77.まだ、分からない。
魔超石を手に取ると、ひんやりとした冷たさを感じた。
特別な石みたいだから、力を感じるかと思ったけど違ったな。
「浄化の増幅か。……あれ?」
何かおかしくないか?
なんで、こんな物を神達は作ったんだ?
「この魔超石だけど、どうして作られたんだ? これが必要になるような呪いがあったのか?」
魔幸石は、神達に必要だったから作られた。
まぁ実際に完成させたら怖くなって、成功した魔幸石を封印したけど。
「私もそう考えて、魔超石が作られるきっかけを探ったんだが、今のところ何も出てこない」
何も出てこない?
首を傾げると、アイオン神が1枚の紙を空中から取り出す。
「魔超石を作ろうとした時から、50年を遡って呪いに関する情報を全てチェックした。数人で調べた結果、複数の世界で呪いが発生した事は分かったが、通常の方法で収まっているんだ。だから、魔超石を作ろうとした経緯は不明だ」
不明か。
「魔超石は簡単に作れる物なのか?」
アイオン神を見ると、驚いた表情をしていた。
もしかして、かなり馬鹿な質問だったのだろうか?
「魔超石は、魔幸石の次に作るのが難しいと言われている物だ」
「そうなんだ」
「あぁ。魔超石は作り方が残っているのだが、成功させた神はまだ数名程度だ。私の知り合いでかなり神力の扱いに長けた者がいるが、彼ですら力が安定させられなかったからな」
簡単に作れる物では無いなら、やはり作ったのには何か理由があるはずだよな。
「浄化は、呪いを消す以外に使い道があるのか?」
首を横に振るアイオン神。
そうなると、やはり呪いの浄化のために魔超石は作られたって事だと思うんだけど……。
「色々調べていて、気になる記録を見つけたんだ」
アイオン神を見る。
「記録漏れの可能性もあるんだが、どうも気になってしまって。魔超石を作った神が管理している世界が、記録から忽然と消えているんだ」
消えた?
「実験していた世界のように消滅したという事か?」
「それも、あるかもしれない。ただその当時の記録があちこちに散らばっていて、集めるだけでもかなり時間が掛っているんだ。もしかしたら、記録が探せていないだけかもしれない。なんせ、膨大な記録だから欲しい物を見つけるだけでも大変で」
まぁ、記録の量はそうとうだろうな。
アイオン神の言葉に頷くと、先ほど空中から取り出した1枚の紙を差し出した。
「これは?」
「もしかして消えた世界が、まだあるかもしれないと調べたんだ。今のところこれだけが見つかった。本当に消えたのかは不明だけどな。神の名前と、世界の名前だ」
受け取った紙には、14柱の神の名前と世界の名前が書かれてあった。
「この中の誰かと、話をする事は出来ないか?」
「無理だな。1柱は魔神になったらしいが、それ以外の神達は、創造神が消滅させた」
創造神が消滅?
という事は、何か大きな問題を起こしたという事か。
「消滅させられた原因は?」
「記録では9柱が『狂った』、4柱は『敵』と書いてあった。長く生きた神には、よくある事だ」
狂ったに敵か、呪いとは関係なさそうだな。
「魔神になった者は?」
「それは魔界に聞かなければ分からないから、私では……あっ、今なら聞けるのか」
うん、聞けるな。
「オアジュ魔神に、俺から聞いてみるよ」
「不思議だな。魔界の情報が、簡単に手に入るなんて」
アイオン神が苦笑する。
「少し前なら、全く考えられない事だ。今思えば、どうしてあんなに魔界や魔神を拒絶していたのか」
拒絶?
アイオン神もフィオ神も、オアジュ魔神を拒絶してた印象は無いんだけどな。
……飲んでいたからか?
「悪いな。どれも中途半端な情報ばかりで。とりあえず翔に、魔超石を渡したかったんだ。無理をしているだろ?」
「大丈夫だ」
首を横に振る俺に、アイオン神が苦笑する。
「あっ、魔超石の事はロープに訊けば、何か分かるんじゃないか?」
魔超石を作った神達が、ロープである魔幸石を作ったんだから。
「魔超石の方が早い時期に作られたみたいだけど、何か分かるだろうか?」
ロープの方が後で作られたのか。
それだと、分からないかもしれないな。
でも、もしかしたらという事もある。
「とりあえず、訊いてみよう。ロープ。ロープ、聞こえないか?」
「「…………」」
無理かな?
「主? 呼んだ?」
良かった。
すぐに答えてくれた。
「ロープ。急に呼び出して済まない。訊きたい事があるんだけど、今は大丈夫か?」
「大丈夫だよ。それより、どうしたの? あれ? 主が持っているのは魔超石?」
知っていた!
「ロープは魔超石を知っているんだな?」
「えっ? うん、俺達を作った神達が作った兄弟石みたいなものだから」
兄弟石?
そんな考え方なんだ。
「魔超石が作られた経緯を知らないか?」
「…………」
あれ?
黙ってしまったか?
アイオン神を見ると、首を横に振られた。
「ロープ? 大丈夫か?」
「あっ、ごめん。昔の事だから、思い出すまでに時間が掛って。ちょっと待って」
「ごめん。ゆっくり思い出してくれていいから」
ロープも魔超石も、かなり昔に作られた物だ。
その時の記憶を思い出すんだから、時間は掛って当然だ。
「思い出した! 魔超石は、呪いの制御が出来なくなった世界を救うために作られたんだよ」
呪い!
「呪いを制御できなくなった世界があったのか?」
「そうらしいよ。俺を完成させた神達が、話していたから。えっと確か『やはりあの世界は呪いに、飲み込まれたようだ』って。他には『奴も一緒に消えている。魔超石では力が足りなかったのだろう』だったかな。あと『知られたら厄介だ』とか『消えてくれてよかった』とか言っていたと思う」
呪いに飲み込まれた?
それは、世界が消滅した原因か?
呪いが世界を飲み込む?
「アイオン神。意味が分かるか?」
「分からない。呪いが世界を飲み込むなんて初めて聞いた。今までの記録には一切そんな情報は載っていない」
「隠蔽したんじゃないか? 知られたら厄介な事になるから」
ロープが聞いた話から考えると、そうなるよな。
「そうだな。今よりも、記録設備が整っていない時代だったから。隠蔽は簡単ではなかっただろうが、出来たはずだ」
アイオン神が頭を抱える。
「大丈夫か?」
「……大丈夫だ。昔の神は今と違い、気高い存在だと思っていたんだ。それが違っただけだ」
「あぁ。それは、残念だったな」
どう言葉をかけたらいいのか、分からないな。
「知ろうとしなかった結果だ」
諦めたようにため息を吐いたアイオン神。
大丈夫かと見ていると、急に自分の頬をパチンと両手で挟んだ。
「よし。ロープから聞いた情報を元に、また調べてくるよ。隠蔽したとはいえ、完全に無かった事にするのは無理だ。きっと、何か痕跡が残っているはずだ。隠蔽された場所を探すのは得意だ」
そうなんだ。
「分かった」
「あと、魔超石は使ってくれ。ロープの話では、それほど力がある物ではないみたいだが、無いより良いだろう」
魔超石か。
「もちろん、ありがたく使わせてもらうよ。少しでも多く浄化したいから」
魔超石をぐっと握り締める。
呪いがこの世界を飲み込むかもしれないと分かった。
そのせいで消滅するのかもしれないと。
でもまだ、この世界は此処にある。
なら、出来る事をしていくだけだ。
アイオン神と一緒にウッドデッキに戻ると、庭の惨状が目に入った。
「凄いな」
アイオン神が、ウッドデッキや庭で寝ている仲間達を見て笑っている。
「そうだな」
まぁ、仲間達はいい。
よくある事だ。
ただ、仲間達に交じって獣人国の王エスマルイートもいるんだけど。
あっ、次男のエストカルトも発見!
明日も仕事だと聞いているんだが、彼らは大丈夫なのか?




