76.絶対に止める
一つ目リーダーの案内で3階へと向かうが、首を傾げてしまう。
3階に、話が出来るような部屋を作った覚えはない。
もしかして、知らない間に一つ目達が作ったのだろうか?
「ここです」
案内された部屋の扉を見て、動きを止める。
しばらく呆然としていると、リーダーが俺を見ている事に気付いた。
「えっと……」
リーダーと視線が合うと、もの凄い圧を感じる。
間違いなく、扉に施された装飾の事だろうな。
「凄いな、この木彫り。……これって、俺だよな」
そう、扉に装飾されていたのは俺だった。
まさか俺をモチーフにした木彫りが施されているなんて……恥ずかしすぎる。
最初の衝撃から復活したので、扉に視線を向ける。
正面から見た俺が、おそらく実物大で彫られている。
ただ、実際の俺より5割ほどイケメンだ。
「完璧でしょう?」
完璧って何が?
えっ、この部屋に今から入るんだよな?
ちょっと怖いんだけど!
というか、いつこんなのを作ったんだ?
相談してくれたら、全力で止めたのに!
「凄い…………愛されているな」
アイオン神を見ると、顔が引きつっているのが分かる。
「笑ってもいいぞ」
俺の言葉に、無言で首を横に振るアイオン神。
「そんな事をしたら、攻撃魔法の餌食だろう」
アイオン神がそっと、傍に立つリーダーを見る。
まぁ、確かに。
笑ったら、そうなるだろうな。
それよりも、入るか。
どうして、話をする場所を求めただけでこんな恥ずかしい思いをしないと駄目なんだ?
というか、この部屋の中はどうなっているんだ?
異様に心臓がドキドキとしているのを感じる。
まさか、部屋に入るだけでこんなに緊張するとは。
カチャリ。
そっと扉を開けて、中の様子を窺う。
……よかった、変な装飾は無い!
安堵に体の力が抜ける。
「執務室だったのか。落ち着きのある、いい空間だな」
アイオン神と一緒に中に入って、部屋の中を見回す。
「確かに、落ち着けるな」
何処かホッとする執務室だ。
「あっ」
アイオン神が天井を見て声を上げたので、つられて天井を見る。
「あっ」
次の瞬間、ちょっと意識が遠のいた。
まさか、天井だったとは。
「マジか」
天井には、俺が描かれていた。
なぜか煌びやかな服を着た俺が。
しかも魔法を発動させているのか、俺の周りが発光している。
というかなぜそんなきらきらした格好なんだ?
そんな恰好を今まで一度だってした事は無い。
せめて普通の服を……違う。
服じゃなくて、こんな物を作らないでくれ!
「………………似合っているぞ」
「嘘を吐くな」
本当に、なんでリーダーはこんな絵を描いたんだ?
「この部屋は、これからの事を考えて作りました」
これからの事?
リーダーを見ると、どこか満足そうな雰囲気を醸し出している。
「これから多くの方が主に会いに来るでしょう。その方々と話をする場所が必要だと思いました。そこで、主の偉大さが分かる部屋を作ったんです」
えっと、何を言っているのか分からないんだけど。
俺に会いに来るって誰が?
そして来た人を、この部屋に通すの?
羞恥心が凄いんだけど!
それに、この天井の俺を見ても偉大に感じる人はいないから!
「ただ、場所が気に入りません。3階はプライベートスペースなのでお客を招くのには不向きです。だから、1階を大きく改造しようかと皆で話し合っている所です」
新しく作るのか?
それだったら。
「次に執務室を作る時は、俺にも声を掛けてくれるかな? 俺の意見を反映して欲しいんだ」
なんとしても、俺を装飾に使うのを回避させて見せる。
絶対に止めて見せる!
心にその思いを刻みながら、部屋にあるソファに腰を下ろす。
疲れた。
酔いが一気に醒めたな。
「大丈夫か?」
アイオン神が心配そうに俺を見る。
それに無言で頷く。
別に攻撃されたわけでは無い。
いや、思いっきり精神面に攻撃を受けたけど。
しかもかなり効いたけど、リーダー達に悪気があったわけでは無い。
……無いよね?
「お茶をどうぞ」
リーダーがアイオン神と俺の前にお茶を置いて、部屋の隅に控える。
用意も完璧だし、俺や俺の周りに対する配慮も完璧……なんだけど。
どうして、時々おかしな方向へ暴走するんだろう?
特に俺に関する事になると、おかしくなるよな。
どうやったら止められるんだ?
……分からん。
「話を始めてもいいか?」
ちょっと苦笑しているアイオン神に視線を向ける。
「あぁ、悪い。呪いに関する事だよな」
「呪いというか魂の事なんだが」
魂?
「魂力を世界の力に転用した実験が、遥か昔に行われていた事が分かった」
アイオン神の言葉に、眉間に皺が寄る。
被害にあった者達が他にもいたなんて。
「ただ、その実験は本当に昔で、その実験に関わった神達は全て亡くなっていて話は聞けなかった」
神の言う、昔って俺では想像できないほど昔だからな。
でもまぁ、実験の記録が残っているだろう。
「実験の目的は、魂力を使い世界が維持できるかどうかを調べるためのものだった」
世界の維持。
この世界と同じだな。
「まぁ実験に関わった神達の多くは、魂を入れ替える方法を探していたようだけどな」
魂の入れ替え?
「前に話しただろう? 魂を癒すより、新しく作った方が神にとって都合がいいと」
「あぁ、聞いた」
「傷を癒すより、新たに魂を誕生させた方が簡単だし。何より、新しい魂だと神の意思が伝わりやすくて便利に使える」と言っていたな。
正直、聞いた時はムカついたものだ。
「神達は、戻って来た魂を効率よく消して、自分達に役立つ魂を生み出せる環境を作ろうとしたんだと思う」
やっぱりムカつくな。
「……そうか」
「だが実験は途中で中断されている」
中断?
「原因は、実験に参加した神々が突如として姿を消したからだ」
「えっ? 消えた?」
アイオン神を見ると神妙な表情で頷いた。
「消えた原因は不明。そして、実験のために作られた世界だが、神々が消えた10日後に消滅したと記録されていた」
実験を行っていた神々が消えて、世界が消えた?
実験に参加させられていた魂が、何かしたのか?
でも、魂にそんな力は無いよな?
「実験で使われていた魂達も、世界が消滅する2日前に消滅したとあった。この原因も一切分かっていない。全てが消えてしまったため、時間が進むにつれて、その実験や神が消えた事は忘れられていったようだ。ただ、『魂を世界の力にしてはいけない』という言葉は残ったから、長い間、魂を利用しようとする神達はいなかった。この世界が出来るまでだけどな。そうだ、魂を利用する事を禁止にしたから、魂が世界の被害者になる事は、二度と無い」
「そうか、良かった」
その決まりを破る神がいない事を願うよ。
「アイオン神の話を聞く限りは、この世界の呪いには役立ちそうには無いな」
「悪い。今、創造神に実験に関わった神達の事を詳しく調べてもらっているから」
「ありがとう」
アイオン神の言葉に頷く。
創造神まで協力してくれているんだったな。
「呪いについては、これを渡しに来たんだ」
これ?
アイオン神から、木の箱を受け取る。
箱を開けると、拳大の真っ白な石が出て来た。
「魔超石と呼ばれる物で、魔幸石を作った神達が作った物だ」
魔幸石はロープの事だよな。
ロープを作った神達の作った物。
「浄化の力を増幅してくれる力がある」
「そうなのか?」
本当なら嬉しい。
これで、もう少し浄化を強く掛ける事が出来る。
アイオン神を見ると、頷いてくれた。
「ありがとう。これは役に立つよ」
少しでも、あの苦しみを軽くしたい。




