96.弱くても浄化。
「「終わった~」」
全ての花を植えた達成感に、オアジュ魔神と叫んでしまう。
花を植えるだけなのに、疲れた。
「結構な数の花だったな」
そう、原因は花の数。
「そうだな」
箱の中にあった花は、見た目よりも多かった。
おそらく300輪以上はあったような気がする。
「あの小さい花にやられたな」
力無く笑うオアジュ魔神の言葉に頷く。
「あれは予想外だったな」
箱の中で咲いている花は、パッと見た感じ100輪ぐらいに見えた。
が、花を植えていくと、その下から葉っぱに隠れるように咲く小さな花が見つかった。
その花は、死者の花と同じ形をしていたが、大きさが違った。
上の花と同じように浄化の力を持っていたので、土に植える事にしたのだが……葉っぱの下には思った以上の花が咲いていた。
「そう言えば、死者の花には色々な大きさがあるんだな」
地下3階で咲いている死者の花は、同じ大きさに見えたけどな。
「最初に植えた花の大きさが、普通の大きさなんだけど」
んっ?
という事は、大きさの違う死者の花は珍しいのか?
「この世界だけの、特異性かもしれないな」
特異性?
それって、この世界だけに見られる特殊な物って事だよな。
花の色の変わり方に続き、大きさも特殊か。
最初に植えたのが普通の大きさという事は、俺が掌を広げたぐらいなのが普通なんだな。
で、小さいのは、一回り小さいぐらいから半分ほどの大きさだったよな。
まぁ、大きさが違ったぐらいでは死者の花の優美さは失われてなかったけど。
落ち着いて考えても、死者の花は綺麗だよな。
真ん中にある白く光っている石も綺麗だし。
その石を守るように咲く花弁も、変化の後だから赤くはないけどどんな色でも綺麗だった。
苦しみや憎しみから生まれる花だとは、やっぱり思えないよな。
「お疲れさま~」
妖精の気の抜けた声に、つい笑みが浮かぶ。
疲れていても妖精が周りを飛ぶと、ふっと体が軽くなるんだよな。
妖精が、周りの空気を浄化するからなのかな?
「おい、主! あれ!」
オアジュ魔神の焦った声に、視線を向ける。
彼の視線の先には、花が詰まった箱が並んでいる。
特に、箱に変化が起きた様子もないため、首を傾げる。
「どうしたんだ?」
「あれ? 見間違いだったのかな? 今、光ったように見えたんだけど」
光った?
花を植えた場所か?
それとも他の……箱の中の花とか?
「「あっ!」」
確かに光った。
ただ、光った時間が短かったので、箱が光ったのか中にある花が光ったのか分からなかったが。
「さっき言っていたのは、この光の事か?」
「そうだ。見間違いでは無かったんだな」
オアジュ魔神と光っていた場所に行く。
「この箱だよな?」
「あぁ。その箱と、たぶん隣の箱も一緒に光っていたと思う」
箱に変化はない。
中にある花を確認するが、色に変化などは見られなかった。
まぁ、そんな簡単に浄化できるわけがないよな。
「あの光が、浄化の光なんだよな?」
オアジュ魔神の言葉に頷く。
「間違いなく、浄化の光だ」
光は淡く一瞬だったのだが、確かに浄化の光だった。
あの光り方を見る限りは、浄化の力は弱いだろう。
でも、弱くても浄化だ。
もう一度、箱の中の花を見る。
少しでも苦しみが無くなるように、負の感情が薄まればいいな。
「頑張ってくれよ」
目の前にある箱を、ゆっくりと撫でる。
「やっぱり撫でるぐらいだと、攻撃はされないんだな」
箱から手を離して、箱に触れた指先を見る。
箱の中を調べようとすると体が乗っ取られそうになって、浄化をすると指先にじんじんとした痛みが残るんだよな。
最初に箱の中を浄化した時は、乗っ取られそうになった時のしびれが残っていて気付かなかったけど、結構しつこくじんじんしてたんだよな。
まぁ、ヒールで治ったけど。
「どうした?」
「いや、なんでもない」
オアジュ魔神が不思議そうに俺を見るが、首を横に振る。
「さてと、家に戻ろうか」
花を植え終わったから、ここにいても出来る事は無い。
「あぁ」
妖精に無理をしない程度で見回りをお願いする。
「蜘蛛達やアリ達にもお願いするから、無理をする必要はないからな」
「分かった~」
妖精を撫でると、地下神殿に飛びそのまま家に戻る。
そう言えば、何かを忘れているような気がするな。
なんだろう?
オアジュ魔神を見る。
彼と話している時に、詳しく聞きたいと思ったような……。
「あっ! 『神が作りだす呪い』について聞きたかったんだ」
俺の急な言葉に、神妙な表情をするオアジュ魔神。
「話すのはいいが、オウから聞いた話のほとんどが『おそらく』という予想なんだ」
つまり本当かどうか分からないという事か。
でも、調べたうえで出た結果だろうから、それなりに信用できるはず。
「それでも話して欲しい。呪いに関する情報が少なすぎるんだ」
「分かった」
どんな情報でもいいから、とにかく集めないとな。
墓地の下、核の周辺を覆う呪いの事なんだから。
リビングに入ると、飛びトカゲが寝そべっていた。
他の仲間は全て出払っているようだ。
珍しいな。
「飛びトカゲだけなのか?」
「あぁ。今、森で壮大な追いかけっこをしている」
壮大な追いかけっこってなんだ?
規模が大きい追いかけっこという意味になるけど……森の中だからか?
まぁ、広い方が楽しく遊べるだろう。
でも気になるのは、安全性だ。
「森の中で遊ぶのは、危険じゃないか?」
ある程度の危険ならいいが、森には魔物がいるからな。
「森の中だから少しは危険だろうけど……あいつ等だからなぁ」
飛びトカゲの言葉に、まぁ確かにと頷く。
危険なのは、森に住む魔物達の方かもしれない。
……巻き込まれないように、逃げ切ってくれ。
「それにしても、なぜ追いかけっこなんだ?」
庭に視線を向ける。
あれ?
獣人の騎士達もいない。
仲間や子供たちのスリル溢れる特訓には、今まで参加はしていなかったのに。
「2チームに分かれて競っているんだ。勝った方が、負けた方の今日のお菓子を半分貰えるそうだ」
勝利品はお菓子なんだ。
賭ける物は可愛らしいな。
「今日の壮大な追いかけっこには、獣人の騎士達も参加しているんだな」
俺の言葉に、飛びトカゲが頷く。
参加は自由だからいいけど、大丈夫かな?
「彼らは、フェンリルとペアで参加している」
フェンリル達がフォローしているのか。
それなら、大丈夫か。
「それより2人は、どうしたんだ?」
飛びトカゲが俺とオアジュ魔神を交互に見る。
そう言えば、2人きりというのは珍しいかもしれないな。
「少し話があって」
オアジュ魔神に椅子を勧めると、すぐに一つ目達がお茶とお菓子を用意してくれた。
それにお礼を言って、お茶を飲む。
少し休憩をしてから、オアジュ魔神を見る。
「話してもらえるか?」
「あぁ、飛びトカゲはいいのか?」
「あぁ、問題ない」
俺とオアジュ魔神のやり取りに首を傾げる飛びトカゲ。
「オウ魔神という者が、『神が作りだす呪い』について研究をしているそうなんだ」
「神が作り出す呪い?」
不思議そうな飛びトカゲに頷く。
正直、俺もどんな呪いなのか分からないので、頷く以外に応えようがない。
俺と飛びトカゲの視線がオアジュ魔神に向く。




