。
「シンプルですか?」
そんな残念そうな声を出しても、譲らないからな。
「そう、絶対にシンプルな名前がいいと思う」
俺の言葉に首を傾げるリーダー。
納得してない様子に、小さく息を吐く。
お願いだから、納得して欲しい。
「分かりました。確かにシンプルな方がいい気がします」
そうなのか?
あっ、下手な事を言わないように黙っておこう。
「リーダー。名前なんだけど、時間が必要だ」
何も思い浮かばないので、考える時間が欲しい。
「そうですね。あの神々しい森の神に相応しい名前は、そう簡単に決まる訳がありません」
あはははっ。
神々しい?
すっごく恥ずかしい思いしかしなかったけどな。
でも良かった。
今すぐ名前を決める必要が無くなって。
これで、じっくり考えよう。
「なるべく、ダメージを受けない名前を考えないと」




