99. 森にもいた!
目がいっぱいの黒い塊? 毛玉?
なんと言えばいいのかちょっと迷う存在が、俺の周りをくるくる回っている。
これはどうしたらいいんだ?
それに森も気になる。
さっきから、目の前の存在から感じる呪いと似た気配を感じる。
もしかして、この子には仲間がいるのか?
「なぁ、君みたいな子が森にもいるのか?」
くるくる飛んでいた黒い毛玉が、俺を見る。
小さい目が全て俺に向く。
やっぱりちょっと気持ち悪いかな。
目の数は、1つがいいと思う。
「目は1つの方が良いぞ」
まぁ、こんな事を言っても……1つになった。
マジで?
「お前、目の数を自由に変えられるのか?」
『……うん』
ん?
どこからか声が聞こえたよな?
「話せるのか?」
『…………』
えっ、無視?
いや、戸惑っている感じか?
「俺の言っている言葉が理解出来る?」
『……んっ……』
微妙だな。
理解しているような、していないような?
「主、さっきから1人で何を言っているんだ?」
オアジュ魔神の、不思議そうな表情に首を傾げる。
「1人? この子と話していたんだけど。もしかして聞こえてないのか?」
そうなのか?
黒い毛玉に視線を向けると、目が増えていた。
なんで?
「俺にはまったく聞こえてないぞ。本当にこの……なんだ? 呪いの塊の声だったのか?」
呪いの塊?
そうか。
確かに、呪いの気配がするから「呪いの塊」と言われてもしょうがないか。
「あぁ、たぶん間違いないと思う。それにしても俺にしか聞こえてなかったのか」
あっ!
今、森から強い呪いを感じた。
「主、森で何かあったみたいだ」
飛びトカゲが警戒した様子で森を見る。
「あぁ、飛びトカゲは上から様子を見てくれ。俺は森へ行くけど、オアジュ魔神はどうする?」
飛びトカゲが空へ飛び立つのを見たあと、オアジュ魔神を見る。
「俺も一緒に行こう」
「分かった。あ~……君は自由に」
いや、ここに置いておくのは問題があるかもしれないな。
迷っていると、目の前をスッと黒い毛玉が通り過ぎ、森の方へ向かった。
どうやら一緒に行くらしい。
森に向かって走ると、どんどん呪いの気配が強くなる。
仲間や子供達は大丈夫だろうか?
「呪いの気配がこの先にあるな。それに、子供達や仲間もいるみたいだ」
オアジュ魔神の言葉に頷き、走る速度を速める。
それにしても、呪いはかなり濃いのに心は穏やかだ。
墓場の下にある呪いに触れると、心が乱されるのに。
「主、問題ないようだ」
「えっ?」
先に様子を見に行ってもらった飛びトカゲが戻って来る。
「でも凄い呪いの気配だけど」
「そうだが、見る限り、楽しそうだった」
楽しそう?
もしかして、呪いの元と遊んでいるなんて事は無いよな?
「子供たちの前に、この目の前にいる者より巨大なサイズの呪いの塊がいた」
大きいサイズ?
「その子も目がいっぱい?」
「あぁ、この子より多いように見えた」
それは、見たいような見たくないような。
「あれだ!」
えっ?
ちょっと待て、本当に巨大じゃないか。
50㎝ぐらいありそうだな。
しかも目が多い!
あっ、こっちを見た。
「あれは、怖い」
しかも目がこっちを見るたびに、呪いの波動? 風?
よく分からないが、濃い呪いの何かが俺に纏わりつく。
これ、本当に大丈夫なのか?
「主だ~! 見て、見て膨れた」
ん? 膨れた?
桜の言葉に首を傾げる。
「膨れたという事は、大きくなったという事か?」
桜の傍に立ち止まり、仲間達に問題が無いか見回す。
呪いの影響を受けている者はいないようだな。
よかった。
それに目の前に来て分かったが、呪いなのにどこか優しい気配を感じる。
「私が変化を見せてって言ったら、大きくなってくれたの」
桜の興奮した声に、首を傾げる。
桜は、どうしてこんなに興奮をしているんだ?
「可愛いでしょ?」
えっ?
桜から驚きの単語が出た。
これが可愛い?
まさか、見た目が気に入ったのか?
「えっと、何処が?」
「え~、だって真っ黒! それにふわふわの毛! そしてなんといっても目がいっぱい!」
……黒が好きなんだな。
そして目?
「桜は、ゴシック系が好きだからな」
風太の言葉に、ちょっと思考が止まる。
……ゴシック系?
あの黒を基調とした、個性的な?
と言うか、ゴシック系なんてどこで見たんだ?
「うん、大好き! 三つ目達が色々なファッションを見せてくれたんだけど、一番かわいかった」
三つ目か~!
そう言えばちょっと前に、「子供達にはそれぞれに個性がある。これからは、子供たちの個性に合わせて服を作るべきだ」と、なぜか俺に言ってきたんだよな。
そうだあの時、「子供たちの希望に沿った服を作ってもいいか」と聞かれて、「もちろん問題ない」と、許可を出したよな。
「つまり、これから桜はゴシック系ファッションになるのか?」
「そうだよ! 三つ目達に希望を言って、作ってもらっている最中なんだ」
そうか。
なるほど。
桜はゴシック系ファッションか。
まぁ、個性は大事だ。
それに、桜なら着こなせるだろう。
「服にね、いろいろ仕込んでもらうつもりなんだ!」
服に仕込み?
ポケットとかか?
「見て!」
桜の手の中にあるのは、銀色の細い棒。
長さは10㎝ぐらいだろうか?
これがどうしたんだろう?
「でっ、こう」
桜は見せてくれた棒を、素早く前に突き出す。
シュっという音が聞こえたと思ったら、棒の先から何かが飛び出した。
「針?」
きらりと光る先に、嫌な予感がする。
「暗器って言うんだって」
桜の言葉に、やっぱりと頭を抱えたくなった。
暗器は、隠し持つことが出来る小さな武器だ。
桜は服に仕込むと言った。
つまり、服に暗器を仕込むという事だよな。
この子達はいったいどこへ向かっているんだろう?
「えっと、それは必要か?」
止めた方が良いよな?
「えっ、駄目?」
ここで駄目と言うべきだろう。
でも、待てよ。
どうして暗器を持とうと考えたんだ?
「暗器はどういう時に使う予定だ?」
「もちろん、襲われた時だよ。身を守るための道具なんだって」
それなら大丈夫か。
身を守る物は必要だ。
「申し訳ありません」
ん?
慌てた様子で走って来たのはギルス。
獣人の国から来た騎士の1人だ。
「本当に申し訳ありません」
深く頭を下げて謝るギルスに少し戸惑う。
「いや、えっとなんの謝罪なんだ?」
「その、暗器の事を話したのは私なんです」
あぁ、そうなんだ。
「まさか、ここまで気に入ってしまうとは思わず」
チラリと子供たちを見る。
子供たちは、俺の視線にちょっと困った表情を見せる。
ギルスを見ると、耳が寝てしまっている。
「謝罪は不要だ。別に悪い物でもないし。使い方をしっかり学べば問題ない。皆、暗器での攻撃は身の危険が迫った時だけだぞ。むやみやたらに使ったら駄目だからな」
ギルスに言った後に、子供たちにとりあえず釘を刺しておく。
「大丈夫だよ。『身の危険を感じたら、これで足を攻撃ですよ』って、教えてもらったから」
翼の言葉に、子供たちが頷く。
「そうか。それなら問題ないだろう」
暗器の使い方を教えてもらったのか?
いったい誰に?
それに攻撃は足だけなのか?
「これを使えば、力を籠め過ぎて相手を瞬殺する事は無いだろうって。攻撃された場合は、どうして攻撃したのか聞き出す必要があるから、殺しちゃったら駄目らしいよ」
太陽が真剣な表情で暗器を見る。
えっ?
今、なんて言った?
「力の制御はかなり出来る様になりましたが、とっさの場合はまだ強すぎる場合が多いです。話を聞き出すためにも、暗器での攻撃をお薦めいたしました」
いつの間にか、一つ目のリーダーが隣にいた。
気配も音もさせず近付くのは止めて欲しいな。
ビビるから。
それにしても、生け捕りするために暗器を使うのか。
「力の制御って大変なんだな」
でも、瞬殺って。
…………忘れよう。
覚えていても良い事はない。
ふわふわ。
あっ、桜のゴシック系ファッションの事で黒い毛玉の事をすっかり忘れていた。
まずは、意思疎通が出来るか挑戦してみるか。




