104.温かい?
小さい一つ目の動きを見る限り、問題がなさそうでホッとする。
「それにしても飛べるとはな」
そう。
のろくろちゃんの時のように、小さい一つ目は飛べた。
最初に見た時は、ちょっと驚いた。
そんな機能を付けた記憶は無かったから。
でもまぁ、特に問題はなさそうなので気にしない。
そんな些細な事を気にしていたら、悩みが増えるだけだ。
「見て、見て~」
小さい一つ目が、のろくろちゃん達の周りをくるくると飛び回る。
それに反応したのか、のろくろちゃん達もくるくる飛び回りだした。
なんとも、微笑ましい光景に笑みが浮かぶ。
「あれ? 黒い煙みたいな物が出てない?」
月が不思議そうに、のろくろちゃんの周りに見える煙を指す。
あれは、たぶん呪いだな。
なぜ、呪いがのろくろちゃん達から出て来たんだ?
「のろくろちゃん、黒い煙が出ているよ」
桜の言葉に、ぴたりと止まるのろくろちゃん達。
そして、なぜかちょっと焦っている。
どうしたんだろう?
「あっ、小さい一つ目も透明だったのが黒くなっている」
えっ?
太陽の言葉に、慌てて小さい一つ目を見る。
確かに透明だった体に変化が起きて、今は透明だけど黒い体をしていた。
「体に違和感は無いか?」
小さい一つ目に聞くと、首を縦に振る。
問題は無いのか。
おそらく、小さい一つ目の中にいるのろくろちゃんの影響を受けたんだろうな。
「少しでも違和感を覚えたら、教えてくれ」
「分かった」
頷く小さい一つ目の頭を、指でぽんぽんと撫でる。
やっぱりちょっと小さすぎると思う。
壊れないと思うけど、触れるのに少し躊躇してしまう。
「おぉ、この煙は呪いがすっごく濃いんだ」
月が、のろくろちゃんから出た煙に触ったのだろう。
真っ黒になった腕を、俺に見せてくれた。
いや見せるのはいいから、浄化をしてくれ!
「月。急いで浄化を――」
「ん~、でもこれ、これまでの呪いとちょっと違うよね?」
紅葉も黒い煙に触れたのだろう。
両手が肘の辺りから真っ黒になっている。
その状態で首を傾げる紅葉と、黒くなった部分を真剣に見ている月にため息を吐く。
どうして、そのままで平気なんだ?
「2人とも、大丈夫なのか?」
呪いに触れると、不快感や痛みに襲われる。
結界を解いて呪いに触れた事があるが、結構な痛みだった。
だから2人の余裕な様子に、少し疑問が浮かぶ。
「この呪い……温かい?」
月のちょっと迷うような言葉に、紅葉も迷いながら頷いている。
温かい?
「痛みや不快感は?」
「まったく無いな」
どうしてコアまで普通に呪いに触れるんだ。
と言うか、待て待て飛びトカゲ達も触れようとするな。
何かあったらどうするんだ。
「あっ、本当に温かいような気がするな」
黒い影に触れると、触れた場所周辺は黒く変化するが痛みや不快感は無い。
そして微かにだが、温かみを感じるような気がする。
「呪いだよな」
「呪いで間違いないよ」
雷と翼も、のろくろちゃんから出た煙に触れて首を傾げている。
「もう少し警戒をした方が良いって、のろくろちゃんが言っているよ」
「「「「「えっ?」」」」」
小さい一つ目の言葉に、体の一部を黒くした者達の声が重なる。
「……俺もだな」
手首から指先に掛けて黒くなっている右手を見て苦笑する。
仲間達が黒い煙に触れるのを見て心配したくせに、迷いなく触れてしまった。
ちょっと楽しそうに見えたなんて……絶対に小さい一つ目にばれない様にしないと。
「浄化」
黒くなっていた手がスーッと元に戻っていく。
動かしても違和感を覚えないので問題ないだろう。
「「「「「浄化」」」」」
子供達の声に視線を向けると、黒かった腕や手が元に戻っていた。
様子を見る限り、完璧に浄化が出来たようだ。
知らない間に、浄化の能力が上がっている気がする。
それを言うなら、仲間達もか。
小さい一つ目を見ると、のろくろちゃん達と一緒に、子供達や仲間達の間を飛び回っている。
その様子に首を傾げる。
どこか、心配そうに皆を見ているような気がする。
「呪いなら問題なく浄化出来たから、大丈夫だぞ」
彼らが心配する原因で思いつくのは呪いだ。
月が、「呪いが濃い」と言っていたからな。
「良かった。呪いが何か問題を起こしたのかと思った」
小さい一つ目の言葉に、少し驚いてしまう。
小さい一つ目ものろくろちゃん達も、これまで苦しんできた側だ。
この世界の為に被害にあった者達もいるだろう。
それなのに、俺達を心配してくれる。
「皆は優しいんだな」
「えっ?」
あぁ、だから。
たぶん呪いを温かく感じたのは、この子達が優しいからだ。
「呪いで確かに黒く変色したけど、君達から出ている呪いが俺や子供達、仲間達を傷つける事は無かったよ。それよりも、呪いが何処か温かかったんだ」
俺の言葉をじっと聞く、小さい一つ目とのろくろちゃん達。
「俺達に優しくしてくれて、ありがとう」
「…………」
あれ?
小さい一つ目ものろくろちゃん達も動きが止まってしまった。
何か不味い事でも言ったかな?
お礼は駄目だったとか?
「えっと、大――」
「うっひゃぁ」
えっ?
ボタッ。
目の前にいたのろくろちゃんの姿が一瞬で消え、飛んでいた小さい一つ目が落下した。
慌てて、拾い上げるけど呪いの気配が無くなっていた。
「中から出ていったのか?」
もう一度、のろくろちゃん達を探すために周りを見回すが、やはりどこにもその姿は無い。
「何があったのだ?」
慌てた様子のコアが、俺の傍に来る。
「いや……何があったんだろうな?」
俺のせいか?
たぶん、そうなんだろうな。
でも、何が駄目だったんだ?
それに、最後のあの叫びは何だったんだ?
「消えちゃったね」
桜の残念そうな声に、申し訳なく感じる。
「ごめんな。何か気に障ったのかもしれない」
そんなつもりは無かったんだけど。
「大丈夫だよ。だって、最後のあの声は怒っている声でも嫌がっている声でもなかったから」
風太の言葉に、子供達が頷く。
確かに、そうだな。
どちらかと言えば……パニック?
「気持ちが落ち着いたら、また来るよ。桜とは約束もしているんだし」
光の言葉に、首を傾げる。
桜と約束?
「そうだった! のろくろちゃんと私で力を合わせて、ウサから1勝をもぎ取るんだった!」
拳を上げる桜を、ウサがニコリと笑う。
「出来るならどうぞ。いつでも受けて立つから」
たしか、ウサはそうとう強くなっていたよな。
えっ、そのウサに桜は勝ちたいの?
「まぁ、怪我をしない程度に、ほどほどに頑張って」
止めても無駄な事は、これまでの経験上知っているからな。
怪我だけ気を付けてくれたらいいよ。
「主、大丈夫です」
ウサの力強い言葉に、頷く。
それなら――。
「ちょっとした怪我ぐらいなら、戦っていても治せますから」
「うん」
ウサの言葉に、力強く頷く桜。
思っていた答えと、全然違う!
それに、怪我する前提で話している!
「バッチュ」
「はい」
傍にいた子供達の保護者的存在、バッチュを見る。
「大怪我をしないように、注意してくれ」
「もちろんです」
ん~、バッチュに子供達の面倒を見てもらったのは失敗だったかな?
でも、子供達もバッチュも楽しそうだった。
そもそも気付いたら、バッチュは今の保護者的立場だったからな。
「主、お願い」
紅葉がギュッと俺の手を握る。
彼女が俺にお願いなんて、珍しいな。
「どうしたんだ?」
「私の相棒になったのろくろちゃんにも、体を作って欲しいの」
相棒?
「駄目?」
「いや、いいよ」
手の中の小さい一つ目を見る。
同じでいいのかな?
「それで、もう少し大きくして私に似せて欲しいの」
えっ、もう少し大きく?
それに紅葉に似せて作るのか?
紅葉の話に、他の子供達も反応しだす。
もしかして、全員自分のミニサイズが欲しいのか?
まぁ、出来ない事も……無いか。
問題は、大きさだな。




