95.異なる変化
「あ~!」
「うわっ」
ビックリした。
大声をあげた妖精を見ると、箱の上からこちらを見ていた。
ジッとしているので、首を傾げていると。
「寝てしまったなんて」
あぁ、なんだ。
大きな声を上げるから、もっと深刻な事があるのかと思ったじゃないか。
「疲れていたんだろうから、気にしなくていいぞ」
ショックを受けた表情でぶるぶる震える妖精の姿がおかしくて、笑えてくる。
いや、悲愴感を漂わせているのだから、笑ったら駄目だ。
「ぷふ~」
「ぷっくくくく。なんだよ、その音は」
妖精の口から零れた声に、我慢が出来ずに笑ってしまう。
寝てしまったぐらいで、そこまで打ちひしがれなくてもいいのに。
「あれって、妖精だよな?」
オアジュ魔神が、困惑した表情で妖精を見つめる。
「あぁ、妖精だけど。どうしたんだ?」
そう言えば、この妖精は普通の妖精っぽくないんだったな。
普通の妖精を知らないので、この妖精がどれほどずれているのか分からないけど。
「まぁ、小さい事は気にするな」
「えっ、小さい事なのか? 俺が知っている妖精とは全く違うんだが。というか、襲って来ないのか?」
「来ないから大丈夫だ」
妖精を見たら、最初にそれを心配するのか。
普通の妖精には、絶対に会いたくないよな。
そう言えば妖精も、今の自分の状態に首を傾げていたっけ。
妖精を見る。
寝起きだからなのか、先ほどよりふらふらと空中を彷徨っている。
その姿からは、襲って来る姿は想像できない。
というか、あんなふらついた状態で襲えるのか?
無理だろう。
「まぁ、妖精にも色々いるんだよ。きっと」
「まぁ、俺も全ての妖精を知っているわけではないからな」
オアジュ魔神の言葉に頷く。
「寝るつもりは無かったんです。ただ、箱の中の花を見ていたらふわふわっとしてきて、ぽかぽかになって、気付いたら寝ていました!」
ふわふわ?
ぽかぽか?
気持ちよく寝られたという事か?
「気にしなくていいから」
ふわふわの原因は、もしかして香りか?
箱は、しっかりと蓋は閉まっているようだな。
という事は、香りが原因ではないか。
「蓋を開けても、問題は無いか?」
「あぁ、大丈夫だ。開けるよ」
オアジュ魔神の言葉に頷くと、箱の蓋に手を伸ばす。
スッと蓋を開けると、ふわりと香ってくる優しい香り。
本当にいい香りだよな。
「これが、変化した死者の花?」
オアジュ魔神の言葉に首を傾げる。
どうしたんだろう?
「何か問題でもあるのか?」
「色の変化が、俺の知っている変化とは違うみたいだ」
マジか。
「どう違うんだ?」
「色が変わると言っても、色が薄くなっていく変化なんだ」
薄くなっていく?
箱の中の死者の花を見る。
薄くなっているというより、完全に色が変わっている。
これって、大丈夫だよな?
「それと、癒しの香りは近づかないと分からないはずなんだけど……近づかなくても香っているよな」
少し離れた所からでも、気付くぐらいの香りだな。
というか、この優しい香りは「癒しの香り」と呼ばれているのか。
確かに、香りを嗅いでいると気持ちが落ち着くもんな。
「もしかしたら、妖精が寝てしまったのは花の香りのせいかもな」
香りに包まれていると、凄い安心感だもんな。
って、のんびりしていたら駄目だったな。
「オアジュ魔神の知っている変化後の死者の花と、箱の中にある死者の花は少し違うようだけど、植えても大丈夫かな?」
問題があるなら無理だよな。
浄化の力に期待したんだけど。
オアジュ魔神が、箱の中から花を1輪摘み取る。
「いや、花に流れているのは浄化の力みたいだ。だから植えても問題ないだろう」
浄化の力?
花に触ったら分かるのか?
箱の中に手を入れ、花に触れる。
触れた瞬間からふわりとした暖かな物が手から流れ込むのが分かった。
「これか……香りも良いけど、花から伝わる浄化の力もいいな」
柔らかい物に包み込まれるみたいだ。
「本当に気持ちがいいな」
オアジュ魔神の手の中の花を見る。
パチン。
「「あっ」」
彼の手の中にあった花が、音と共に消える。
それは本当に一瞬の出来事で、暫く唖然としてしまった。
「あっ、痛みは? 怪我は?」
あの音は、花が弾けた時に鳴る。
花を手に持っていたから、怪我を負っているかもしれない。
「大丈夫。ほらっ。赤くもなっていないし、傷も無いから」
オアジュ魔神の手をじっと見るが、彼が言うように赤くもないし傷も無い。
良かった。
ホッとしたら、消えた花の事を思い出す。
早く植えないと、全て消えてしまうかも。
「オアジュ魔神。花を植える時の注意点は?」
どこに植えようかな?
見渡した地下4階は、箱が並んでいてあまり植える場所が無いな。
箱と箱の間になら植えられるかな?
「特にないけど。あっ、花は1つ1つ別の場所に植える方が良いから」
花を1ヶ所に集めて植えるのは駄目という事だな。
「分かった」
まずは穴をあけるか。
あっ、道具も無いのにどうやって?
「魔法で穴をあけられるかな?」
花の入っている箱と箱の間を見る。
「花を植えられるぐらいの穴なら、問題ないかな」
とりあえず、土の状態は……ん~あまり良くないな。
「硬いな」
柔らかい土だったら、手で小さな穴ぐらいはあけられるのに、この土では無理だな。
「どういうイメージしたら、土に穴があくかな?」
大きな穴をイメージしないように注意しないと。
まずは手の下にある土が柔らかくなるイメージ。
畑の土を思い出せばいいから、楽だな。
そして、小さな穴をあけて。
うまくイメージ出来たな。
「穴!」
いや……なんというか、もっと言いようがあったような。
まぁ、理想的なサイズの穴があいたからいいか。
箱から、花を1輪だけ摘み取り穴の中に入れ、土をかぶせる。
良し、1個目完了。
この調子でドンドン植えていくか。
ふわっ。
「ん?」
花を植えた場所の両サイドにある箱が、微かに光ったように見えた。
「今、光ったよな?」
あまりに微かな光だったので、傍にいるオアジュ魔神に聞く。
「あぁ、光ったみたいだな」
彼も見たので、間違いないだろう。
光ったという事は、何かが箱に起こったという事。
花から感じた浄化の力を信じよう。
「よしっ、全部植えよう」




