79.主の望みを叶えるために。
ー魔幸石 ロープ視点ー
こっそり覗いた主の様子に、ため息が零れる。
今日もまた、墓地へ行ったのだろう。
顔色がかなり悪い。
しかも、魔力がかなり不安定だ。
それだけではなく、闇の魔力や神力に似た力までが不安定になっている。
心配だなぁ。
でも「大丈夫なの?」と聞いても、「大丈夫」としか返ってこないし。
あぁ、一つ目のリーダーが心配そうに主の後をこっそり付いて回っている。
あの子も心配性だからね。
この世界は、神達のせいで色々と不味い状況になっている。
正直、奴らの責任なのだから奴らに解決させればいいと思う。
でも、奴らの事だ。
問題を抱えているこんな世界は、一瞬で滅ぼそうとするだろうな。
ただあの呪いを見る限り、それでは解決しないような気がするけどね。
まぁ主には、この世界を神に託すなんて考えは一切ない。
自分で守ろうと必死だ。
でも、頑張り過ぎ。
もう少し俺や神獣である龍達を頼ればいいのに。
でも、主の性格だと無理なんだろうな。
だから俺は、勝手に動くと決めた。
そのためには、魔幸石の力をもっと自由自在に操れるようになる必要があった。
そして頑張った結果、神々と繋がれたり神達が治める空間なら自由に意識を飛ばす事が出来たりと、便利に使いこなせるようになった。
うん、上出来だ。
「さてと、今日はどの神と繋がろうかな?」
神に繋がると、記憶装置に記憶されている記憶を勝手に見る事が出来る。
しかも、力の揺れさえ抑えられたら神にはばれない。
なんて最高の力なんだろう。
これで、主が探している呪いの事を調べる事が出来る。
「あっ、こいつは!」
時のフィオ神が、要注意だと警戒している神だ。
神力が多く濃いので、かなり大変かもしれないけど今日はこいつにしよう。
今までは力の操作に不安があったから、このレベルの神には挑戦していなかったけど、自信もついたし大丈夫。
それに、これまで覗いた神達の記憶の中には、呪いについての情報が少ないんだよな。
もっと上位の神の記憶を探らないと。
「さて、頑張ろう!」
あちこちに飛ばしていた意識を、狙いを定めた神に集中する。
そしてゆっくりと力を操作し、神に近付ける。
その時に、神の持っている神力と魔幸石の力を同調させる必要がある。
実はこれがとっても重要。
同調率が高いと、神に気付かれにくいようなのだ。
焦るな。
焦るな。
「よしっ。繋がった。あとは神力と同調させて……よしっ!」
良かった。
さすがに力の強い神だけある。
同調させるのが大変だった。
あとは、この神が操作する記憶装置の中身から呪いに関する情報をコピーするだけ。
「キーワード、呪い。全て。コピー。開始」
次々流れ込んでくる情報を、独自に作った記憶装置にコピーさせていく。
主の記憶装置を真似て作ったので、自慢の装置だ。
『ロープ。ロープ。聞こえますか? 一つ目のサブリーダーです』
やばいな。
声を掛けられると、力が揺れる。
どうしよう。
『もしかして、神と繋がっていますか?』
リーダーから聞いたのかな?
一度、神との繋がりを切った方が良いかな?
『どうしよう返事が無い。主の体調の事で、確かめたい事があったんだけど。やっぱりギフトが影響しているのかな?」
ギフト?
おっと、力が揺れそうになった。
落ち着け。
『あっ、リーダーが神と繋がっている時に声を掛けると、力が揺れるって……ごめんなさい』
魔幸石の力を9対1に分け、9割の力は神と繋がったままにして、残りの1割の力をサブリーダーに意識を繋げる。
コピーする速度が少し落ちるけどしょうがない。
『サブリーダー。聞こえていますね。力の揺れを防ぐために一方的に話すね。主が持っている勇者召喚のギフトですが、最近の主の調子の悪さとは無関係だから心配しないで。あれは神達のせいだから!』
あっ、ホッとした感情が伝わって来た。
良かった。
きっと最近の主の様子を見て、色々考えてしまったんだろうな。
『主はまた、神の問題に巻き込まれているんだ。本当に怒りを神にぶつけないのが、不思議なぐらい巻き込まれるよね。そうだ! この世界に様子を見に来る神達は、勇者召喚のギフトのせいだと思っているけど、それは違うからね。だって召喚の時に贈られたギフトは、主が自分の意思でギフトの力を抑えつけた時から、少しずつに変化して今では完全に変容しているから。だから、植え付けられた神への尊敬や敬う気持ちなど綺麗さっぱり無いんだ。なのに、神達に対して怒りをぶつけないのは、主が元々優しい人だったから』
もっと怒って欲しいんだけどね。
『その事を神達はもっと感謝しないと駄目だけど、全く分かっていないよね。主が望めば、神の力で生まれ神のために存在していると言われる龍達が、神達を襲う事だってあるのに。ちなみに、俺も思う存分暴れるつもりだから』
そう、望んでくれたらいいのに。
『でも、望んでくれないから出来ないんだよね。こっそりやろうかと思ったけど、止めた。バレたら、悲しむだろうから。怒ってくれるのはいいけど、悲しまれるのはつらいよね』
名前を呼ばれて、ため息とかつかれたら悲しい。
『そうだ。主の中にあるギフトをこっそり調べたけど、勇者召喚のギフトは1年以上かけて「守る」に特化した力になっていたんだ。あれには驚いたんだけど、その力こそが本来の勇者召喚のギフトだったみたい。最初に勇者召喚のギフトを作った神は、ただ純粋に星を守る力を与えたかったようだね。きっと主の「守る」という強い意志が、歪んだ勇者召喚のギフトを目覚めさせたのかもしれない』
主の力は、不思議なんだよね。
『それにしても、勇者召喚のギフトが変わらなければ世界がこれほど狂う事も無かったのに。勇者召喚のギフトが変わってしまったのは、いらない力や制限を付けた神至上主義達のせいなんだ。彼らは我ら魔幸石が生まれた時も色々と邪魔をしてくれたんだよ。最初に魔幸石を作ろうと言い出した神を殺したのも、神至上主義に狂った神だったし』
なんだか、愚痴になってしまったような気がする。
それにしても、今覗いている記憶装置は無駄な情報しかないな。
力の強い神だったから、もっと重要な事を記憶させていると思ったのに。
あ~時間の無駄だったか?
『あっ、力が揺れてしまった。離れよう』
すぐに繋がっていた神の記憶装置から、意識を切り離す。
「セーフ」
ちょっとホッとしながら、記憶装置から奪って来た記憶を確認する。
「何も無いのかな?」
それにしても、呪いの事を記億していない神が多すぎる。
どうしてだろう?
あっ、何かある!
『ロープ、声を掛けても大丈夫ですか?』
『ん? あぁ、もう大丈夫。えっと、なんだっけ? そうそう、主の勇者召喚のギフトは本来の形になって主の力になっているから、問題ないよ。だったね』
意識で繋がっている一つ目のサブリーダーから、なぜか楽しそうな雰囲気が伝わってくる。
『どうしたの?』
『主が凄い事がまたわかって嬉しいからです。重要な事を教えてくれてありがとう』
途中、不要な事もいっぱい話してしまった気がするけど役に立ったならよかった。
『皆に報告しに戻ります』
『分かった』
「ふぅ。さてと、今コピーした記憶をもう少し深く探ろうかな」
……あれ?
俺の本体に不穏な気配が近付いている気がする。
誰だ?
魔幸石の意識を、人族の王城に飛ばし、本体がある場所に向かう。
人が色々結界を張っているけど、相変わらず弱いな。
もっと強い結界を張らないと、魔幸石の力は感じられないよ。
「ん? 俺がいる場所を守っている騎士達が倒れている。中にいるあの爺さんは大丈夫かな?」
それにしても毎回思うけど、この建物は不便だよな。
意識を部屋から部屋に飛ばせないようになっているんだから。
「あっ、爺さんも倒れている」
ずっと俺を大切に研究してくれたんだよね。
……助けてもいいよね。
と言うか、この場所から移動させようとしているみたいだけど、拒否するから。
良し。
「『死ね』は、駄目だから『眠れ!』」
おっ、良い感じに不快な奴らが倒れたな。
あとは、この状況を外に伝えないと駄目か。
ん?
いいところに、孫蜘蛛を発見!
あっ、向こうも気付いた。
『ごめん、意識を繋げるね』
『大丈夫です。何があったんですか?』
『俺を無断で運び出そうとしたみたい、その黒ずくめの奴ら。バッチュに報告をお願いしていい?』
『分かりました。既にこの国にいるのですぐに報告して対応します』
『ありがとう』
さてと、俺は記憶をじっくり探ろう。




