80.感化は駄目。
「ふぅ~、今日は終了」
地面から手を離して、そのまま寝っ転がる。
今日の浄化でも、全く手ごたえなし。
アイオン神がくれた魔超石によって、浄化範囲は広がった。
でも、一瞬でまた闇に覆われる。
聞こえてくる呪詛も変化なし。
疲れたな。
目を閉じると、一瞬で闇に覆われた空間を思い出す。
まるで、俺の行いが全て否定されたような気分になる。
「意味があると信じたいけど」
目を開けると、青空が広がっている。
地下なのに、青空に草原。
不思議な場所で、とても落ち着けるのに、ここは墓地。
なんとも言えない気分にさせられるな。
「そういえば」
この頃、気になる事があるんだよな。
起き上がって、さっきまで手で触れていた場所を見る。
「気のせいだと最初は思ったけど」
呪詛とは違う声が、聞こえるんだよな。
何を言っているのかは一切分からないけど、呪いの言葉では無いと思う。
俺の願望が、幻聴を聞こえさせているのか?
……あの呪詛を聞いていると、ありえそうで怖い。
でも、本当に聞こえる気がするんだ。
地面に手を伸ばす。
あと少しで触れるのだが、躊躇してしまう。
聞こえてきた声が呪詛では無いと確かめたい。
でも、またあの呪詛を聞くのかと思うと憂鬱になる。
……確かめたいが、呪詛を聞くのはつらい。
「明日にしよう。明日浄化をする前に、聞こえてくるか確かめよう」
少し慣れたとはいえ、きついからな。
「ごめんな。明日、頑張るよ」
『……』
えっ?
慌てて、扉となっている地面に視線を向ける。
扉は、閉まっている。
それはそうだろう、触れていないのだから。
でも、今聞こえた。
何を言っているのかは、聞こえなかったが。
でも、確かに聞こえた。
「これがいい方向に向く兆候なのか、それともこの世界の終わりが近づいた兆候なのか。……いい兆候になってくれると嬉しいよ。明日も宜しくな」
魔力が戻っている事を確かめ、地下神殿に戻る。
地下神殿にある建物を目にした瞬間、安堵のため息が漏れた。
「あ゛~……逃げてしまった」
この世界が崩壊し、仲間達が死んでいく姿を想像してしまった。
絶対に、回避したいと思っている未来。
でも、あの呪いを見ていると、自分が凄くちっぽけな存在だと気付かされる。
助けたいのに、助けられない。
思いだけでは助けられない。
もっと俺に力があれば助けられるのに、いっそ滅んだ……ん?
「あぁ~、しっかりしろ。呪詛にガッツリ感化されている!」
時々、凄く暗い思考に陥ってしまう。
呪詛の影響だと思う。
気持ちをしっかり持たなければ。
バチン。
「よしっ」
勢いよく頬を叩いて気合を入れる。
……ちょっと勢いよく叩き過ぎたな。
「痛い……ヒール」
俺の変化に敏感に反応する岩人形達に、先ほどの表情も腫れた頬も見せられない。
頬を触って、痛くないか確かめる。
うん、大丈夫だな。
「帰ろう」
目を閉じて家を思い出すと、体がふわっと浮いたような感覚に襲われる。
それが収まり目を開けると、家の玄関前に到着。
「ただいま」
「お帰りなさい!」
ん?
バッチュ?
なぜ、今日はハチマキ姿なんだ?
これは、訊いた方が良いのか?
あっ、訊いて欲しそうだな。
「どうして今日はハチマキなんだ」
「気分だから」
……それだけ?
まぁ、気分は大事だな。
「そうか。似合う……な」
いや、本当によく似合うな。
「可愛いよ」
うん、とっても。
「へへっ。そうだ。主に相談があって、今時間は大丈夫?」
相談?
バッチュが俺に相談を持ち掛けるのは珍しいな。
いつも、事後報告なのに。
「いいぞ。どうした?」
「ロープを移動させる気はないの?」
ロープ?
人の国に置いてあるんだけど、何かあったのか?
「どうして?」
「ロープを狙っている奴らが現れたんだ。ロープがすぐに気付いて、対処したから大丈夫だったけど。今回、動いた奴ら以外にも狙っている奴らがいるから、安全じゃないんだ」
「そうか。とうとう問題が起こったか。狙った奴らは何をしようとしたんだ?」
「ロープを何処かへ持って行こうとしたみたい」
いつか何らかの問題は起こると思ったけど、ロープを持って行こうとする者が現れたか。
俺の予想では、壊しに来ると思ったんだけどな。
「国も安定してきたし、そろそろ移動しても大丈夫かな?」
以前にロープを移動させようと思った時に、森の中にいた獣人達の会話がたまたま聞こえたんだよな。
それが「人の王は、森の神に認められている。それは、あの魔石が今も人の国にある事から理解できる」と。
最初は、何を言っているのか分からなかった。
あの魔石が、どの魔石なのかもわからなかったし。
でも、それがロープの事だと気付き、ロープの存在が不安定な人の国を支えていると分かったら、移動はさせられなかった。
それにロープの移動は、人の国が安定してからでも遅くない。
だから、そのまま預けていたんだよな。
「国は大丈夫。ロープの移動の前に、少し掃除をする予定だから」
掃除か。
それなら安心だな。
「分かった。ロープを移動させようか」
でも、何処に移動させようかな?
家の中でもいいけど、この世界全体に影響を及ぼせる存在だからな。
「バッチュ。ロープは、何処へ置くのが良いと思う?」
俺の質問にバッチュが俺を見る。
「地下神殿はどう? あそこは、主の許可が無い者は入れないから、とっても安全な場所だ」
地下神殿か。
「それにあそこには、この世界を動かしている魔石が置いてある。この世界を守っているロープを置くのに、ふさわしい場所だと思うよ」
確かにロープを置くのに、いい場所かもしれないな。
妖精に、見守ってもらえるし。
「そうだな。あっでも、ロープに許可をもらってからだな」
移動する事と、移動先が地下神殿で大丈夫か、訊かないとな。
「それは、大丈夫だよ」
「えっ?」
バッチュを見ると、腰に手を当てて胸を張っている。
「既に確認済み! あとは主の許可をもらうだけなんだぁ~」
マジか!
バッチュは本当に有能だな。
「そうか。あっでも、ロープがいきなり消えたら、間違った方へ考える者が出てきそうだな」
森の神に見捨てられたと騒ぐ者が出てくるかもしれない。
どうしたら、防げるかな?
「それなんだけど、主からの言葉があれば防げるのかなって思うんだ」
「俺からの言葉?」
「そう、例えば『これからもいい関係を築いていきましょうね』という事を伝える事で、見捨てたとか、怒りを買ったと誤解される事は無いと思う」
あぁ、それはいいな。
「そうだな。そうしよう」
「じゃあ、まずはロープと連絡とって、人の王に会って来るね。あとは、ロープに悪さをしようとした奴らを吊るし上げて」
それは精神的に?
それとも物理的に?
「頑張って」
ロープに手を出そうとしたんだから、それくらいは覚悟の上だろう。
だって、「森の神」の仲間に手を出そうとしたんだから。
「任せて!」
元気に玄関から出ていくバッチュ。
「みんな~、行くよ~。親蜘蛛さん、隠れ家から奴らを引っ張り出すから、確保は宜しくね!」
「「任せてくれ」」
「あとは、証拠を持って~。ふふふふふっ」
……不気味な笑い声が聞こえたんだけど、抑えるように言った方が良いかな?
でも、あの子はむちゃな事はして来てないし。
「信じよう」
さてと、バッチュがあの状態なら、ロープの本体がここに来るのは今日の夕方か遅くても明日中。
まずは置いておく場所を、きちんと準備しようかな。
「私がお作りします!」
「うわっ」
声に視線を向けると、一つ目のリーダーがいた。
何処から出て来たんだ?
「ロープの本体を置いておく台座ですよね」
「あぁ、そうだ」
「すぐに作りますので、地下神殿に行くのは少しお待ちください。では」
「あぁ、ありがとう」
嬉しそうに去るリーダーを見送る。
いったい、どこに隠れて話を聞いていたんだ?
まぁ、いつもの事か。




