17.想像を超える。
―魔界にいるオウ魔神視点―
荒れ狂う魔神力を感じ読んでいた書類から顔を上げ、窓の外を見る。
「またか」
魔界のどこかで、魔神達が争っているのだろう。
荒々しい魔神力がぶつかり合っている。
それに大きなため息を吐くと、書類に視線を戻す。
全く、無駄な事をする。
魔界王が弱くなりだしてから、随分と時がたった。
俺が魔界王の衰えに気付いてから、何年目だ?
……100年ぐらいか?
まぁ、よくここまでバレずに済んだものだ。
だが、そろそろ終わりだろう。
魔界王は弱くなり過ぎた。
窓の外に、白い光が見えたような気がした。
視線を向けると、白い光が暗闇に広がったのが見えた。
「あぁ、魔神が死んだんだな」
魔神は、面白い死に方をする。
弱って命が消えそうになると、白い光に包まれる。
そしてその白い光は、ギュッと中心に集まると爆発を起こす。
魔神の体は爆発と共に消滅し、後には何も残さない。
それが魔神の死だ。
そして、神も同じ死に方をする。
ただ、神は黒い光に包まれて爆発するが。
「笑えるよな。魔神が白い光で神が黒い光なんだから」
窓の外で、また白い光が見えた。
それにため息を吐くと、カーテンを閉めた。
見るだけ無駄だ。
机の上にある、新しい書類に手を伸ばす。
書類には、呪いの世界が落ち着いたと書かれてある。
「まさかこんなに早く、呪いの世界が落ち着くとはな。俺が考えているより、彼の力が安定しているという事か」
少し前に呪いの世界が生まれた。
いや、違うな。
呪いの世界は既にそこにあった物だ。
ただ、神も魔神もその存在を認める事が無かったから、表に出てこられなかっただけ。
しかし、ある人物がきっかけとなり神と魔神がその存在を認めた。
そして、とうとう呪いの世界が姿を現した。
「デカいよな」
もう一枚の書類に、目を通す。
これには、呪いの世界を調査した結果が書かれている。
それによれば、呪いの世界の規模は神の世界や魔界よりもはるかに大きいと分かる。
まさか、ここまで呪いの世界が成長しているとは、思わなかった。
「こんなに巨大な世界になったのは、神が見境なく呪いを生み出したせいだろうな」
というか、ぎりぎり間に合った感じだよな。
存在を認めない状態で成長を続ければ、いずれ重大な問題が起こったはずだ。
巨大な力を、いつまでも隠し通す事など出来るわけがないのだから。
「ん~、やっぱり気になるな。呪いの力をここまで変えてしまうとは」
書類には、彼がいる世界の事も書かれている。
読む限り、平和な世界のようだ。
呪いの世界なのに、平和。
さすがにちょっと疑った。
まぁ、彼らが嘘を吐く事は無いと思うので、すぐに信じたけど。
「やっぱり彼をしらべ――」
グサッ。
「えっ?」
書類に突き刺さったナイフ。
視線を上げると、ナイフを持った存在と視線があう。
「しないから! 絶対にしないから! それを、仕舞って!」
机の向こう側にいる、ゴーレムに訴える。
「すみません。今、とても不快な言葉を聞いた気がして」
「気のせいだから、うん、間違いなく気のせい!」
神として生まれ、そして今は魔神としてそれなりの力もある。
おそらく上位魔神になれる力はあると思う。
なのに、なぜかこの目の前の存在を怖く感じる。
ずっと、そんな存在はいなかったのに。
「そうですよね?」
ゴーレムの言葉に、何度も頷く。
長く生きると色々経験するなぁ。
最近は特に!
「で、呪国はもう問題ないですか?」
じゅこく?
「呪国という名前にしたのか?」
「長いと面倒くさいではないですか? だから呪国、神国、魔界です」
あっ、神の世界まで名前を付けたんだ。
ずっと神達は、それを拒否し続けているんだけどな。
「偉大な神々の世界に、名前など陳腐なものはいらない」とか、なんとか。
それを俺は書類でゴーレム達に報告したはず……だよな?
「神国?」
「えぇ、『神々のいる世界』とか長ったらしい名前。奴らには不要でしょう。神国でも譲歩したんですよ。屑国でもいいという意見が多数だったのですが、主は反対するだろうと仕方なく神国にしてあげました」
あっ、このゴーレムはサブリーダーだ。
リーダーは、奴らとはたぶん言わない……と、思う。
まだ浅い関係だけど、なんとなくそんな気がする。
凄く丁寧に毒を吐くのがリーダーで、少し言葉が乱れるのがサブリーダーだ。
「そうか。あ~、それを神々に宣言は、したのか?」
もし、宣言したら一気に戦闘になるかも。
「我々は馬鹿ではありません。今は静かに、準備中です」
何を?とは聞かない。
うん、巻き込まれることが目に見えているからな。
あれ?
目の前の存在に目を向ける。
上から下から、全身を見る。
どう見ても、ゴーレムだ。
そうゴーレムのサブリーダーが目の前にいる。
まぁ、当然だ。
いや、当然ではない。
今までは、魔道具を通して会っていた。
なぜなら、ゴーレム達は魔界に入れないから。
もし入れたとしても、すぐに魔神達に見つかるはずだから。
そうなったら、魔界にいる魔神達は暴走する可能性がある。
「あれ?」
今まで活躍していた魔道具は……机の上にある。
そして起動はしていない。
つまり、ゴーレムの本体が魔界にある。
「どうやってここに?」
慌てて椅子から立ち上がり、カーテンを開ける。
もしかしたら、魔神達が……いない。
「大丈夫です。オアジュ魔神に協力してもらって――」
「彼が君をこの世界に入れたのか?」
なんて危険な事をしたんだ。
「違います」
えっ、違う?
「オアジュ魔神に協力してもらって、魔神力と闇の魔力の流れを学んだんです」
「……流れ?」
「はい。この世界にバレずに入るには、神力と光の魔力を完全に抑え込み、魔神力と闇の魔力を体に充満させる必要があります。でも、それだけでは魔神達に異物と思われる可能性があったので、オアジュ魔神の力の流れをそのまま学んで活用したんです。その結果、魔界に入り自由に動き回れるようになりました」
目の前のサブリーダーを見る。
言われてみれば、確かに魔神力と闇の魔力しか感じない。
しかも、全く違和感がない力の流れだ。
これだったら、姿さえ見せなければ気付かれないだろう。
「はぁ、なんという無謀な事をするんだ」
「いえ、楽しかったですよ。力を自由自在に扱うのは」
「ははっ、普通は力を自由自在には扱えないからな」
いや、ゴーレムは内から力が生まれるわけでは無い。
彼から力を受け取って動いている。
となれば、内にある力だけを制御すればいい。
もしかしたら、思っているより簡単に出来るかもしれないな。
まぁ、ここまで自由に動けるゴーレムを誕生させる必要があるけど。
「普通? 主は簡単に必要な力だけを抜きだして使ってますよ?」
……えっ?
「彼の力は混ざりだしたと聞いたけど」
「はい、主の力は生まれた時から混ざり合っています」
「それなのに、そこから1つだけの力を抜き出せるのか?」
「はい。簡単にしてましたよ」
……簡単か。
ははっ、簡単ねぇ。
「想像した以上の力みたいだな」
窓の外に白い光が見えた。
まだ、魔神達同士で殺し合っているのだろう。
その白い光を見て、首を横に振る。
目の前の事だけに気を取られているから、隣に誕生した巨大な力に気付かない。
愚かだ。




