97.光の民
「はぁ……」
オアジュ魔神に、オウから聞いた事を全て話してもらったのだが、呆れた。
オウの予想や仮定も含まれているらしいが、それでも呆れるには十分な内容だった。
呪いの始まり。
というか、「呪いに変化する力」をオウが確認したのは、神達が闇の魔力と光の魔力の入れ替えを行った数年後らしい。
そして「その力」が生まれてしまった原因は、間違いなく神だそうだ。
双子に触発されて、光の魔力を求めた神達。
どうやって闇の魔力を自らの体から追い出し、光の魔力で満たしたのか。
まぁ、双子の話があったので、もしかしたら同じ神を生贄にしたのではないかと考えた。
そして、まさにその通りだった。
生贄に選んだ神から、光の魔力を奪い、闇の魔力を押し付けていた。
最初の頃は多くの神達が、生贄を使う方法に反感を持ち「力の入れ替え」は危険だと禁止にした。
だが、力を求めた一部の神達を止める事は出来なかった。
密かに行われた「力の入れ替え」は成功し、光の魔力、闇の魔力だけを持つ神達が生まれた。
だがここで、予想外の事が起こった。
闇の魔力だけになった神達が、力を暴走させ次々と死んでいったのだ。
双子はどちらも生きていた。
だから、光の魔力を手に入れた神達にとってそれは大きな誤算だった。
オウは、「赤子だったから、入れ替えられた力が弱く対応できたのだろう」と予想したそうだ。
この時、亡くなった神達をしっかり弔えば「呪い」に変化する力は、生まれなかったのかもしれない。
だが、神達はそれをしなかった。
理由は、「力の入れ替えは禁止行為だから、弔えば外部に漏れる」だったそうだ。
正直、全く意味が分からない。
なぜなら、密かに弔う事は出来たはずだから。
おそらく力さえ手に入れば、生贄にした神達がどうなろうと興味が無かったのだろう。
だから神達は、生贄にした神達をある世界に捨てた。
その世界は、力加減が上手く出来ずにバランスが崩れた「失敗した世界」。
失敗した世界は、いずれ形を崩し消滅してしまう。
神達は、生贄にした神達を完全に消し去りたかったようだ。
だが消滅までには時間が掛かる。
神達は失敗した世界に何重にも結界を張り、その世界を周りから完全に隠した。
そして、「力の入れ替え」が行われる度に、不必要となった神を捨てて行った。
オウは、生きていた神達も捨てられた可能性があると言っていたらしい。
そして2年ほどで、その世界は多くの神の亡骸と共に消滅した。
だがその後、神の住む世界に、正体不明の力が突然現れては消えるという現象が起き始めた。
突然現れる力はとても弱く害は無かったそうだが、神の子供達はその力を異常なほど怖がったらしい。
そのため、神達は自分達の住む世界に力が侵入しないように、結界を張った。
力の出現は無くなり、次第に力の事は忘れられていった。
だが、約5年後。
オウが見つけた記録では、正体不明の力は再度出現している。
そして新しく出現した力は、以前より力が強くなっていたと書かれていたそうだ。
オウは、この力が呪いの始まりだと思っているらしい。
そして力が強くなった原因は、「力の入れ替え」によって増え続けた生贄ではないかと、オアジュ魔神に話したそうだ。
この辺りの記録は見つける事が出来ず、想像の域を出ないらしい。
でも、「力の入れ替え」をした神達の力が急激に上がったという記録は見つけたそうだ。
それを知った、他の神がどういう行動をとるか。
「考えるまでもないだろう」と、オアジュ魔神は嫌そうな表情をした。
オウは、生贄になった神達はいずれ死ぬのだからと、早々に処分された可能性があるとも言ったそうだ。
その話を聞きながら、「ありえるな」と思った。
神という存在は、聞けば聞くほど自分勝手で横暴だ。
自分のために誰かが被害にあう事に、何の痛痒も感じない。
だから、邪魔だと思った神達は間違いなく処分されただろう。
他にもオウは、「呪いの世界」があるのではないかと仮定しているそうだ。
そして多くの魂が被害にあい負の感情が高まると、その場所に飲み込まれるのではないかと。
「多くの魂か」
墓場の下にある、暗い世界を思い出す。
この世界の為に、いったいどれくらいの者達が被害にあったのか。
この世界も、急に「呪いの世界」に飲み込まれたりするんだろうか?
「あっそうだ。俺もオウから聞いて驚いたんだけど、『力の入れ替え』が行われた頃は、神達は『光の民』と、呼ばれていて神ではなかったらしい。びっくりだよな」
えっ、光の民?
「まぁ、光の民と言われていた時もかなり特殊な存在だったらしいけど。周りから畏怖の念を抱かれていたそうだから。まぁ、そのせいで自分達を特別な存在だと思い込んだんだろうな。力を求めたのも、自分達をもっと特別な存在にしたかったからじゃないかって、オウが言っていたよ」
オアジュ魔神の言葉に、飛びトカゲと黙り込む。
神が神ではなかったなんて。
……まさか、今のような力を得たのは……それは無いと思いたいが。
「今の神になるまで、どれだけ被害を出したのかオウでも推測できないって」
やっぱり。
周りを犠牲にしてきたのか。
「そうそう、神と名付けたのは双子の父親らしい。奴は光の民の中でもかなり力が強く、特別な存在として仲間からも崇められていたそうだ。双子が誕生する前には『神』を作ったと言っていたそうだ。まぁ、父親は子に殺されているから、実際に『神』と言い出したのは別の光の民だろうけど。きっかけは双子の父親だ」
バキバキバキ。
「「えっ?」」
森から響く、木々の折れる音に視線を向ける。
「追いかけっこって、凄いんだな」
いや、追いかけっこが凄いのではない。
それをやっている仲間達や子供たちは、異常に強すぎるんだ。
というか、今……木の折れる音がしたよな。
「森の大木が折れたのか?」
あの大木は、俺にはなんの問題も無かったが、かなり強度のある木らしい。
それこそ、コアが攻撃しても飛びトカゲが攻撃しても折れないぐらいには。
それほど強度のある大木の、折れた音が聞こえた。
何があったんだ?
ボコン。
「何かあるな。行こう」
不穏な音に立ち上がると、すぐにリビングから庭に出る。
ふわり。
「えっ?」
目の前をよぎった物に、立ち止まり視線を向ける。
飛びトカゲもオアジュ魔神も、不思議そうな表情で目の前に浮かんでいる物を見る。
ふわり、ふわり。
「飛びトカゲ、これが何か分かるか?」
「いや、分からない。ただ……呪いだと思う」
飛びトカゲの言う通り、目の前でふわりと浮いている物から呪いの気配を感じる。
ただ、なんというか……拳ほどの、ふわふわした毛をもつ塊。
どことなく、昔見たあるアニメに登場する物を髣髴とさせる姿だ。
呪いの気配を纏っているが。
ふわり、ふわり、ふわり。
これは、どうしたらいいんだろう?
もしかして、この世界を呪いの世界に飲みこむための偵察とか?
それなら……どうするべきなんだ?
「えっと、どうしたんだ? ここに用事があるのか?」
俺は馬鹿か?
何を聞いているんだ!
ギョロ。
「うわっ」
ふわふわの塊から目が……小さい目がいっぱい出て来た。
可愛いのが一気に不気味になった気分だ。
それに、呪いの気配が濃くなったな。
怒らせたとか?
……どうしよう。
「主、どうする?」
オアジュ魔神の言葉に、肩を竦める。
「ごめん、全く分からない。でも……」
そう言えば、呪いの気配はするけど攻撃的な気配は無いな。
しかも、小さい目がちらちらと俺を見ていないか?




